日本生物科学者協会編集 農文協発売
生物 科学
 
バックナンバー
本書のねらい
投稿の手引き
編集委員
購入申込
定期購読申込
農文協のトップへ
 
生物科学
Volume 65,No.1 2013

Jul.

目次

特集:生命現象は物理学や化学で説明し尽くされるか

巻頭言:「ゴミ化石」から探るパタゴニアと南極の植生変遷(西田治文)……1

田中泉吏・佐藤直樹:生命現象は物理学や化学で説明し尽くされるか……2
 表題の問いは古くて新しい問いである.科学者や哲学者が昔から盛んに議論を行ってきたが,一向に合意に至る気配が感じられない.これは,この問題が経験的探求だけでは解決されない哲学的側面を持っていることを示唆している.本稿では,この特集で取り上げる論争の道案内として,還元などの哲学的概念について解説しながら,論争の背景を明らかにしていく.
キーワード:還元,説明,創発

横尾剛:生命現象は物理学や化学で説明し尽くされる:原理上の創発の問題における説明責任の非対称性……10
 生命現象は物理学や化学で説明し尽くされるのだろうか.本稿では,経験科学における説明という概念と創発という概念をともに演繹的推論のもとで捉え直し,実際上の問題と原理上の問題とを明確に区別することで,この問題に肯定的に答えることを可能にする議論の概念的な枠組みが与えられる.物理学において示された原理上の説明不可能性の論証としての no-go定理に言及しながら,原理上の問題に対する説明責任という概念に内在する非対称性からの帰結として,生命現象についての還元と創発をめぐるこの問題において,創発論的立場の側に no-go定理の証明という説明責任があることが示される.
キーワード:説明,推論,創発,原理上の問題,no-go定理,説明責任,非対称性

ピエールアラン・ブライヤール:還元主義を越えて――生物学の多元主義的な発展像の追求……19
 生物学が物理学や化学に還元できるかどうかをめぐり,長きにわたり多くの議論が交わされてきた.本稿では,システム生物学の最近の発展を概観し,還元主義者の理想がシステム生物学の説明戦略や課題を反映していないと論じる.還元的な説明が原理上できるかどうかを議論するのではなく,実際上の限界に注目し,それが現行の科学研究に課す制約を検討すべきである.現在の生物学は分子モデルに集中しすぎているが,むしろ多元主義的なアプローチこそが追求されるべきである.
キーワード:還元主義,システム生物学,生物学的説明

中島敏幸:生命システムの通時的階層性における上位から下位レベルへの決定性……31
 環境との境界形成,代謝,自己複製,そして進化という生命の特徴により生命システムは通時的な階層形成をしている.通時的階層とは部分と全体との関係の一つであり,部分が更新されながら全体を通時的に構成していく関係である.この階層において高次レベルの生態系が自然選択による進化を可能にし,下位レベルの生命システムの分子機構の進化を規定する.このことは下位レベルの挙動が上のレベルを形成し規定するだけではなく,逆に上のレベルが下のレベルを規定しうることを示している.
キーワード:生命システム,進化,階層,下向決定性

森元良太:生命現象は物理学や化学では説明し尽くされない……43
 生命現象は物理学や化学で説明し尽くされるのだろうか.本稿では,科学的説明の特徴に焦点を当てることでこの問題に否定的に答える.まず,説明が問いの文脈に依存し,そうした文脈に応じて一つの現象に複数の説明が可能であることを示す.次に,複数の説明の間の関係について論じ,説明戦略の間にトレード・オフが存在することを指摘する.そのうえで,生命現象は多様であり複雑であるため,その謎を解き明かすには多角的観点から複数の説明で補完し合う必要があることを示す.
キーワード:科学的説明,実用論,文脈依存性,トレード・オフ

佐藤直樹:生物学的説明の二元論:生物学的文脈の中の還元論,非還元論……54
 生物現象を物理・化学的な言葉で理解しようとすることは,現在の生物学ではごく自然に思われるかもしれない.しかし,物理学と生物学は根本的に立場が異なる.物理学は,論理的・解析的・数理的な方法論で定義される.生物学は,生物現象に意味や意義を見いだすことを使命としている.さらに,独自の説明原理,歴史性,個体性など,生物学独自の視点に依存した生物学的説明,つまり,生物学的文脈が存在する.さらに,生命というのは,個々の生物現象を超えた共通原理と見なされる.生物現象の理解には,還元論的理解とは別に,生物学的文脈を考慮した説明が求められる.
キーワード:還元論,生物学的説明,生物学的意義

書評-国立科学博物館叢書-(11)『日本の固有植物』


English_conents

Nishida Harufumi : Vegetational history of Patagonia and Antarctica based on fossil plant debri(1)
Special feature : Can biological phenomena be explained away by physics and chemistry?
Tanaka Senji&Sato Naoki : Can biological phenomena be explained away by physics and chemistry?(2)
Yokoo Tsuyoshi : Biological Phenomena can be Explained away by Physics and Chemistry : Asymmetry of Burden of Proof in the Problem of Emergence in Principle(10)
Pierre-Alain Braillard : Beyond reductionism : Towards a more pluralistic vision of progress in biology(19)
Nakajima Toshiyuki : Downward determination of living systems at a lower level by higher levels in the diachronic hierarchy of living systems(31)
Morimoto Ryota : Biological phenomena cannot be explained away by physics and chemistry(43)
Sato Naoki : Dualism in biological explanations : reductionism and non-reductionism in biological contexts(54)
Book review(64)


生物科学のトップへ農文協のトップへ

農文協の定期刊行物
農文協のトップへ
月刊 現代農業
季刊地域
別冊 現代農業
季刊 うかたま
隔月 食農教育
月刊 初等理科教育
月刊 技術教室
隔月 保健室
 
関連サイト
食と農学習のひろば
「総合的な学習の時間」で食農教育をすすめる先生がたを支援するサイト。教材づくりに役立つデータベースや書籍やリンクを紹介。
ルーラル電子図書館
有料・会員制の電子図書館。食・健康・農業・環境などの情報を検索・表示。
田舎の本屋さん
有料・会員制のインターネット本屋。本探しからお届けまで。会員は送料無料。

ページのトップへ


お問い合わせは rural@mail.ruralnet.or.jp まで
事務局:社団法人 農山漁村文化協会
〒107-8668 東京都港区赤坂7-6-1

2013 Rural Culture Association (c)
All Rights Reserved