アンケート回答に基づく評価・分析

(近畿日本ツーリスト株式会社)

●ツアー全体を通して

[モニターについて]

 飛騨古川町の農村部と市街地の多様な魅力を、ある程度専門的な見地から見直すことをねらったため、近畿日本ツーリストのクラブツーリズム各部門から対象地にマッチした特定のクラブ(歴史、花、写真、スケッチ)を選定してモニターを募集しました。その結果、モニターの資質は高かったのですが、実施日が日曜日から平日にかかったこともあって、シニア層中心の編成となりました。

[ツアー企画・準備調整について]

 受け入れ側にとって、体験プログラムは初めての取り組みであり、パッケージツアーの旅程管理について理解が十分でなかったため、受け入れ態勢の組織化が遅れました。
 今回の体験プログラムの企画主体は、古川町交流ターミナル協会・ホテル季古里でした。季古里は町営ホテルでもあり、町役場との連携も比較的取りやすい立場にありましたが、観光振興という総括的な事業特性を考えると、今後は役場各部署の連携が取りやすい受け入れ態勢作りを考えていく必要があるでしょう。

[旅程・ルートについて]

 東京を出発地とするバスツアーとしました。バスツアーは、最もコストパフォマンスが高く、道路事情も良いので安定したルートではありますが、若干距離が長いので途中にあるアルペンルートの観光ポイントを省略しなければなりませんでした。東京よりもマーケットは小さいですが、中京圏を出発地とするプランも集客力は見込まれると思います。

[宿泊施設]

 ホテル季古里は低価格のシティリゾート風ホテルであるので、若年層やビジネス層には利用しやすい施設です。しかし、現在の造りは長期滞在向きではないので、個室以外での交流コーナー、例えば談話ルーム、囲炉裏コーナー、東屋喫茶コーナーなどの工夫が必要かと思われます。また、個室調度品には飛騨の匠の里らしい演出が不可欠です。


●体験プログラムについて

[歴史ロマン]

 飛騨の匠文化館は、施設デザイン、展示品の内容、ボリュームとも一級の内容でした。ツアーでは副館長の説明があり、モニターにも好評でした。今後は歴史的な建造物を巡るショートコースを、飛騨の匠文化館がリードして、夢ふるさと案内人の活動とリンクさせていくべきでしょう。町並み散策では、地元の熱意あふれるガイド(夢ふるさと案内人)にモニター参加者一同から感謝の気持ちが表されています。このようなツアーでは、地元の方の素朴で熱意ある対応、地域に対する愛情が感じ取れることが大切です。古川町の場合、古墳・史跡だけでは物足りないので、近世浄土真宗の民衆のエネルギーや鯖街道・鰤街道などの生活史を盛り込んだプログラム展開を付け加えることも必要でしょう。

[自然]

 朝霧観賞は、モニターの期待に十分応える迫力ある幽玄そのものの光景でした。写真愛好家は、朝日に輝く朝霧の色の変化を愉しみ、スケッチ愛好家は、朝霧と山々の紅葉が織りなす光景に魅了されました。朝霧のこの光景の魅力は、山間の盆地、谷地の現世世俗的な風景が朝霧によって遮断されたり、現れたりすることによって、あたかも飛騨の文化を育んでいるかのように見えることにあるようです。
 今後、この朝霧観賞を体験プログラムとして完成させていくためには、展望ポイントの徹底的な自然環境保全と、暖をとったり、雨宿りができる休憩施設の整備が必要でしょう。ツアーでは11月中旬の山間部早朝ということもあり、1杯の熱いコーヒーサービスが大好評でした。また、歴史風土を解説する案内板やガイドツールの整備も望まれます。

[生活文化]

 りんご収穫を体験した黒内農園は観光農園化されていないため、広大な圃場が周辺景観とマッチして好評でした。果樹園で働く人々との交流が、芋煮会のような自然の中での昼食を通してできたことも好評でした。今後、観光農地ではない生産農地を都市住民が自由に散策するためには、見学者用通路など、ルールとモラルが必要になってくるでしょう。ホテル季古里が、先進地域として挑戦することも必要です。
 クリスマスリース作りは、実際にアーチストとして活躍している塚本夫妻の農家屋根裏のアトリエをお借りしての体験であり、貴重でした。手工芸愛好家を対象にしたツアーの可能性も十分あります。スケッチ愛好家にとっては、古川の町並み、川沿いの旅情、山村の素朴な風景は一級の地域であると言えます。ホテル季古里をベースにした2キロ程度の自由散策ができるコースを設定すれば、特選のツアーとなる可能性を秘めています。

[地域住民との交流]

 2夜連続して、個人の囲炉裏のある民家、地元の公民館というあるがままの場所で、都市住民と地域住民がお酒を交わしながら交流することができました。毎回というわけにはいかないでしょうが、実際に住民が生活している場所での交流という点が参加者にも安心感とくつろぎを与えたようです。


●観光拠点開発

 飛騨の匠文化館、山樵館、まつり会館等グレードの高い施設が整備されており、高山の陰に隠れた通過観光地点であることが不思議なくらいです。これは、古川の市街地観光と山村部の観光振興を別々のものと捉えてきたことが原因ではないでしょうか。農村部の生活文化と市街地の生活文化が融合したところに魅力を発見するという点に着眼すれば、飛騨の匠や浄土真宗の信仰文化にも都市住民と地域住民の関心を呼び、新しい発見をすることができるのでしょう。

[情報発信と人材の組織化]

 上記のような展開をするためには、既存のガイドブックはどれも中途半端であるため、ホテル季古里を起点にした何種類かの2時間程度の散策マツプの整備、飛騨古川の散策ガイドブックの決定版の制作に期待がかかります。
 古川町は独自に「ふるさと景観条例」を制定し、2002年のサッカーワールドカップでは出場が期待できるルーマニアからキャンプ地としての内諾を得るなど、多彩な活動をしている地域づくりの先進地域です。しかし、豊富な資源と人材がもっと有機的に機能するために関係者が一丸となれるような、例えばNPO組織のようなネットワークを考えてもよいのではないでしょうか。