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うおつか流防災食

サバイバルの達人となるために

食農教育 2008年9月 始頁:18 終頁:27
[執筆]魚柄仁之助 イラスト・堀込和佳
見出し:
●I そのときのために備えておきたいもの、知っておきたいこと
◎備えあれば安心リスト
●II いかなるときでも自分に合った料理を楽しもう
保温調理法でカセットボンベの節約
お日様で水温を上げる
乾パンパンケーキ
魔法瓶塩豆
大豆ペーストで食にうるおいを
残ったスープもまだ楽しめる
冷たいおにぎりをアツアツの焼きおにぎりに
スイトン
粉ミルクヨーグルト
もやし
失敗しないごはん炊き

I そのときのために備えておきたいもの、知っておきたいこと

 この日本では、いつどこで巨大地震が発生してもおかしくない。いざというとき、たくましく避難生活を送るための備えを日頃からしておこう。

 阪神淡路大震災を経験した方のお話をお聞きすると、水も電気もガスも止まり、三日目、下手をすると七日目くらいまで、食料支援がない状態が続いたという。そして、電気が三日目くらいからまず復旧し、水道がそれに続いた。ガスは一番遅く、復旧するのに三ヵ月を要したという。

 そういう状況を想定したとき、日頃から最小限、何を準備しておきたいか書き出してみたのが下のリストだ。


備えあれば安心リスト

道具類A:カセットコンロ、カセットボンベ、フライパン、鍋、魔法瓶(電気湯沸しポットでもよい)、缶切り、はし、アルミホイル、保存容器、大きめの黒いビニール袋、大きめの透明のビニール袋

道具類B(廃棄物を利用できるもの):ペットボトル、ダンボール箱、発泡スチロール、空き缶、新聞紙、布類

食材:水、米、乾パン、乾物類(大豆などの豆類はとくに)、缶詰、ホールトマト缶、小麦粉、スキムミルク、パウダー寒天

調味料:塩、砂糖(あるいはチョコレートなどの糖分のあるもの)、香辛料、ケチャップ、食用油、醤油、ヨーグルト菌、酢


 つぎに避難生活のなかで、食中毒から身を守る方法を知っておいてほしい。

 食べものが腐りやすい夏は食中毒がこわい。中毒から身を守るにはどうすればよいのか? そのポイントは、「よく噛み、水分をなるべくとらずに食べること」。胃のなかに分泌される胃酸は強酸性で、中毒菌の大半は胃のなかで死滅する。アルカリ性で繁殖するO―157やコレラ菌も例外ではない。ところが、水分ガブガブの流し喰いをすると、O―157やコレラ菌が死滅しないうちに水といっしょに腸に移動し、弱アルカリ性の腸内で毒素を出し、中毒をおこす。人体内で最も強酸性の胃で中毒菌を死滅させる食べ方、「よく噛み、水分をなるべくとらずに食べること」が、食中毒を防ぐのだ。

II いかなるときでも自分に合った料理を楽しもう

 人間、ちゃんと食べなければ元気は出てこない。避難生活だからこそ、ひと手間加えて、自分に合ったおいしい料理を食べよう。自分に合わない料理を食べ続けるのはストレスのもとだ。これから提案する料理法も、たいへん限られた条件のなかで、自分に合った料理法を考えるためのヒントだと思って、ぜひ自分に合った料理法を見出してほしい。

保温調理法でカセットボンベの節約

 カセットコンロは、電気もガスも止まっているときの貴重な熱源だ。だから節約して使おう。そこで紹介するのが、余熱の保温による料理法だ。

 たとえばここにスパゲッティがあるとして、その袋に「一〇分ゆでる」と表示されているとしよう。鍋に水を入れてコンロで沸騰させ、鍋にスパゲッティを入れて、お湯が再び沸騰してきたところで鍋にふたをし、コンロからおろす。鍋をすぐに布、新聞紙などをつめた発泡スチロール箱の中に入れて、箱のふたをする。そのまま、ゆで時間である一〇分間保温状態とし、一〇分たったら箱からとり出す。お湯はまだ九〇℃以上あり、スパゲッティはゆで上がっている。

 このゆで方でボンベは長持ちする。箱がなくても、新聞紙で一枚ずつ包んでいけば、かなりの保温力が得られる。

温まった鍋を新聞紙などをつめた発泡スチロール箱の中に入れて保温する方法

お日様で水温を上げる

 こんな実験をしたことがある。二リットルの四角いペットボトルに水をいっぱいに入れ、発泡スチロール箱の内側にアルミホイルを敷き、そのうえに黒ビニールでくるんだペットボトルを寝かせる。この発泡スチロール箱を屋上に置き、発泡スチロール箱の四隅に細い棒を立て、箱を透明ビニールでおおって、ビニール温室みたいにする。外の気温は七〜八℃だったが、午前一〇時に始めて、一五時にとり出したとき、ペットボトルの水は四〇℃になっていた。

 ちなみに、五〇〇mlの丸いペットボトルもいっしょに入れておいたが、こちらの水温は三〇℃。太陽光線を受ける面積の広い四角いペットボトルのほうが水温が上がった。夏なら、お湯に近い温度になるだろう。こうして水温を上げて料理すれば、カセットコンロのボンベも節約できる。

発泡スチロール箱の内側にアルミホイルを敷き黒ビニールでくるんだペットボトルでお水をあたためる方法

乾パンパンケーキ

 非常食と言えば乾パン。だけどかたい、パサつく、食べにくいのが難点。近頃のビスケットタイプも食べにくいことは否めない。そんな乾パンも、カセットコンロさえあればふんわりしたパンケーキに変身する。

 まず乾パン一〇個を粉々に砕き、砂糖をひとさじ、あるいはチョコレートひとかけをナイフで削りいれる。そこにスキムミルクを茶さじ五杯、さらに熱湯を少し加えてさじで練る。湯が多いとネットリにならないのであくまでも少量を。このネットリをハンバーグ種のように型どり、食用油をひいたフライパンで両面を焼けば、乾パンパンケーキのでき上がり。かたいパサついた乾パンが、しっとりふわふわパンケーキに形が変わるだけでなく、食事としての満足度が大いに高まる。

 おいしい食べものは「コク」があるのが条件だが、コクは旨味、糖質、油脂で構成されている。スキムミルクの蛋白質の旨味、砂糖やチョコの糖分、食用油の油脂、これでコクが生まれたのだ。

乾パン砂糖チョコスキムミルクでパンケーキをつくる方法

魔法瓶塩豆

 大豆二合を一リットルの水にひと晩浸しておく。その水ごと電気湯沸しポットに入れるか、カセットコンロを使うかして沸騰させたら、すぐ魔法瓶に移してふたをする。そして魔法瓶を毛布など保温性の高い素材で包み、そのまま約半日置いておく。小粒大豆なら、これでみごとにゆで上がる。大豆には塩や醤油をかけて食べる。

 蛋白質、脂質をたっぷり含んだ大豆は貴重な非常食だ。乾物だから保存性も抜群。電気が使える状況なら、電気湯沸しポットに大豆と水を入れ、電源を入れっぱなしにしておけば、三〜四時間でたいがいの豆はゆで上がる。

ポットで豆をやわらかくする方法

大豆ペーストで食にうるおいを

 こうしてゆでた大豆で、大豆ペーストが簡単にできる。まず、このゆで大豆をつぶす。フォークでもいいし、そこらにあるものを使って、できるだけ小さくつぶす。すりつぶしたら、塩と酢を加え、さらに香辛料を加える。香辛料は、マスタード、コショー、トウガラシ、なんでもよい。香辛料をたくさん加えることで傷みにくくなり、保存しやすくなる。加減しながら酢を加えて、よく練り合わせると、ややネットリしたペースト状になる。

 チーズのようで、クラッカーやパンにたっぷりのせて食べると、なかなかうまい。ビニール袋に入れておけば、一週間くらいはもつ。

残ったスープもまだ楽しめる

 麺類の残り汁は、飲み干してはいけない。ましてや捨てるなんてもってのほか。パウダー寒天で固めれば、保存食になる。

 たとえばカップラーメン、カップうどんを食べたとする。残り汁をさっと煮たててパウダー寒天で固める。固まった元スープを五mmくらいの厚さに切って乾パンやクラッカーにのせると、パサつきがちな乾パンやクラッカーがすごく食べやすくなる。

冷たいおにぎりをアツアツの焼きおにぎりに

 米の種類によっては、冷えたおにぎりでもそこそこうまい。でも、やっぱりアツアツのほうがうまい。そこで、カセットコンロとフライパンを使って、表面パリパリの焼きおにぎりを作ってみよう。

 フライパンをカセットコンロの火にかけ、食用になる油だったら何でもいいので、スプーン一杯くらいひく。おにぎりはいま一度、ややかためにギュッと握ってフライパンにのせる。火を弱くして、じっくり両面とも焼く。油脂が加わることで、直火焼きとはまた別のコクが生じてなかなかいける。

 また、三角おにぎりの両面のみならず、側面もフライパンでよく焼いておくと、おにぎりの日持ちがよくなる。暑い夏の日の朝炊いたごはんをおにぎりにして、お昼用はそのまま、夕食用は焼きおにぎりにしておくと、夜になっても傷んでいない。もちろん冷蔵庫なしで大丈夫。

おにぎりを日持ちさせる焼きおにぎりの方法

スイトン

 旨味のでる乾物類を鍋に入れ、水を加えて一二時間置いておこう。そうでなければ、ホールトマト缶やケチャップ、醤油を加えた水でもいい。これを沸騰させ、そこに水とき小麦粉をスプーンですくってポッチャンポッチャン落とす。三分くらいでやわらかなスイトンに仕上がる。

 シコシコしたスイトンがほしかったら、水の量を減らし、かたく小麦粉をこねる。それを耳たぶくらいにちぎって煮汁にポッチャンする。この場合、煮る時間は約一〇分。

 意外かもしれないが、トマトやケチャップを使ったスイトンがすこぶるうまい。

やわらかいスイトンをつくる方法

粉ミルクヨーグルト

 カルシウムが多いスキムミルクは、保存性があり、持ち運びしやすい。これをヨーグルトにすると、カルシウムが吸収されやすくなる。そのヨーグルトが魔法瓶で簡単に作れる。

 まず、電気湯沸かしポットかカセットコンロで五〇〜六〇℃の湯を沸かす。その湯にスキムミルクをたっぷりとかして、濃いめのミルクを作り、四〇℃くらいまで冷ます。それを魔法瓶に移し、ヨーグルト菌を加えてふたをする。半日もおけば、魔法瓶のなかのスキムミルクは酸っぱいヨーグルトに変身している。

 ヨーグルトの乳酸菌は大腸菌などの中毒菌に強いので、食中毒の多い季節にはぜひ食べたい。

粉ミルクでヨーグルトをつくる方法

もやし

 ビタミンCやミネラルがたくさん含まれているもやしにも注目しよう。豆をひと晩水に浸しておくと、休眠状態から目覚めて、発芽しはじめる。これがもやしだ。保存容器などに豆を入れ、水をほんのすこし入れておけばよい。ただ細菌が繁殖しやすいので、豆は毎日流水で洗おう。発芽するときの気温は豆の種類によって違うが、三〇℃くらいあれば、たいていの豆は発芽して、あれよあれよという間に成長する。

 普通にゆでたら、二〇分以上ゆでなくてはかたくて食べられない大豆も、発芽直後は二分(!)ゆでただけでやわらかくなり、しかも栄養価も高いのだ。ちなみに比較的低温時でも育つのは緑豆だ。

もやしをつくる方法

失敗しないごはん炊き

 ジュースなどの空き缶を缶切りで口を切り取り、三分の一くらいまで米を入れる。米と同量の水を加える。口をアルミホイルなどでふたをし、はしで一〜二コ穴をあける。これを人数分作って、湯が沸き立つ鍋の中に立てる。湯の量は缶の高さの三分の一くらい。このまま一五〜一七分湯せんにかける。途中でふたの穴から蒸気が上がってくるが、一五分くらいでほとんど出なくなる。そうなったら鍋を火からおろして四〜五分蒸らす。蒸らし終わったら、空き缶を茶わんがわりにごはんを食べよう。

 この方法なら絶対こげない。ひとつだけ、鍋の湯が蒸発して、から炊きにならないよう気をつけよう。

空き缶でごはんを飯を炊く方法

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