●長老の呼びかけで、村人が八犬伝に関心を持つようになった
 三芳村では、平成になるまで里見八犬伝にそれほどの関心を寄せていませんでした。それを証明するように、「南総里見八犬伝」(岩波書店)の校訂者・小池藤五郎氏は「正月頃から野に水仙の薫っている安房の国は『南総里見八犬伝』によって、一入ゆかしさを増している。私はかつてこの地に留まり、小湊・東条・滝田・富山などを歴遊したが、そこに住む人々の多くは『里見八犬伝』の名をも、またその土地が『八犬伝』中に現れていることも知らない。誠に日本文学中屈指の名作が、余りにも現代人とは没交渉である点を悲しまれてならなかった」と記しています。
 元・三芳村教育委員長の渡邉敬一さん(85歳)は、この言葉に触発されて公民館で「八犬伝」を読む会の開催を呼びかけ、学習を始めました。渡邉さんはその成果を「南総里見八犬伝と滝田城」(平成7年)「晩年の滝沢馬琴・琴門の風」(平成11年)という大著にまとめて自費出版し、村人に配布しています。
 現在はさらに本格的に里見八犬伝の歴史ロマンを村人の間に広めようと、渡邉さんら村の長老たちを中心に「まほろば歴史・文化探検隊」(代表・平川政男さん、事務局・三芳村教育委員会次長吉野充さん)が結成され、村内19地区の子ども会と一緒になって活動を始めています。

●プロの人形劇団を呼んで八犬伝の観劇会を開催
 「まほろば歴史・文化探検隊」はまず、プロの人形劇団を呼び小学校の講堂で里見八犬伝の観劇会を開きました。子どもたちが楽しみながら歴史や伝統に触れることができるのは、ストーリー性があり目でみてわかる演劇や映画、人形劇などです。里見八犬伝を題材にした人形劇は、この後に行われた歴史学習のきっかけになっています。
 集まった観客は約150人。各地区の子ども会の子どもと父母、高齢者たちです。
 上演に先だって、「南総里見八犬伝」のあらすじと時代背景などの解説があり、作者の滝沢馬琴の生涯、犬塚信乃、犬江親兵衛ら物語の主要人物が紹介され、人形の動きも説明されました。
 上演時間は約50分。古典的な言葉が混じる劇中の会話や登場人物の名前にもめげず、子どもたちは八犬伝のドラマティックな展開に引き込まれ、真剣に舞台に見入っていました。特に、伏姫が犠牲的な決断をする場面では、女の子たちの間から「かわいそう」とのささやきが上がっていました。
 観劇会後の学習会では、八犬伝の舞台となった滝田城址も訪ねました。案内人は「まほろば歴史・文化探検隊」のメンバーと夏休みの自由研究で里見八犬伝をテーマに取り組んだ子どもたち自身です。

●道の駅「三芳村」で歴史ロマンの紹介と農産物販売
 三芳村では、むらを訪れる都会の人たちの道標に、村内各所の史跡と歴史ロマンを結びつけた散歩道マップをつくり、道の駅「三芳村」にも歴史ロマンを紹介するコーナーを設けることにしました。
 三芳村の自慢は名作の舞台だということだけではありません。東京から2時間という立地と温暖な気候を活かして、みかん、いちご、メロン、花などを栽培して市場に出荷するだけでなく、都会の人を呼び込む農業収穫体験も積極的に実施しています。
 また、道の駅「三芳村」での地元農産物販売にも力を入れています。酪農も盛んで、酪農家8人が協力して「有限会社みるく工房」を立ち上げて牛乳処理施設を自前で持ち、「みよし村の牛乳」「みよし村のアイスクリーム」「みよし村のヨーグルト」ブランドで販売も手がけるようになりました。
 このように、三芳村では村独自の資産を開発して、それを都会に向かってアピールしつづけています。