『農村文化運動』 185号 2007年7月

地元学・地域学の現在
――多様な個性的展開の可能性を見る――


[目次]

はじめに

■地元学の現在

○地域を耕す地元学 民俗研究家
 結城登美雄

○広がり進化する地元学 地元学ネットワーク主宰
 吉本哲郎

■生涯学習と地元学・地域学

○「学び」と「参加」のしくみとしての地元学・地域学
 宇都宮大学教授 廣瀬隆人

○新潟市における地域学の経緯と展望
 新潟市中央公民館長 三保恵美

○「にいがた地元学」の取組み
 新潟市区政推進課

○地域が自ら生み出す過程を大切にする生涯学習としての「山形学」
 山形短期大学教授 阿部康子

■子どもの教育・学習と地元学・地域学

○子どもの学びと地元学・地域学の接点
 福島大学行政社会学部教授 境野健兒

○「金山タイム」の実践
 山形県立金山高等学校教頭 矢口亨

○「安心院・院内学」の実践
 大分県立安心院高等学校教頭 糸永正典

■地域づくりと地元学・地域学

○食から地域を見つめ、食育をとおして地域をつくる
 NPO法人霧島食育研究会代表 千葉しのぶ

○食の地元学による地域づくりと都市農村交流
 熊本県水俣市久木野・「愛林館」館長 沢畑亨

○地元学の〈一歩その先〉へ
 ローカル・ジャンクション21代表理事 朝田くに子

○持続可能な開発のための教育と地域づくりの視点から
 琉球大学法文学部観光科学科准教授 大島順子

(表紙の写真は、岩田幸代氏の撮影による)


はじめに

 『増刊・現代農業』で地元学を大きくとりあげて(「地域から変わる日本 地元学とは何か」二〇〇一年五月発行)から、六年が経過した。その間に地元学は、地域学と名乗るものも含めて大きな広がりをみせ、地域の人々が自らの地域を見直し、よりよい暮らしをつくりあげていくための道具となっている。

 そこで、この特集では、地元学・地域学の現在の到達点を明らかにするとともに、それがもっている現代的意味を考えてみることにした。

 地元学は東北の結城登美雄氏や九州の吉本哲郎氏らによって提唱されたが、結城氏は本号で、これまで地元学の概念のあいまいさを指摘されたりもしたが、精緻な定義を試みることより、地域の暮らしをよりよくする「使いでのある道具」であることのほうが大事であるとし、地元学は、地域をよりよくしたいと思う人々のそれぞれの思いや考えを持ち寄る場づくりを第一テーマとする、と述べている。そして地元学は地元の暮らしに寄り添う具体の学であるとし、各地の「食の地元学」や「米の地元学」の取組みを紹介している。

 また、吉本哲郎氏は、水俣市の地元学の現在の到達点として水俣市の水源地帯における「村丸ごと生活博物館」の取組みや、三重県などに広がった地元学の取組みを紹介。そのうえで、地元学は、それぞれの地域の実情に合わせて自分たちで開発していくために、みな個性的で多様であると指摘するとともに、地元学の手法が海外まで伝播しつつあることを述べている。

 そして第U部以降では、各種の関係者に、広がり深まる地元学・地域学について、「生涯学習」「子どもたちの生きた地域学習」「地域づくり」の三側面からその意味を深めていただいた。そこでは学習と地域づくりの活動が一体の関係にあることや、子どもたちの生きた学習としてその取組みが有効であることなどが、実践報告も含めて示されている。

 また、地元学の取組みのその先に、地方と都市生活者が手を携えて進んでいく道を望見する地元学の視点の掘り下げや、国連で進めている「持続可能な開発のための教育」(ESD)の学習方法について、地元学の手法と国際開発協力における参加型開発の手法を比較しつつ深めるなど、地元学を創造的に深める試みもなされている。

農文協文化部


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