石見神楽で有名な金城町は、神楽と福祉を結びつけた「ふくし芸術村」づくりをめざしています。神楽の衣装の製作には障害者施設の園生が携わり、料理を味わったり農業体験をしてもらう施設や農産物の直売店では、高齢者が活躍しています。さらに、他県の高校生の農家でのホームステイ、「ふるさと体験フェスティバル」の実施など、都市住民との交流にも力を入れています。

● 金城町 DATA●
 金城町は、総面積の84%を山林が占める緑豊かな町。北は浜田市、南は広島県に接している。金城町には14の社中がある。神楽の盛んな人口5万人の浜田市が13社中というから、金城町の社中の多さは際立つ。まさに神楽の町といっていいだろう。

● 人口
5,432人(平成12年4月現在)
● アクセス
・JR山陽本線広島駅から高速バスで2時間
・JR山陰本線浜田駅からバスで20分
● 問い合わせ先
・TEL:0855−42−1234
(金城町役場)
・TEL:0855−42−3555
(きんたの里)



● 見る人を神話の世界に誘う石見神楽
 10月に金城町を訪れれば、町のどこかで神楽の舞を見ることができます。結婚式などお祝いの席でも神楽が舞われるなど、金城町の人びとの暮らしにとって神楽は欠かすことができません。神楽を見学に訪れる人も増えています。
 金城町で舞われている神楽は、石見神楽といわれるものです。勇壮で活発な八調子と呼ばれるテンポの速いもので、大太鼓、小太鼓、手拍子、笛を用いての囃子で演じられ、見る人を神話の世界に誘います。石見神楽の演目は30余りあり、そのほとんどが古事記・日本書紀をもとに脚色されたものです。もともとは、五穀豊穣に感謝する意を込めて、毎年秋祭りで氏神様に奉納されていたもので、江戸時代には神職が神楽を舞って奉納していました。それが明治初期、一般庶民に移ったのです。
 神楽の衣装は工房「くわの木&あゆみ」で製作されていますが、そこで活躍しているのが知的障害者施設「桑の木園」の園生。生活訓練や作業・仕事の訓練の一環として、神楽の衣装づくりや、蛇胴・蛇頭・神楽面の製作にも取り組んでいるのです。いずれも石見地方の伝統産業ですが、技術者が高齢化・後継者難で製作の前途が危ぶまれているものばかり。どれも手作業で根気が必要なものですが、園生はそのやり方を覚えると根気よく確実に仕上げていきます。「桑の木園」で製作される神楽衣装・面・蛇胴・蛇頭などは評価が高く、衣装などは、今注文を受けたものの納品は3年後になるといいます。


●偉人から名をとった農産物直売所と、交流拠点「きんたの里」
 平成7年、農家の主婦の提案で農産物の直売所「村じまん屋 甚左ヱ門」ができました。店の名前の「甚左ヱ門」は、金城町の三偉人の1人、金城町の農業の恩人ともいうべき岡本甚左衛門からとったもの。甚左衛門は、今から180年ほど前、樹木やクマザサの茂っていた地(七条原)を開墾し、水のない地にため池を造り、農業ができるようにした人です。
 その七条原にあるのが、食事・宿泊施設を備えた都市と農村との交流拠点「きんたの里」です。甚左衛門の造ったため池(甚左衛門堤)は、「きんたの里」に隣接し、今でも満々と水をたたえ、四季折々の自然を映している格好の散策コースです。
 地域住民の声に耳を傾け、実現したのが「甚左ヱ門」。ここに福祉の充実を求め「ふくし芸術村」構想の実現に向け努力する金城町の姿勢がうかがえます。「甚左ヱ門」ができたことで、家族のためにつくった自家菜園の野菜が、余ったからと捨てられるのでなく有効に利用され、「きんたの里」を訪れた人びとに喜ばれると同時に、人々の生きがいにつながっています。


● 年2回の「ふるさと体験フェスティバル」は大好評
 平成7年から埼玉県の和光国際高校の生徒が農業・農村体験のため金城町にやってきて、農家に2泊3日ほど滞在(ホームステイ)し、農作業を手伝いながら農村生活を体験しています。はじめ高校生は「なぜ農家に泊まらなければいけないのか」と不満だったといいます。それが、おじいちゃんやおばあちゃんの話を聞いて感動。それ以降ほぼ毎年、農業・農村体験が続いているのです。高校生は、宿泊先の家族とともに金城町の神楽も見学しています。
 また金城町では、平成4年から年2回「ふるさと体験フェスティバル」を行なっています。これは、会費1万円、1泊2日の体験ツアーです。毎年3月に行なわれる神楽大会と、11月に行なわれる金城町の大イベント・さざんか祭り(神楽が舞われる)に来てもらい、神楽の衣装製作などの見学を含めて町内を案内、金城町の文化・自然を満喫してもらっています。ツアーは好評で、希望者は年々増えています。さらに、「ふくし芸術村」を充実させるため、離れたところにある神楽面工房を同じ敷地内に移し、炭焼き、薬草栽培…など、もっと多様に体験できるよう計画中です。
「神楽の町」といわれるほど盛んな神楽で人を呼び、それに福祉を結び付けた「ふくし芸術村」を構想し、その実現に向け大きく前進した金城町。町の伝統と文化を活かして、お年寄りにも障害を持った人にも優しいまちづくりを進めています。