● 太夫


 太夫とは、いざなぎ流の神官のことです。太夫は、祭文・御幣などの様々な知識・技術を習得し管理しています。世襲制ではなく、太夫を目指すものが師匠に弟子入りして、口伝で伝授してもらうというスタイルをとっています。一人前の太夫の証である「許し」をもらうまでに、10年はかかるといわれています。太夫は、普段は他の村人同様、林業や農業に従事し、依頼があると家へ出かけて行くのです。
 太夫の役割は4つあります。それは、氏神や家の「神祭り」、病気治しの「病人祈祷」、弓を叩いて神憑りして託宣(占い)を行う「祈念」、山の神や水神をなだめ、自然災害を防ぐ「鎮め」の4つです。
 太夫の装束は神道の装束に近く、手にする錫杖(しゃくじょう)は修験道行者のものに似ています。祭儀には神式の祭文の他に、梵字(ぼんじ)のような文字を書いた角柱の前で仏式を想起させる経文も唱えられます。まさに神仏混淆の世界ですが、明治時代の廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)までは、このような姿がむしろ自然な姿であったと考えられます。自然と神仏を畏れ敬う杣人(そまびと)の敬虔な祈りの様式が、消滅することなく伝えられていることは驚くべきことといえるでしょう。