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生物科学
Volume.70,No.1 2019

Jun.

目次

特集:生物系統地理学と地質学からせまる日本列島の生物多様性の起源

巻頭言:分野をつなぐ「生物科学」(海部陽介)……1

井坂友一・岩崎貴也:日本列島を舞台にした生物系統地理学の現在……2

磯崎行雄:日本列島形成史と陸上生物相の系譜:日本海誕生と弧状列島の独立……7
日本は約7億年前に超大陸ロデイニアから分裂した南中国地塊の北東部に起源をもつため,古生代生物群は南中国のものと近縁であった.中生代初め(約2億3千万年前)に南中国地塊が超大陸パンゲアの一部となって以降,日本にはアジア東縁を特徴づける生物群が定着した.現世の陸上生物群の特徴を決定づけたのは,新生代新第三紀中新世(約2千万年前)の東アジア大陸縁での日本海形成/日本列島の独立に伴う地理的隔離であった.最後に第四紀には氷期周期による間欠的な交雑が大陸との間でおきた.
キーワード:日本列島,化石,南中国,地理的隔離,日本海

矢部淳:日本列島の温帯林はいつ成立したか? ―植物化石から読み解く新生代の植生変化―……15
日本の温帯林の成立史を新生代の地球環境変化と日本列島形成のタイミングと合わせて考察した.古第三紀中頃の日本には,温暖気候のもとで多数の絶滅属を含む森林が広がっていたが,始新世中頃にはじまった寒冷化によって,現在の温帯林を構成する多くの現生属への交代が起こった.この頃に出現したブナ属は,その後,寒冷期には森林の主要構成要素となったが,現在のような優占林を作るようになったのは中期中新世末―後期中新世以降のことであった.
キーワード:温帯林,ブナ属,地球環境変化,古第三紀,新第三紀

増田隆一:哺乳類の系統地理を探る〜ヒグマの移動史……25
陸生哺乳類の系統地理的歴史を探るためには,その動物の生息環境の変遷および陸橋・海峡形成史との学際的な比較研究が不可欠である.さらに,広域に分布する哺乳類を研究対象とすることにより,大陸内での移動に加え,日本列島への渡来や地理的隔離の歴史が明らかになってくる.本稿では,筆者らが取り組んできた北半球に広く分布する哺乳類,とくにヒグマに着目し,新しい知見および生物地理学を考えるうえでの共通な課題を紹介する.
キーワード:哺乳類,系統地理,渡来,ヒグマ

東城幸治・竹中將起・谷野宏樹:地史の影響を強く反映する水生昆虫類の生物系統地理……31
地球上のあらゆる生物は,地球の歴史(地史)の影響を受けながら世代を繋いできたはずであり,これらの間には深い関係があるはずである.地史の議論なしに生物系統地理を語ることは不可能であるのだが,悩ましいことに,生物の系統にせよ,地史にせよ,解析技術がどんなに進展したとしても推察の域から脱することはできない.再現実験が不可能な進化や地史の研究分野において,真実を知ることはできないのだが,多くの知見を蓄積することで,より真実へと近づくことはできるはずである.分子系統学の台頭により,系統進化の分野は大きく進展しつつある.ここでは,地史との関連性を比較的見出しやすいと考えられる水生昆虫類を取り上げて,その系統進化について議論してみたい.
キーワード:水生昆虫,分子系統,遺伝構造,中央構造線,フォッサマグナ

百原新:鮮新・更新世の種実化石から紐解く中部・西南日本の植物相形成過程……42
鮮新・更新世は,日本列島の山地形成が活発になり,氷期・間氷期の気候と海水準の変動が激しくなった時代である.火山灰層や海成層といった鍵層を用いて,調査対象となる地域から産出する種子や果実などの大型植物化石の年代を決定することによって,その地域の環境をこの時代のグローバルな環境変化に位置づけることができる.本稿では,植物化石の年代決定の方法と,鮮新・更新世の中部日本の植物相変遷を概説した上で,この時代の環境変化が日本各地の植物相や植物の分布に及ぼした影響について解説する.
キーワード:第四紀,大型植物化石,気候変化,地形変化,植物地理

岩崎貴也・奥山雄大:超並列DNAシーケンサーを用いて日本列島における植物の分化・多様化に迫る……52

関口秀夫:人間にとって「健康な生態系」とは何か?……54
「健康な生態系」を学術用語として使うことの妥当性を3つの視点から吟味した.(1)科学の用語としてではなく,またメタファーとしてでもなく,健康という言葉を文字通りそのまま受けとる態度,(2)健康が科学の用語として有用か否か,そうではなくメタファー(比喩・暗喩など)であるとすれば,(3)複雑でわかりにくい事柄をわかり易い言葉に代替するメタファーとして健康は適切か否か.「健康な生態系」は純粋な(自然)科学的な概念ではなく,価値負荷性を帯びた科学的な概念である.純粋な科学的な概念であるかのように誤解し,またメタファーであることの危険性を忘れれば,実際の生態系管理に有害な影響を及ぼす.
キーワード:健康な生態系,生態系サービス,持続可能性,価値負荷性概念,メタファー


English_conents

Kaifu Yousuke : Biologial Science (Tokyo) as an agent of linking different fields (1)
Special feature : Biodiversity in the Japanese Archipelago : insights from current geological and phylogeographical perspectives
Isaka Yuichi & Iwasaki Takaya : Present status of the phylogeoraphy in the Japanese archipelago (2)
Isozaki Yukio : Geotectonic history of the Japanese Islands and lineage of the terrestrial biofacies : contributions of the Japan Sea opening and the isolation of the island arc (7)
Yabe Atsushi:When were the modern temperate forests established in the Japanese Islands?
-paleobotanical approaches for floral changes during the later Cenozoic (15)
Masuda Ryuichi : On phylogeography of mammals, including brown bears and badgers (25)
Tojo Koji, Takenaka Masaki & Yano Koki : The molecular biogeography of aquatic insects in which the influence of geological history is strongly reflected (31)
Momohara Arata : Development process of flora in cetral southwestern Japan based on
Plio-Pleistocene fruit and seeds fossil evidence (42)
Iwasaki Takaya & Okuyama Yudai : Elucidating the speciation and divesification of plants on the Japanese archipelago using high-through put DNA sequencers (52)

Sekiguchi Hideo : What do they mean by a healthy ecosystem? (54)



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