『農村文化運動』 190号 2008年10月

「グローバリゼーション」の矛盾をどう克服するか
─食・農・環境・地域からの再編─


[目次]

はじめに

第1章
「グローバリゼーション」の矛盾をどう克服するか
――食・農・環境・地域からの再編

 國學院大学教授 古沢広祐

一、時代とともに深まる食料危機の構造
  1.戦後、世界食料危機の三つの波
  2.世界の農業・食料の動向
  3.複合的危機の時代
二、文明・文化・社会編成とグローバリゼーション─地球環境問題と食料・農業
  1.環境の視点から食と農をとらえ直す
  2.食料危機をめぐる社会編成上の問題
  3.グローバル化、WTO体制への反撃
三、地球社会の安全保障の確立をめざして─進む地域の視点からのグローバル化
  1.世界に広がるオルタナティブの動き
  2.草の根の国際連携・相互協力の動き
  3.食・農・環境のセキュリティと食料主権の確立
   ――基本的人権、人間の安全保障、文化多様性の視点から

第2章
自立循環型の農業実践モデルと途上国支援
――アジア学院の実践から

 アジア学院講師(前農場主任) 長嶋清

アジア学院の研修の特徴/アジア学院の自給循環型の農業への取組み/環境保全と再生可能エネルギー利用の取組み/アジア学院卒業生の活動/まとめ

第3章
それぞれの地域システムの回復
――ジンバブウェの事例から

 日本国際ボランティアセンター(JVC)事務局次長 壽賀一仁

シャシェ村〜破綻した経済下の地域自立/独立闘争〜地域再生の取組みの背景/世界観〜AZTRECと地域自然のかかわり/ジモト村〜アフリカの地元学的実践


はじめに

 二〇〇七〜〇八年、深刻な食料危機が食料を輸入に依存する途上国を襲ったが、そこには補助金付きの安い輸出農産物で途上国の農業を崩壊させてきた新自由主義的な経済グローバル化の問題があった。

 しかもその危機は、石油需給のひっ迫、マネーゲーム、食料とエネルギーの競合、気候変動や生物多様性の危機による生産基盤の脆弱化など、複数の危機的状況が絡み合っており、これら一連の問題の一体的な克服が求められる現代は、人類史的な大きな転換点にあると言える。

 このような状況のもとで、資源・エネルギー・食料がいつでも、どこからでも、安く手に入るという、従来の「加工貿易立国路線」を可能にしていた条件が失われ、穀物自給率が二割台となった日本において、途上国で起きたような食料危機が起きないという保証はない。そこで本号では、食料や環境、経済社会面で深刻な危機を招いている経済グローバル化に抗して、食料自給を実現し豊かな地域コミュニティを形成する道を、國學院大学の古沢広祐教授に提起していただいた。

 教授は食料主権を国家的次元からでなく、地域の多様な生態系と、その生態系に適応して人びとが築いてきた多様な地域独自の食文化(尊厳性)という視点から深め、都市農村交流をその内に含む、環境調和的で自立的な地域から、新しい世界の像を提起しておられる。すなわち、画一化を進めつつ支配を深める経済グローバリズムが克服され、固有な風土に根ざした、個性的で多様な地域が共存共栄する世界である。

 また、以上の提起を裏づける形で、アジア学院講師の長嶋清氏は、アジアの留学生とともに開発した自給的な有機農業の技術や経営方式のアジアでの広がりを、日本国際ボランティアセンターの壽賀一仁氏は破綻状況にあるジンバブウェの国の経済からは自立した、ある共同体での食料自給と地域再生の取組みを、紹介してくださった。年一〇〇〇万%を超す超インフレのもとにありながら、伝統的な世界観や農法を取り戻し、泉の水を回復させ荒れた畑を豊かにして地域再生した取組みは見事である。

 世界は経済グローバリズムの克服と地域コミュニティの再生に動いているのである。

(社)農山漁村文化協会


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