『農村文化運動』 182号 2006年10月

持続可能な「地域づくり」「人づくり」に向けて
――「国連・持続可能な開発のための教育(ESD)の10年」の総合的研究 中間報告


[目次]

はじめに

序 ESDの総合的研究のめざすもの

立教大学社会学部教授、ESD-J代表理事 阿部 治

I ESDの枠組みとは何か

一、国際開発と開発教育の観点からみたESD
立教大学文学部教授、開発教育協会代表理事 田中治彦

二、ESD概念の進展とESDの国連10年(DESD)の国際的枠組み
武蔵工業大学環境情報学部助教授 佐藤真久

三、ESDと地域教育研究の課題――鹿児島県の奄美の事例から考える
鹿児島大学教育学部教授 神田嘉延

II ESDへの多様な視点からのアプローチ

一、持続可能な地域づくりとしてのESDの可能性と課題――鹿児島県垂水市の事例を通じて
鹿児島大学生涯学習教育研究センター助教授 小栗有子

二、沖縄における持続可能なツーリズムをめざす学びと地域づくり
琉球大学法文学部観光科学科助教授 大島順子

三、ESDの視点からみた自然系環境教育の可能性と課題――北海道霧多布湿原の事例に学びつつ
鹿児島大学リサーチアドバイザー・日本ネイチャーゲーム協会理事長 降旗信一

四、青少年のコミュニティワークとESD――食育・食農教育の視点から
東京農工大学大学院助教授 朝岡幸彦

五、ESDの視点から見た学校教育変革の可能性――茨城県牛久市での「参加型学習」事例を通して
立教大学大学院 小玉敏也

六、総合学習におけるESDの可能性と課題
東京学芸大学非常勤講師 岩本 泰


はじめに

 農文協はこれまで、人間の営みの基本である食と農をベースに、持続可能な地域づくりや、それを担う人づくりなど、自然と人間の調和をめざした文化運動に取り組んできた。

 これらの課題はいずれも「国連・持続可能な開発のための教育(ESD)の10年」として2005年から国際的に推進されているESD(Education for Sustainable Develop

ment)の主要テーマであり、ESDの理論の構築やその普及は、農文協の意図するところである。

 このため農文協としても、本誌172号で「国連・持続可能な開発のための教育の10年――私はこう考える」を特集したり、国内におけるESD推進組織であるESD―J(「持続可能な開発のための教育の10年」推進会議)の一員として、その活動に積極的にかかわってきた。

 「国連・ESDの10年」は日本の政府・NGOの提案が国連で採択され国際的な運動になったものであるが、わが国では2006年春3月、ようやく「ESDの10年国内実施計画」が策定され、政府による事業も始まった。一方、民間レベルでESD推進に取り組んでいるESD―Jの団体会員は、先行的に取り組んできた環境教育や開発教育の分野だけでなく広範な分野に広がり、合計96団体(5月)にのぼっている。

 しかし、まだまだESDが一般の人びとに十分知れ渡ったとはいえず、その理論構築や運動のいっそうの広がりが待たれている。

 このような状況のもと、日本初のESDの総合的研究が文科省科研費(2004〜2007年度)によって推進されている。立教大学の阿部治教授を中心とするこのプロジェクト研究はいまだ途上にあるが、ESD研究の現在の到達点と課題を広く読者に提供するために、この研究の中間総括としてまとめていただいたのが本特集である。

 また前述のように、ESDは、農村空間革命、都市農村交流と帰農運動の展開、農都両棲社会の実現、食農教育・地域に根ざした食育等々、農文協の地域づくり・人づくりの運動と重なるところが多分にある。本特集によって、農文協のこれまでの取組みをESDの視点から再評価し、行方を展望したい。

農文協文化部


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