'98教育総合展 食教育ゾーン展示レポートより


第1コーナー=育てて食べよう学校農園コーナー


5.学校農園の守り神 テントウムシを増やそう

その3

テントウムシの上手な飼いかた


作成:農山漁村文化協会
協力:玉川大学昆虫学研究室

 テントウムシは成虫も幼虫もアブラムシをどんどん食べます。ですから、テントウムシはアブラムシの「天敵」です。
 学校農園にアブラムシが発生しても、テントウムシがいれば安心です。農薬でアブラムシを退治するのでなくて、テントウムシに手伝ってもらって学校農園を守りましょう。
 そして、全国の教室でたくさんのテントウムシを育て、それを学校農園だけでなく広く地域に放し、きれいなバラ園や農業を守っていきましょう。


●アブラムシをどれぐらい食べさせればいいのでしょう?

 1日に、テントウムシの幼虫はアブラムシを20匹ぐらい、成虫では100匹ぐらい食べます。
たとえば「アブラムシだらけ」のヨモギには、約2000匹ぐらいのアブラムシがいます。ちょうど幼虫6匹が成虫になるまでの2週間分のアブラムシです。
 テントウムシの成虫は、砂糖水だけをなめさせても長生きはしますが、それだけでは卵を産む力はありません。
卵を産ませるためにはアブラムシを食べさせなければならないのです。

 学校農園や通学路に生えているヨモギやセイダカアワダチソウなどに注意して、アブラムシを集めてきます。アリはアブラムシを運んで増やし、アブラムシのお尻から出る甘い汁をなめます。ですからアリが目印になります。
 春4月はクローバ、クロマツ、モミジ、バラ、ハルジョン。5-6月はコムギ、ヤナギ、ムクゲ。夏はヨモギ、セイタカアワダチソウ。9月はクリ、ヨモギなどについています。どんな植物についているどんな種類のアブラムシでも良いですが、「ニセアカシア」という木の汁は、ナナホシテントウには「毒」です。それでニセアカシアの新芽についているアブラムシだけはナナホシテントウに食べさせてはいけません。

 アブラムシは、ついている枝(ヨモギだったら15cmぐらい)ごと大きめにとってきます。切り取るときにゆするとアブラムシはパラパラ落ちてしまうので、そっとビニール袋(ジップロックなど口がきちんと閉まるものだと逃げないので便利です)に入れて持ってきます。餌をあげるときは、植物を飼育箱に入る大きさに切ってそのまま入れます。あるいは、絵筆でアブラムシを払い落としてあげます。学校農園の作物など、大切な「切り取れない植物」の場合には、紙を敷いたふたつきの入れ物などに筆でアブラムシを払い落として持ってきて、与えます。


●飼育の必需品、便利な「絵筆」

 やわらかくて細い絵筆は、アブラムシを払い落としたりテントウムシの幼虫をつかまえたり移動させたりするときの必需品です。ピンセットでは硬すぎるし、指ではつかまえられないからです。成虫はひっくり返すと筆先にしがみついて柄を登りますから、移動させるときにも便利です。



●飼育箱の工夫

 よくある虫かごでは、アブラムシや幼虫が隙間から逃げてしまうのでだめです。
水槽にガラスやアクリル版で蓋をして飼うのがいいでしょう。教室では紙コップにシャーレで蓋をしたものでも良く育ちます。「息ができるかどうか」の心配はしなくても大丈夫です。「水が漏れる」ぐらいの隙間があればじゅうぶんです。移動のときはカメラのフィルムケースや保存用のジップロック(口が閉まるビニール袋)の中に入れておいても2-3日は生きています。


●アブラムシの保存

 アザミやヨモギ1本に(たくさん)ついているアブラムシは、約2000匹ぐらい、全部で40グラムほどの重さです。1回に枝ごと採ってきたアブラムシは、ジップロックなどに入れてきちんと口を閉め、「許可を得て」冷蔵庫に入れておけば、3-4日生きています。ジップロックの中には水滴が出てきて、歩き回るアブラムシがおぼれて死んでしまうので、ペーパータオルなどを下に敷いて、湿気が吸えるようにしておきます。
 あるいは、タッパーにハクサイの葉を1枚入れて、その上にアブラムシを払い落として、涼しいところでアブラムシを飼うこともできます。ヨモギなどが枯れないで長く残るようにしてあげれば、それだけアブラムシも長持ちします。

ナナホシテントウムシの一生
(約20日で成虫になり、2ヵ月ぐらい生きます)

(ナナホシテントウ:室温21度の場合)
卵から羽化までのナナホシテントウの成育

卵        2日間
1齢       2日間
2齢       2日間
3齢       4日間
4齢(終齢)  6日間
蛹        6日間
-------------------
        22日間



 一回に15-40個ぐらい卵は産みつけます。だいだい色のきれいな卵です。約2日で卵から幼虫がかえります。
かえる前になると卵の殻が透けてきて幼虫の縞(よこじま)模様が透けて見えるようになります。ナミテントウは卵が黒くなります。

幼虫

 朝、1時間ぐらいかけてゆっくりかえり(孵化)、半日は体を乾かしています。
 2週間のうちに3回脱皮して、大きくなります。この間約400匹のアブラムシを食べます。
 餌が足りないと幼虫は「共食い」をするので、10匹ぐらいずつにわけます。


 幼虫は最後の2日はたくさん(アブラムシを100匹ぐらいずつ)食べて栄養をつけます。
 翌日は1日食べるのを止めて、その翌日に蛹になります。頭を下にして、飼育箱の壁などにひっついて蛹になります。
 まず1-2日間は前蛹で、その後に蛹のままでもう一度脱皮して本当の蛹になります。
蛹の期間は約1週間です。はじめはだいだい色など明るい色ですが、羽化の前になるとだんだん色が濃くなってきます。蛹の頭の部分(前胸)が黒くなってから約5時間たって羽化します。


成虫

 明け方、いよいよ羽化します。約30分ぐらいで羽化してしまいます。
 羽化したばかりのテントウムシにホシはありません。はじめはだいだい色やミルク色です。20分ぐらいすると後羽根(飛ぶときに使う羽根)が伸びてくるので、それまでにぶつからずに羽根を伸ばせる場所を探しまわります。
伸びた羽は15分ほどで乾き、前羽根の中にたたまれます。羽化をはじめてから、ここまでで1時間半ほどです。
そのあと、だんだんとホシが出てきます。
 はじめはぼんやりしていますが、1日ぐらい休んで餌を食べはじめます。10日くらいで交尾をはじめます。そして、餌の量によりますが、2日から10日ぐらいで産卵をはじめます。産卵は1日おきに30個ぐらいずつ、1ヵ月ぐらい続きます。アブラムシがたくさんいれば、それを食べてどんどん卵を産みます。普通は200個ぐらい、多いときは1匹で1000個も生みます。
 寿命は2ヵ月ぐらいですが、秋に生まれた成虫は越冬して、次の年の春まで生きています。1年に3-4世代育ちます。ただし、条件が良いと、1年ぐらい生きていた雌もいるそうです。


●テントウムシの夏休み(夏眠)

 アブラムシが少ない真夏には、テントウムシは眠ります。
 真夏になって気温が27度以上になるとアブラムシは減ってきます。ですから、東京では7月に入るとアブラムシが減ってきます。(涼しい北海道などでは、夏にもアブラムシがいます)
 自然のナナホシテントウは、アブラムシがいなくなるこの時期、「夏眠」といって、落ち葉の下などの涼しいところで眠ってしまいます。そこで、飼っている場合にも、餌をやらずに暗くて涼しいところで眠らせましょう。フィルムケースやタッパーなどに入れて、冷蔵庫に入れて長く眠らせることもできます。眠る前にアブラムシを良く食べさせておけば、冷蔵庫で3ヵ月ぐらい眠っても大丈夫だと言われています。もしアブラムシがつかまえられるならば、もちろん夏も続けて飼うことができます。このように、学校が夏休みの間はテントウムシにも眠ってもらうことができるのです。ナナホシテントウとと違って、ナミテントウはあんまり眠らないと言われています。アブラムシを捜す特別な力があるのでしょうか。


●テントウムシの冬休み(越冬)

白い建物に集まります

 陽射しも弱くなり肌寒くなってきた11月はじめ、暖かな風のない日の昼頃にテントウムシたちは空高く飛び立ちます。そして周囲に緑が多い「白い」建物に集まります。(たとえば、学校です!)白い建物がないところでは、枯れた大きな木や、岩(切り通しの露岩)などに集まります。太陽の光を反射して、テントウムシには白く見えるのでしょうか。
 夕方気温が下がってくると、そこから歩いていける範囲にある、風の当たらない隙間にだんだんと集まってきます。11月いっぱいぐらいで暖かい日ごとに集まるテントウムシが増えてきます。面白いことに、一度越冬した場所では、次の年にも越冬するようです。
 こうして集まって越冬するのはナミテントウです。1匹で越冬するよりもたくさん集まっている方が生存率が高いのが知られています。
 ところが、ナナホシテントウは集まっても2・3匹で、落ち葉の下などで越冬しますから、捜しにくいのです。そして冬でも暖かな日には動き出して、ひなたぼっこをします。
 飼育したテントウムシは、飼育箱ごとダンボール箱に入れて、寒い風の当たらないベランダなどで冬ごしさせます。飼育箱のまわりには枯れ葉や湿らせた新聞紙などを入れて、乾燥を防ぎます。

追伸
先日、ヤチダモの木が早々と葉を落として白くなるのを見ながら考えました。
ヤチダモは、アブラムシの一種が越冬して新芽で増殖する場所として知られていますが、この木をテントウムシも探すかもしれないですね。
秋に肌が白く見える木には、もしかするとアブラムシも集まっているのでしょうか?機会があったら調べてみたいです。

「田舎の本屋さん」のおすすめ本

 写真絵本 ぼくの庭にきた虫たち
テントウムシ観察記』佐藤信治

幼虫の色のちがい,産卵数のふしぎなどの観察・探究から孵化・蛹化・羽化・産卵のドラマまで、図鑑にはない驚き・発見がいっぱい。 [本を詳しく見る]

 庭にきた虫』佐藤信治

テントウムシ、アゲハ、セミ、カタツムリ、カマキリなど8種の虫たちの親子三代に渡る異色の観察記。子どもの目線でいのちの動きやドラマを鮮烈にとらえ、豊富なカラー写真を駆使、親子の臨場感あふれる会話体で綴る。 [本を詳しく見る]

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