南信濃村に鎌倉時代から伝わる霜月祭りは、10年ほど前から見物客が一緒に参加できる、「参加体験型」の祭りとなり、人気を呼んでいます。村では祭りの体験ツアーやそば打ち、歴史と伝統を歩きながら学ぶハイキングツアーなどを企画する一方、村のファンクラブを作って会員向けの情報誌を発行するなど、都市部への情報発信にも力を入れています。

● 南信濃村 DATA●
 南アルプスの山懐に抱かれ、昔から秘境「遠山郷」として知られている。林野率が97.2%と、山とともに生きてきた村。かつては秋葉街道の宿場町として栄え、先人たちの歴史が村のあちこちに残る。

● 人口
2,372人(平成12年11月現在)
● アクセス
・JR飯田線平岡駅よりタクシーで30分
・ 中央自動車道飯田インターチェンジより車で1時間半
● 問い合わせ先
・ TEL:0260−34−5111
(南信濃村役場商工観光課)
http://www.iidanet.or.jp/minamishinano/
(南信濃村のホームページ)



●見物客も巻き込んで、むらの祭を後世に伝える
 戦国時代から江戸時代初期にかけて豪族・遠山氏に支配された南信濃村と隣の上村の一帯は、今でも遠山郷と呼ばれています。この遠山郷の12の神社で、毎年12月に行なわれる霜月祭りは、国の重要無形民俗文化財に指定されています。
 霜月祭りは鎌倉時代に始まった湯立神事に、遠山氏の霊を慰める行事が加わってできたと言われています。陰暦11月(霜月)に行なわれることからこの名が付き、おもてと呼ばれる面を付けたさまざまな「神々」が、湯が沸き立つ釜の周りで夜中まで舞い踊ります。
 霜月祭りは遠山郷の12の神社で行なわれますが、そのうちの一つ、遠山天満宮の霜月祭りでは10年ほど前から、南和田大町地区の若い衆で組織される遠山天満宮南和田保存会と祭りのお客さんとが一緒に舞えるようになりました。南信濃村には、280年前に伝えられたといわれる此田神楽なども伝承されており、祭マニアやカメラマン、研究者にはたまらない民俗芸能の宝庫です。こうした人たちを巻き込んで、祭りを後世に伝えていこうというのです。


●そば打ち道場で伝統の味「キジそば」づくりを体験
 南和田保存会では「天満ふれあいの里推進協議会」を作り、平成6年から地区の老人多目的センターで体験型の「天満そば打ち道場」を開き、お客さんを呼び込んでいます。現在は「天満リフレッシュパーク」も運営。ここでは、炭焼き、キャンプ、シイタケの菌打ちなど山の豊かさを体験してもらうさまざまなプログラムが企画されています。
 当時、飯田下伊那地区ではまだめずらしかったそば打ち体験は話題を呼び、多くの人が訪れるようになりました。そのため、今までのセンターでは訪問客の増加に対応できなくなり、村に要望して、平成7年度の中山間地域特別農業農村対策事業で加工直売施設をつくってもらいました。
 今は、各地で行なわれるそば打ち体験ですが、ここではキジでだしをとるキジそばを作ります。キジそばは、その昔お祭りになるとおばあちゃんが作ってくれた村の伝統の味ですが、今では南信濃村の人たちでも、においがきついキジの処理法を知っている人は少なくなっています。そのため、推進協議会のなかで少々年長の荒井学さんが処理法を指導し、伝統の味を守っています。


●歴史や伝統、むらの宝が人を呼ぶ
 遠山天満宮でやっている「参加型」霜月祭りでは、存続の難しくなってきている祭が続けられる、外から人が来る、という効果が表われました。何より村の人が祭を楽しみ、自分たちの伝統行事に誇りを持つようになったのが最大の成果です。この動きをもっと広げようと、村が平成11年度から1泊2日の霜月祭り体験ツアーを企画したところ、愛知や東京からもはるばるお客さんがやってきて、総勢24人が参加しました。
 村では、1回限りの観光客を増やそうと思っているわけではなく、ここを自分のふるさとと思って年中遊びに来てくれる人を増やしたいと考えています。そこで、四季を通してもっと深く南信濃村のことを知ってもらおうと、春と秋には歴史・伝統の豊かな遠山郷を活かしたツアー「伝説のロマン遠山街道ハイキング」を実施するなど、さまざまな体験ツアーを企画しています。
 こんな活動から、南信濃村を何度も訪れる「ファン」が増えてきています。そこで村の商工観光課では南信濃村についてもっと深い情報を伝えようと、南信濃村ファンクラブ会員を募集し、平成12年夏『アンバマイカ』を創刊しました(『アンバマイカ』とは遠山郷の方言で「遊びましょう」という意味)。年会費は3000円。会員には『アンバマイカ』が定期的に送られるほか、遠山郷温泉「かぐらの湯」の入浴招待券、村の宿泊施設の利用や飲食が割引になる特典もあります。
 このように南信濃村では、祭や伝説など先人から引き継がれたむらの宝を活かし、都市と農村の新しい交流を進めています。