村の地士・西村彦左衛門の計画によって江戸時代に完成した立梅(たちばい)用水。その歴史や価値を見直そうと始まった「ふるさと水と土保全活動」は、村の景観作りの一環としての「あじさい1万本運動」や休耕田を利用した「ビオトープ作り」、手作り劇団「ほてい葵」の活動に発展し、都市住民との交流も盛んになっています。

● 勢和村 DATA●
 勢和村は三重県のほぼ中央に位置し、北は櫛田川をはさんで松阪市、東は多気町、西は飯南町、南は大台町と接しています。中央を流れる櫛田川沿いの北東部は比較的平坦で農地が開け、南には宮川の支流である濁川の川沿いに集落が点在しています。積雪もほとんどなく、稲作を中心にお茶、タバコなどが生産されています。

● 人口
5,466人(平成12年6月現在)
● アクセス
・近鉄名古屋駅から松阪駅まで特急で1時間10分。松阪駅から射和経由で勢和までバスで40分(三交バス・村民バス利用)
・ 伊勢自動車道勢和多気インターチェンジで下りる
● 問い合わせ先
・ TEL:059849−4522
(立梅用水土地改良区事務局)
http://www.webmie.or.jp/tachibai
(立梅用水のホームページ)



●江戸の昔から地域を支えてきた立梅用水
 立梅用水は、江戸時代、村の地士・西村彦左衛門の計画により延べ247,000人の人力によって造られた全長30キロの農業用水です。用水ができたおかげで稲作が盛んになり、それまで貧困にあえいでいた村人の生活は豊かになりました。今では灌漑用としてだけでなく、発電にも利用されている大変貴重な用水です。しかし、最近は用水の歴史や重要性が忘れられつつあります。また灌漑排水事業によって用水路がコンクリートに姿を変えたことで村の景観も画一的なものになってしまいました。
 そこで平成6年に始まったのが「あじさい1万本運動」です。用水沿いや農道、水田の周りなどにあじさいを植えて、水路や水田とあじさいが一体となった景観作りをしようというものです。初めはボランティアグループ「あじさい倶楽部」が1本ずつ植えていましたが、子どもたちが卒業記念に植えたり、平成9年に開催された「第1回彦左衛門のあじさいまつり」ではオーナー制度のあじさい記念植樹が始まって、オーナーになった都市住民との交流も盛んになっています。
 現在は、「あじさいの里親運動」として各家庭で苗木を育てながら、「あじさい1万本運動」は「あじさいいっぱい運動」と名前を変えて、立梅用水周辺約20キロに渡ってあじさいを植える計画が進められています。


●ボランティアの手でよみがえった昔ながらの農村風景
 田んぼやせせらぎ、あぜ道など、昔ながらの農村はメダカから人間まですべての生物が調和した生態系を持つ空間でした。しかし、用水の改良工事は水田や水路にたくさんいたメダカやタガメなどの住みかを奪ってしまいました。また、転作の影響や耕作困難などから放棄され荒れてしまった水田は、地域の生態系を乱してしまったのです。
 こうした事情を背景に、ボランティアグループ「ほてい倶楽部」による農村のビオトープづくりが始まりました。田んぼのしろかきをして昔のような田んぼに復元し、そこにメダカを放したりホテイアオイを植えたりしたところ、ホテイアオイが水田一面に広がり、メダカやたくさんの水生昆虫も水田の至るところに見られるようになりました。ここで開かれた「ホテイアオイとメダカの観察会」には近隣の市町村からたくさんの親子連れが集まり、自然とのふれあいを楽しんでいます。
 現在、農村のビオトープ作りは「あぜ道とせせらぎづくり推進運動」に発展し、あじさい植栽体験や立梅用水ウォーキングなど、この空間を利用したさまざまなイベントを通して子どもたちに自然豊かな遊びに親しみ、農業や農村に対する理解を深めてもらえるような取り組みが行われています。


●ふるさとの歴史を伝える手作り劇団「ほてい葵」
 こうした活動を通して、むらに手づくりの劇団「ほてい葵」が誕生しました。立梅用水の創設に尽力した西村彦左衛門を取り上げ、「わしらのむらに水がきた!」という劇を上演し、用水の歴史と先人たちの労苦を伝えるだけでなく、「ふるさとの水と土を大切に」と呼びかけています。最近は、やはり勢和村出身の本草学者・野呂元丈を取り上げた「野呂元丈物語」を上演し、なかなか好評です。
 また、村に新しい特産品「彦左衛門のうまい米」が誕生したのも「ふるさと水と土保全活動」がきっかけです。「ほてい葵」の初公演のとき、JA多気郡勢和稲作部会が、幕間に地元でとれた新米に「彦左衛門のうまい米」と名づけて販売したのが始まりです。立梅用水の水を使って栽培した米であることを、彦左衛門の偉業とともに多くの人に知ってもらいたいという思いからです。最近は、「メダカが住む田んぼでとれた米」という付加価値もついて、勢和村の新たな特産品として定着しています。