● 朝霧


 古川を含めた飛騨盆地一帯は、昔から霧が多く発生するところとして知られてきました。日本列島のほぼ中央部にある飛騨地方は、高い山々の間に深い谷が入り組んでいます。この特有の地形が霧を生むのです。今、古川の月平均の霧発生日は9日。
 『斐太後風土記』には、丹生川村の千光寺で見る朝霧がもっとも素晴らしく、「霧海の底から次第に山が浮かび出てくる様は、船こそ浮かんではいないが、まるで陸奥の松島の眺めのよう」と書かれています。
 朝霧は、古川では吉城(よしき)高校裏の安峰(あんぽう)山頂でも見ることができます。早朝にこの山に登れば、眼下にまさしく霧の海が広がります。広く、みずみずしく、白く、柔らかく、盆地を覆う朝霧。上空には太陽が輝いているのに、かなたの高山も眼下の古川もすっぽりと隠れ、突き出した山や谷の形状からおおよそが推測できるだけです。 やがて、気温が高くなると、霧の海は不規則に穴があいたように少しずつ変形しながら薄れていきます。代わって、道が、ビルが、家が、古川の町の姿がゆっくりと現れてきます。人が起き、動き出す時がきたのです。