『農村文化運動』 175号 2005年1月

〈むらづくり〉と地域農業の組織革新


[目次]

はじめに

I コミュニティの再生と地域農業の振興

秋田県立大学教授 佐藤 了

一 もっとも重要な課題としての「地域のエンパワーメント」

二 地域の個性を基盤に、農業を守り、コミュニティを住みよくする各地の動き

三 自律協同型の農村形成に向けて歴史的運動がはじまった ――「対抗力」の形成に通底するもの――

II 現代〈むらづくり〉の基本視点

一 内部循環型経済と実践的住民自治の確立 ――長野県栄村の取組みから

京都大学大学院教授 岡田知弘

二 都市・農村交流/グリーンツーリズム ――長野県飯田市下久堅柿野沢区の取組みから

飯田市エコツーリズム推進室長 井上弘司

三 生活文化/集落点検活動 ――山口県のルーラルガイドと集落点検活動の取組みから

山口県周東町教育委員・元山口県農林部参事 藤井チエ子

コラム・地域農業の担い手像は、柔軟に考えたい

農文協文化部

四 地域で次代を育む、地域に根ざした食農教育 ――鹿児島県串良町柳谷集落の取組みから

鹿児島県串良町・柳谷自治公民館長 豊重哲郎

III 〈むらづくり〉視点に立った「農政改革」論

山形大学教授 楠本雅弘

一 「農政改革」の一環としての米政策改革の先行実施

二 農政改革と「集落営農」 ――「集落営農」の政策的推進の論理――

三 〈むらづくり〉視点に立った地域形成と農業構想


はじめに

 「米政策改革大綱」のもと、米価の暴落、担い手不足のいっそうの進行、広範な農地の荒廃が心配されているが、今後、農業・農村はどのような進路をとればよいのか。本号では、どのような時代にあっても、そして情勢が厳しければ厳しいほど、「地域に力をつけること」が何よりも必要だという立場から、農村のコミュニティの再生・強化と地域農業の振興とを重ね合わせてとらえ、農村独自の自治力に依拠した「現代的な村づくり」の基本視点を考えてみたい。

   *

 第I部は、総論である。秋田県立大学の佐藤了教授に、「コミュニティの再生と地域農業の振興」と題して書いていただいた。佐藤教授は、長年の知己であるオランダ・ワーゲニンゲン大学のニールス・ローリング教授が、近年のグローバリズムの蔓延による困難のなかで取り組まれている世界各地のさまざまな農業の実践に検討を加えた結果、持続可能な農業の実現のためには、農業者の組織化や対話をつうじた教育・学習によるエンパワーメント(力づけ)の促進がもっとも有効であると結論していることを紹介。

 そのうえで佐藤教授自身、秋田県の二集落の農業を、産業的視点だけではなく、生活視点も入れ込んで分析し、コミュニティの形成こそ閉塞状況からの脱却をすすめる地域のエンパワーメントの原動力であり、地域農業革新の内発的な原動力であるとし、「自律協同型の農村社会」を不断に形成しつづけるような運動の展開が重要であると提起している。

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 つづく第II部「現代〈村づくり〉の基本視点」では、四人の論者に、現代の村づくりに欠くことのできない四つの視点を提起していただいた。その一は「内部循環型経済と実践的住民自治の確立」(京都大学大学院・岡田知弘教授)、その二「都市・農村交流/グリーンツーリズム」(飯田市・井上弘司エコツーリズム推進室長)、三「生活文化/集落点検活動」(山口県周東町・藤井チエ子教育委員)、四「地域に根ざした食農教育」(鹿児島県串良町・豊重哲郎柳谷自治公民館長)の四つである。各論者の方々はこの四視点を、閉塞の時代に風穴をあけるような、非常に先行的な具体的実践事例を元に提起してくださっているが、一方で、これらの事例が独自性をもちつつも、それぞれがそれぞれの要素を微妙にもち合わせていることは注目されてよい。

 そして第III部は、山形大学の楠本雅弘教授の「〈むらづくり〉視点に立った『農政改革』論」である。そこでは、今日焦眉の課題とされている水田農業ビジョンについても、これを地域振興ビジョンとして把握し直し、新しい地域営農システムの確立によって「旧村の復活」をはかるべし、と主張されている。

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 本誌の前号(174号)では、「地域からの教育変革」を特集した。次代を担う子どもたちを地域で育てるという課題と、地域のエンパワーメントという課題とを統一的に捉え、これに邁進することが、今日の日本社会を建て直すことにつながるのだと思う。農文協文化部


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