地域に根ざす食と健康の活動交流誌

食文化活動タイトル

日本一の長寿のまちの食生活とは?
−栄養士70人による健康長寿者1,000人への聞き取りでつかんだこと−

(社)長野県栄養士会佐久支部の実践から

<なぜ、佐久市が長寿日本一に?>

 平成7年、平成2年の国勢調査の結果が発表されたとき、市の関係者はびっくりしました。なんと、全国633市のなかで男性の平均寿命78.4歳で第1位、女性は83.7歳で第11位と佐久市が日本一の長寿のまちであることが判明したからです。
 長寿県として、有名なのは沖縄県。沖縄県は豚肉をよく食べ、良質なタンパク質を摂っている、うす味で塩分の摂取量が少ない、冬でも温暖なので冬場も高齢者が運動不足にならない、などが栄養学的に説明されています。
 佐久市はというと、肉類の摂取は特に多くもない、漬物はよく食べるので、塩分の摂取量も多い、ましてや冬は寒い。これでは佐久市の関係者も驚くわけです。なぜ、うちの市が長寿日本一に?(略)
 

<栄養調査ではなく1,000人の暮らしの歴史すべてをつかもう>

 調査に当たってまず栄養士による事務局がつくられました。メンバーは佐久市保健課の阿部伴子さん(現・佐久市立国保浅間総合病院)、雨宮病院の雨宮国子さん、浅間総合病院の徳野力さん(現・佐久市保健課)、同じく浅間総合病院の小松すみ子さん、栄養士会支部長の中村さん、佐久保健所の花岡佐喜子さん、元病院栄養士の保科喜美子さんの七人です。

 調査をどのように進めるのか。「ありきたりの食生活調査ではなく、栄養士ならではの観点が見えるものにしたい」と、七人全員が考ました。
 そして、その結論は「生活が見えないと、長寿につながる食事も見えてこない」(阿部さん)、長寿の人の食を含めた暮らし方の過去と現在のすべてをつかもう、という発想の大転換でした。
 だから、野菜を何g、卵を何個といういわゆる栄養調査、対象者の血液検査も身体計測もしません。
 そうではなく、若い頃から現在までの食事を中心に食習慣、生活習慣、運動量、趣味、酒、タバコ、性格、他に戦争の経験や子どもの頃の遊びなど、ひとつひとつ聞き取りしようというのです。その数は実に93項目。

中村さんが立ち会ってお年寄りにかけ菜の粕汁を作ってもらう
調査結果のまとめ。右から「恋・むすび」、「達者がいちばん」

<ここがちがう!野菜の食べ方、タンパク質の摂り方>

 さて、そして、この異色ともいえる暮らしの丸ごと調査の結果の結果から学びとること−その角度もまた普通とはちがってくるのは当然のことです。
 たとえば、お年寄りがもう一度食べたい昔の味は何かということが重要な分析項目になります。そのナンバー1にあがったのは「かけ菜の粕汁」。実はこの「かけ菜」に長寿の秘密が凝縮されていいたのです。
 また意外なことに、タンパク質が少ないと思われてきた昔の佐久の食事が、大豆の加工品(凍み豆腐、みそ、きなこ)や鯉、鮒などの川魚、あるいは昆虫といったもので多彩に摂られていた、という結果が出ました。

 そのような佐久の食には、この地方が指折りの米どころであるという背景があります。米はもちろん、水田で鯉や鮒を育て、畔では大豆を作り、水路には小魚やゲンゴロウ、土手には地蜂の巣というように、田んぼからの恵みを余すところなくといただいてきたのです。
 「かけ菜」が象徴する素材の丸ごと・多彩な活用、昆虫食が象徴する地域の食資源全体を上手に生かす食生活。ことさら健康食品を食べているわけではなく、佐久の風土から生まれたそのような食生活が健康長寿につながっていたといえます。
 結果をまとめるに際し、京都大学人間・環境学研究科の家森幸男先生にも助言をいただき、世界の長寿地域の食生活と共通点が多い、ということも指摘されました。  (略)

データも検証 健康で長寿のまち 佐久市

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