● 「雲」


 豪雪地帯にある古川の家々は、雪の備えに軒先を長く出し、強度を高めるために腕木をつけ、その支えである肘木(小腕木/こうでぎ)をつけています。これらは、神社仏閣の屋根の下の組み手として元々ある様式ですが、そこに葉の形や唐草模様など洗練された文様を彫り、白く塗った「雲」と呼ばれるものは、古川独特のものです。さらにいえば、明治、大正頃の建築には「雲」は見られません。意外にも、「雲」は戦後の建築様式の一つなのです。
 「雲」の元祖は藤白徳太郎さん(故人)。宮大工の技にも優れ、昭和29年に「雲」第1号を作っています。徳太郎さんの息子で三代目の勇さんが語ります。
「一般民家を造る時に、小腕木がどうも殺風景だ、何か細工をしたらどうかと考えたんですね。水を呼んで火難を免れるからと、縁起もかついで小腕木の正面に唐獅子の顔を彫り、白く塗りました。顔には目もついていて、口も開けてますよ。今の多くの雲にあるような横の彫り物は、なかったです」
 このアイディアが洒落ていると評判になり、次第に他の大工も取り入れはじめ、デザインが工夫されていって、施主の間にも浸透していったということです。
 今や、古川の「雲」は8型・169種類。おおざっぱに言って、総勢160人の大工1人あたり1つの「雲」があることになります。古川の大工は、自分が造った建物への愛情と仕事への誇りを、この自分だけの「雲」に込めているのです。