アンケート回答に基づく評価・分析

(近畿日本ツーリスト株式会社)

●ツアー全体を通して

[企画・準備について]

 受け入れ側は、物部村役場企画室小松室長自らが陣頭指揮にあたり、役場あげての取り組み態勢を早期に組むことができました。物部村には宿泊施設が第3セクター運営のべふ峡温泉1軒しかなく、滞在型観光の正否はひとえにべふ峡温泉の活性化とともにあると言ってもよいでしょう。その意味で、今後のツアープランづくりに宿泊施設関係者の積極的な参加が必要です。

[旅程・ルートについて]

 大阪を出発地としたため、明石海峡大橋を渡り高知自動車道を走行するルートとしました。当初は、有名観光地である桂浜にさえ寄らないプランに不安もありましたが、2泊3日の山村滞在型プログラムは、参加者に十分すぎるほどの喜びと忙しさを与えたといっていいでしょう。交通アクセスがさらに改善されれば、四国周遊の新しい観光ルートを開発することができるでしょう。

[宿泊施設]

 和風コテージが回り廊下で結ばれる環境は、すべてのモニターから好感を持たれました。しかし、和式トイレ、良い泉質ながら入浴時間に制限のある温泉、有料テレビ等は時代錯誤の印象を与えたようです。


●体験プログラムについて

[歴史ロマン]

 近年研究者の注目を集めている「いざなぎ流」ですが、いざなぎ流について耳にしたことがあるモニターはいませんでした。しかし、神楽にしては激しい舞と陰陽道・修験道・神道・仏教が混淆した信仰形態が今も生き続けていることに、驚きと感動を覚えたことは間違いありません。ただし、芸能化した神楽と違って生きた信仰儀式の一部分であるいざなぎ流舞神楽は、それ自体神聖な宗教儀礼であり、いざなぎ流の宇宙的全体像を短時間のツアーで紹介することの厳しさはあります。
 千年近くも生き続けてきたいざなぎ流は、外部の目にふれにくい形で伝承されてきたからこそ保存されてきたのであり、情報発信と保存の両立は難しいテーマです。今回、物部村入門編として訪れた高知県立歴史民俗資料館に常設展示として、必要な資料を常時公開するということも考えられるでしょう。
 「御幣切り」も簡単なようで、マニュアルが一切存在しない口伝えの伝承であり、モニターも実際に体験してみるとその難しさを実感していたようです。和紙にカットラインを施すなどの工夫は考えられますが、信仰上失礼にもあたり、宗教儀礼を観光資源にすることの難しさが明らかになりました。ただし、2001年2月にいざなぎ流の大祭が実施されるという情報があり、映像資源として撮影保存してそれらを入門用に公開するという方法も考えられるでしょう。

[自然体験]

 さおりガ原原生林の奥深くに踏み込むイメージによって、自然体験の醍醐味を感じることができました。また、森林管理署の森林官が同行してガイドしてくれたことで、森林環境保全の意義を同時に学習することができました。テーマのあるツアーにはこのような専門家の協力が欠かせません。

[生活文化]

 柚子畑は急峻な斜面に棚田のように石垣を積み上げて作られており、それだけでも都市住民に感動を与えました。わずか20人あまりのツアーでしたが、協力していただいた柚子農家の小松さんが「もう何十年もここにこんなに人が来たことはなかった」と述懐されたことが印象的でした。駆け足でまわったため十分な交流ができなかったことが惜しまれます。柚子園で腰を下ろして、小松さんとゆっくりと会話するような工夫が必要でした。
 かずら細工は山村の生活史を学びながら、アートな体験をすることができるという取り組みやすいプログラムでした。自分の作品をおみやげにすることができ、大変好評でした。
 わら草履作り体験は、山村の乏しい資源を大切にする心を学ぶ貴重なプログラムです。児童生徒を対象にしてわら草履作りをして、1日わら草履通学日にするとか、少し創作風にわらでスリッパを作ってみたら新しいヒット商品になるのではないか、などと参加者の中から次々にアイデアが提案されて、わら草履作りの魅力は大変な可能性を秘めていることが感じられました。


●観光拠点開発

 ツアープログラムの正規プランにはなかったのですが、11月1日から物部村で開催予定の「ブラチスラヴァ世界絵本原画展」を大栃のふるさとプラザで見学することができました。全国でも5カ所程度しか開催されない貴重な原画展で、これまでこの原画展が日本で開催される場合は、必ず物部村でも開催されています。
 大栃のふるさと物産館で開かれているふるさと市は、地元の産品を販売する露天市を多少大きくしたようなものですが、販売量の90%は村外からの買い物客であるということです。今回のツアー参加者もその新鮮さ・価格の安さ、品揃えの豊富さに驚いて、たくさんのおみやげを購入していました。
 物部村では、この大栃地域と宿泊施設のべふ峡温泉が2つの拠点であり、情報発信基地として資料を整備するポイントとして有効に活用することが必要です。