応援団員からのメッセージ

大江 正章
(おおえ ただあき)

(有)コモンズ代表、ジャーナリスト


都市農業の先駆的活動に学ぶ

大きく変わった都市農業への見方と位置付け

 東京都では、都政の課題に関する意見や要望を把握するため、500人の都政モニターを選任し、インターネットで随時アンケート調査を行っている。その2015年度調査結果を見ると、「東京に農業・農地を残したいと思いますか」という問いに対して、85.5%が「残したいと思う」と回答した(05年度は81.1%)。期待する役割や機能のトップは「新鮮で安全な農畜産物の供給」だ(62.9%)。
 いまでは、多くの人たちが都市部に農業があったほうがよいと考えている。だが、30年前は大きく事情が違った。当時、輸出依存型経済からの転換を謳った前川レポートは、内需が小さいのは地価が高いからだと述べ、都市農地を生贄とした。マスメディアもそれに便乗して、都市農業を攻撃。その刷り込みによって、日本人の多くは「都市に農地はいらない」と考えていた。
 1961年に制定された農業基本法には、都市農業に関する規定はない。都市農地は建設省(当時)の管轄で、「宅地化すべきもの」とされ、農政から排除されてきたのである。ようやく1999年制定の食料・農業・農村基本法の第36条で、「国は、都市及びその周辺における農業について、消費地に近い特性を生かし、都市住民の需要に即した農業生産の振興を図るために必要な施策を講ずるものとする」と位置付けられた。しかし、これは「農村の振興に関する施策」という節で、同条の見出しは「都市と農村の交流等」である。
 都市農業が振興の対象となったのは、2015年制定の都市農業振興基本法が初めてだ。その第3条(基本理念)で、都市農業は「これを営む者及びその他の関係者の努力により継続されてきたものであり、その生産活動を通じ、都市住民に地元産の新鮮な農産物を供給する機能のみならず……」と生産機能が前面に出された。
 こうして都市農業には、いま追い風が吹いている。実際、都市農業は元気だ。たとえば東京都を見ると、専業農家率が33%で全国14位、基幹的農業従事者の平均年齢は8番目に若く、1戸あたりの農業産出額も24位である。収益性が高く、40歳以下の後継者も少なくない。一方で、農を活かした地域づくりへの取り組みが盛んだとは言い難い。そこで、1980年代に行われた先駆的活動を紹介し、その意義を考えてみたい。

国分寺市の「農のあるまちづくり」

 東京都国分寺市は新宿から20〜30分で、人口約12万人。農地面積が市の14%を占め、販売農家数や基幹的農業従事者数の割合は、近隣自治体よりも高い。1980年代前半から、市内のもとまち公民館で「都市農業を知るセミナー」が開かれてきた。受講者は座学だけでなく、市内の農家(野菜・果樹・畜産・酪農・養鶏・花)を訪ねて交流し、市内にレベルの高い農家がかなりあることに気づいたという。
 その後、「国分寺のまちづくりと農業を考える懇談会」に発展し、勉強会を重ねていく。メンバーは、一般市民に加えて、市内在住の研究者、農協や公民館の職員などだ。1989年には『「農」のあるまちづくり』(学陽書房)を出版した。編著者の渡辺善次郎氏は国立国会図書館の専門調査員、菊地洸氏は公民館職員、那知上亨氏は国分寺農協組合長である。いまでこそ「農のあるまちづくり」は当たり前のように使われるが、当時としては斬新な概念だった。同書は朝日新聞で大きく紹介され、版を重ねていく。さらに、1990年には国分寺市の基本構想に対して、以下のように提言した。
 「これまで都市の発展が農業を消滅させると言われたが、いまでは都市を活性化させる上で、都市の構造のなかに、農業の生産のみならず、農業や農地のもつ公益的機能を積極的に組みこんでいくことで、国分寺市の『うるおい』と『いきがいと文化』をはぐくむまちづくりができると考えるに至った」 では、なぜ、この取り組みはうまくいったのか。そこには、私たちが学ぶべき点が多く見られる。
(1) 公民館の講座が発端

自治体行政が関わっているので、市民や農協に対して安心感やある種の「お墨付き」を与え、参加へのハードルが低くなった。

(2) 農協幹部の積極的関与

国分寺農協の組合長と参事がほぼ毎回出席し、運営にも協力した。農協幹部が市民の共感を得て都市農業を守っていこうとする意識をもっていたのである。また、一市一農協であったことも重要だ。農協が広域合併した現在では、なかなか難しいだろう。

(3) 市内在住研究者の見識

幅広く深い学識をもつ複数の研究者が中心メンバーとなっていた。しかも、彼らは専門知識をひけらかしたりせず、出過ぎない性格で、市民と同じ目線で学習・交流した。

(4) 実力ある生産者の存在

技術をみがき、営農を継続していこうという意識をもつ生産者が一定数いたうえに、米以外はすべての分野を網羅。直売や市民との交流を進めていこうとする意欲があった。

(5) 市民が誇る優れた景観の保全意識

清流沿いの、お鷹の道・真姿の池湧水群(名水100選)に代表される景観、豊かな環境を守ろうとする市民意識が強い。彼らが、農業があってこそ環境が守られることを学んだ。

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 若手農業者たちの多くは、独自の販売ルートを開拓し、楽しい交流事業を行っている。そのセンスを評価したうえで、農業は地域に支えられる産業であり、生業であるという当たり前の事実を再確認したい。