ネッカリッチによる卵質の改善

――水とカルシウムと卵殻質――

岐阜教育大学
農学博士 技術士 坂井田 節
平成4年10月

1.はじめに 

2.飲質と卵殻質 

3.各種処理水 

4.木酢酸粉末による卵殻質の改善

5.生産現場への応用改善

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ネッカリッチとは・・・
300度ぐらいで焼いた広葉樹の樹皮炭に木酢を吸着させたもの。


1.はじめに

水は生命の維持に絶対必要なものであることは、今さら言うまでもない。例えば鶏の場合、鶏体の約3分の2は水で占められており、その20%を失なうと死に至るといわれている。生理学的には栄養素の運搬、化学反応の場の提供、老廃物の搬出、体温調節など、生命現象の主要な部分のすべてに関与している。

 一方水質の面から水の中に含まれているミネラルや有機物等が、摂取した食物や酵素の溶剤となり、その微量成分が消化を営む微生物の養分や刺激物となるほか、諸酵素に対しての緩衝剤ともなる。このことは生体以外の発酵や醸造、食品製造、浸剤と見られるお茶、漢方薬などの有効成分抽出にも水質はきわめて重要であり、それぞれ真剣に吟味がなされている。

 近年安全性・健康性志向の高まりに伴って、水に対する関心が急速に高まっている。その結果、各種の浄水器が普及し、ミネラルウォーターの消費量も大幅に伸びている。一方各種の処理水とその効果についても研究が行われており、木酢液(森林酢)も水の構造を変化させる作用があり、水質の改善が可能のようである。ネッカリッチ投与による鶏卵肉生産性向上・品質の向上についても、このような水質の改善が作用機序の一つになっていることも考えられる

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2.飲水と卵穀質

[1] 水質の重要性

鶏が毎日飲む水の良否は、生産性や生産物の品質に多大の影響を及ぼす。高水準の成績を維持し、高品質の鶏卵肉を生産するために水質の良否は、きわめて重要な要因である。水質に影響する化学的・生物学的物質は、あらゆる自然水にさまざまな程度で含まれている。それらの多くは比較的無害であり、なかにはむしろ有益なものもある。しかしあくまでも程度問題である。

 Balnaveら(1986〜1989)は最近飲水中のミネラル含量が、卵穀質に及ぼす影響について一連の報告をしている。
 ある農場において全体に卵穀質がよくない原因を究明していく中で、飲水が要因の一つとして考えられた。

 そこで同一雛、同一飼料、同一飼養方法で、飲水だけを水道水と原因と思われる地下水(第1表)に区分して飼養したところ、後者の方が卵穀異常卵の発生率が高かったとしている。

[2] 飲水中のミネラルと卵穀質

両者の水分組成を比較すると、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、硫酸塩(SO4)などのミネラルが、地下水において多いことがわかる。

 したがって卵穀質の低下は、この飲水中に含まれているミネラルが原因として考えられる。しかしこの地下水に含まれるミネラル含量は市販されているミネラルウォーターと比べて、とくに多いわけではない。

 そこで水道水に各種のミネラルを添加して、再現実験を実施した。ミネラルの添加は、一区一種類とし、添加量は水道水1リットル当たり食塩250ミリグラム、塩化カリウム40ミリグラム、塩化カルシウム120ミリグラム、硫酸マグネシウム300ミリグラム、硫酸銅200ミリグラム、硫酸ナトリウム350ミリグラムとした。90週齢の採卵鶏を用い、6週間行った。

 飼料は、CP16.0%、ME2,750キロカロリー/キログラムで、ミネラルは飼料1キログラム当たりNa1.8グラム、K4.4グラム、Ca35グラム、Mg1.9グラム、Cu15ミリグラム、Cl2.4グラムを含有している。

 実験結果を第2表に示した。卵穀の異常による軟卵・破卵の発生率は、対照区の水道水が3.1%であったのに対し、食塩区・塩化カリウム区は6%以上に達し比率では200%を越え、統計的にも有意差を生じた。

 産卵率についても食塩区・硫酸銅区・硫酸ナトリウム区において有意に低下した。

 飼料摂取量については、塩化カルシウム区において有意に低下した。飲水中に添加されたミネラル量は、飼料中に含まれているミネラル量に比べればごく微量である(Cuを除く)。

 したがって飲水によるミネラルの摂取は、飼料からの摂取量に比べればわすかである。それにもかかわらずNa・Kの塩素塩について、卵穀質の異常は水道水の2倍にも達した。

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3.各種処理水

最近セラミック処理によるセラミック水とか電気分解によるアルカリ水、磁気処理による磁気水など、各種の処理水が話題になっている。これらの処理水を飲水として使用することによって、家畜の健康が増進し、生産性の向上・品質の向上が可能であったり、アンモニアガスの低下など環境浄化が達成されるといった実例報告もある。水の構造はきわめて弱いエネルギーで変化するとされており、たとえば瓶の中の水を揺すっただけでも変化するようである。

 このように水の構造を変化させる微弱なエネルギー源としては、第1図に示したようなものがある。すなわち、遠赤外線(セラミック処理)・電場・磁気(磁場)・金属イオン・超音波などである。それらの処理によって水の構造は、どのように変化するのであろうか。

[1] 核磁気共鳴装置による水の分析

 各種処理水の分析には、核磁気共鳴分光法(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)が用いられ、これは水分を構成している原子核の持っている磁気的性質を利用しようとするものである。たとえば水分子は2個の水素原子と1個の酸素原子が結合した形になっており(H2O)、この原子核の中の状態をみようとするものである。それによって水の構造が解明できる。その結果何がわかるかといえば、水分子の集団(クラスター)の大小がわかる。水分子の集団は、第2図のようになっていると考えられている。大きい集団や小さい集団、集団の大小のばらつきなどが水の良否と密接な関連のあることが最近の研究で解明されつつある。このような研究からいわゆる「おいしい水」の条件としては、水分子の集団が小さいこと、さらにその集団の大きさが均一であることのようである。

 各種の方法で処理した水をNMRで分析したところ第3表に示すような結果が得られた。処理方法のすべてにおいて効果はみられたが、対照水(通過前または原水)との数値の差が大きいほど、水の構造が大きく変化し、効果があったと考えられている。とくに効果が大きかったのは、水の線幅が比率で50%台まで小さくなったセラミックフィルターと電気分解型浄水器であった。しかし麦飯石や磁鉄鉱石のような天然の物質でも効果がみられた。麦飯石は漢方薬の一種であり、一方磁鉄鉱石の間から湧き出た水は良水といわれており、両物質が有効であることは分析結果からも裏付けされたことになる。セラミックについても、ゼオライトや麦飯石を主原料として加工したものであり、天然物に近い。

第3表 各種処理方法による水の変化

    処理方法,水の線幅(Hz:ヘルツ) 比率(%)
[1]セラミックフィルター フィルター通過前 153, 100
  フィルター通過後 84 55
[2]浸漬 原水 128 100
  セラミックボール浸漬 89 70
  麦飯石浸漬 97 76
  原水 100 100
  磁鉄鉱石浸漬 85 85
[3]浄水器, M社浄水器通過前 90 100
  M社浄水器通過後 65 72
  E社磁気型通過前 113 100
  E社磁気型通過後 106 94
  原水 128 100
  N社電気分解型酸性イオン水 65 51
  N社電気分解型アルカリ性イオン水 64 50

備考[1] 測定時の水温は20℃である。
 [2] 松下和弘著「核磁気共鳴装置でみた水」
 サンロード、東京、1990。

[2] セラミック水

 生産現場を巡回すると、セラミック処理した水を給水している農場もある。もっとも簡単な方法としては、セラミックを水槽の中に浸漬するものである。材質にもよるがセラミックには、遠赤外線という微弱な電磁波エネルギーを放射する効果があり、そのエネルギーによって水分子の集団を小さくすることができると考えられている。板状のセラミックを水道水の中に10日間浸漬することによって、浸漬しない水道水の線幅124Hz(ヘルツ)に対し、浸漬したほうは109Hzとなった。すなわち前者を100とした比率で後者は88%となり、信号の線幅は12%減少し、それだけ水分子の集団は小さくなったと考えられる。

 このセラミック効果をさらに積極的に活用したものとして、フィルターがある。セラミックフィルターを4回通した水道水の17O−NMRスペクトルは、処理前153Hzであった水の線幅が、処理後は84Hzと、45%も狭くなっており、水の状態がかなりよくなっていることがわかる。

[3] アルカリイオン水

 電気分解型浄水器によって水を電気分解すると、アルカリ性電解水(陰極水)と酸性電解水(陽極水)が得られる。両電解水の特長を第4表に示した。この場合生物学的によい水とは、アルカリ性電解水である。とくに注目すべき点はPH値である。pHは原水の6.77に対し9.70に変化し、かなりアルカリ化している。ミネラル成分についてもカルシウムやマグネシウムは、酸性電解水を100とした比率で186%に達し、大幅に増加している。一方残留塩素・塩化物・硝酸塩・硫酸塩は、アルカリ水において減少しており、酸性水を100とした比率で52〜67%となってる。すなわち後者に比べ33〜48%も少ない。

 電解水をNMR法で分析すると(第3表)、水分子の集団はかなり小さくなっており、pHや成分以外に水の構造についても変化していることがわかる。このアルカリ水はいわゆる「おいしい水」であり飲水としてもよく、この水を使用してお茶やコーヒーを入れるとか、調理に利用すると有効であるとされている。植物では発芽・発根が促進され、その後の発育も順調であるとのことから、家畜への飲水としての利用も有効であろう。

[4] 磁気水

 磁気型浄水器は、強力な磁石(マグネット)のプラスとマイナスの間を通過する際に電子励起作用を生じ、水分子の集団が分断されて小さい集団となり、さらに磁気化によって磁気イオン水(磁気水)が得られるとするものである。これらの現象のうち水の構造については、NMR法による分析によって水分子集団の小さくなることが実証されている(第3表)。

 星田(1990)は、高品質の商品を生産するためには飲水についても吟味しなければといった観点から、各種処理水に注目し実験を行っている。まず育成期について、対照区として水道水区を設定し、これを原水として磁気処理をした磁気水区(マグ・ウォーター区)、二価三価鉄塩を含有する直径2センチメートルのセラミックボールの間を通水するいわゆるセラミック処理をしたセラミック水区(πウォーター区)の合計3区を比較した。28日齢の白レグ16,000羽を用い、103日齢までの75日間実験を行った。飲水器はウォーターカップで、1ケージに1個(13羽収容)配置されている。

 実験結果を第5表に示した。実験終了時の体重は、対照区の1,139グラムに対し、磁気水区は37グラム、セラミック水区24グラムといずれも対照区を上回り、発育の順調さがうかがわれた。その根拠として体重のばらつき(変動)も対照区の7.7%に対し、磁気水区6.8%、セラミック水区5.6%といずれも対照区より斉一性がみられた。実験期間中の斃死羽数は対照区の40羽に対し、磁気水区は22羽と半減している。セラミック水区においても対照区より約30%少なかった。鶏舎内環境浄化の目安として、アンモニアガス濃度を測定している。測定方法は、ビニール袋に同一量の鶏糞を採取し、封印して5分後に検知管を挿入し測定した。3回測定の平均値で対照区の10.5に対し、磁気水区4.9、セラミック水区5.4と処理水区において半減している。

 磁気水が卵質に及ぼす影響については、547日齢の白レグ15,000羽を用い、582日齢までの35日間実験を行った。飲水器はニップル式(ウォーターピック)で、1ケージに1個(5羽収容)配置されている。

 実験結果を第6表に示した。ハウユニットなど内部卵質に差はみられなかったが、卵殻質と密接な関連のあるメクラキズ率(破卵率)は、対照区の8.3%に対し、磁気水区は4.1%と半減している。このような卵殻質改善の傾向は、野外の生産現場においても観察されている。たとえば破卵・奇形卵・ザラ玉などの格外卵が半減したとしている(鶏鳴新聞、1990年10月5日号)。

[5] πウォーター

 π(パイ)ウォーター生成装置は、前述したセラミックボールを数多く内在する円筒が2か所あって、原水はその円筒を通って貯水槽へ一旦貯えられ、飲水として利用される場合も円筒を通過するようになっており、述べ2回セラミック処理をすることになる。それによる水分子の変化については、NMR分析法によれば水分子の集団の大きさは、30%小さくなったことになる(第3表)。

 市村ら(水産の研究、4巻1号・2号、1985)は本装置によって、生体水に酷似した水を量産できるとしている。このπウォーターはきわめてエネルギー準位の高い水なので、生体機能が増進され、かつエネルギー効果が良好になるので、鶏の発育・産卵などが増進され、したがって飼料要求率も改善されるとしている。

[6] 木酢液

 これまで木酢液の投与効果を考察する場合、木酢液中に含有している各種有機酸やミネラル、酵素等に着目してそれらの作用機序を究明しようとしてきた。しかし最近における研究(松下和弘:すぐに役立つ水の生活学、1992、東京)によると、木酢液を水に添加することによって水の構造そのものが変化することがわかってきた。木酢液による水の変化を第7表に示した。

 表から明らかなように、木酢液の500倍液と水道水(希釈に用いた原水)について水の線幅を比較すると、水道水を100とした比率で39%となり、水分子の集団(クラスター)はかなり小さくなったことが推察される。すなわち、木酢液の投与によって前述した各種処理水と同様、水の構造を変化させることが可能である。またその変化の程度は、各種処理方法の中でもきわめて大きい方である。このような水の構造変化によっても、鶏卵肉の生産性向上、品質の向上が考えられる。何故ならば水分子の集団が小さくなるということは、生命体に調和した理想的な水だからである。このような水を毎日飲水することによって、健康は増進する。その結果摂取した飼料の消化吸収もよくなり、卵成分の向上、卵殻質の向上、鶏卵肉の味の向上などにつながるのであろう。

 一方食品には必ず水が関与している。水分含量の0%の食品を我々が直接食べることはない。特に水分含量の高い食品程、水が食品の良否に大きな影響を及ぼす。例えば豆腐の場合、絹ごし豆腐の90%、木綿ごし豆腐の87%は水である。そのため昔から豆腐の命は水であるといわれている。そこで木酢液を添加した水で豆腐やコンニャク、トコロ天などを作ったらさぞいい食品が出来るのではないだろうか。このような観点から現在辻兼食品工業(岐阜県羽島郡笠松町)において、上記食品について新商品を開発中である。試食の結果、木酢液による水処理によって確実に味は変化している。具体的に表現すれば、味が濃厚になる、まろやかになる、味に深みがでるといった感じである。したがってトコロ天の場合、従来のタレではタレの方がまけてしまう感じがするため、タレについても新商品に合せて開発する必要があるようである。

 以上のように木酢液について、含有する成分による効果以外に、水の構造を変化させる素材としての観点から、今後の活用方法を考て行く必要があろう。それによって木酢液の用途はさらに広がるであろう。

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4.木酢酸粉末による卵殻質の改善

 木酢液は従来家畜の排泄物などの消臭効果を目的として使用されてきた。具体的には木酢液を直接排泄物に散布することによって、排泄物から発生するアンモニア濃度が減少したり、臭気が減少することが知られている。しかしこの場合に使用される木酢液は、木炭製造などの際に得られた乾留液そのものである。

 このような従来の使用方法とはちがった形で、最近木酢液の活用が注目されている。すなわち、木酢液を何度も分留精製して家畜に給与したり、作物に葉面散布したり、軟質炭素末に吸着させて、飼料添加したり、土壌改良剤として利用されるようになった。その結果、家畜や作物の生産性向上、品質の向上などの面に効果がみられる。そこで本項においては、木酢液を主成分とする製剤を採卵用鶏種に投与した場合の産卵成績および卵殻質に及ぼす影響について述べる。

[1] 実験材料および方法

 本製剤(商品名:ネッカリッチ[R]、宮崎みどり製薬株式会社)の主成分である木酢液は、カシ・シイ・タブ・サクラなど広葉照葉樹の樹皮や木片を乾留し、タール分などの有害物質を除去し精製したものである。

 さらにビタミンB12やアライントイン(C4H6N4O3)を含有する薬草であるコンフリー(Symphytum officinale)の抽出分や糸状菌であるトリコデルマ・ビリディ(Trichoderma viride)が分泌するセルラーゼ系酵素が添加されている(酢酸として0.8〜1.3w/v%含有)。この木酢液を4倍量の軟質炭素末に吸着させたものが、家畜飼料の添加剤として特許を取得している粉剤である(特許番号:798086号)。本製剤は、バイオマス交換技術を応用して、未利用資源を有効利用したものであり、この点からも注目に値する。

 本製剤の成分はおよそ次のとおりである。粗蛋白質2.5%、粗脂肪0.3%、粗灰分13.4%、カルシウム3.9%、リン0.2%、水分28.6%、pHは7.8%である。

 実験−1は150日齢の白レグ雌300羽を用い、間口22.5センチメートルの雛段状2段ケージに1羽飼いとした。鶏舎はウインドウレス鶏舎で、照明時間は15時間一定とした。飼料は市販の配合飼料でCP16%、ME2,800キロカロリー/キログラムのものを用いた。対照区は本製剤を投与せず、投与区には飼料1キログラム当り15グラム(1.5%)添加した。両区とも150羽ずつで151日齢より実験を開始し、30日間を1期として10期300日間の産卵成績を比較検討した。

 実験−2は大規模農場における実験例で、鶏種は白レグである。実験は1棟1区として行い、対照区1反復、投与区2反復を設定した。実験開始時羽数は対照区9,300羽、投与1区9,341羽、投与2区9,332羽であった。鶏舎は開放式で、30×45センチメートルのケージに4羽飼いとした。飼料は実験−1と同一水準のものを使用し、製剤の投与量は2.0%とした。224日齢より実験を開始し、28日間を1期として7期196日間の産卵成績を比較検討した。

 卵質調査は実験−1において、2〜10月の偶数月に実施した(延5回)。1回につき両区とも80個ずつを無作為に採取し、貯卵中の卵質変化を検討するために、産卵当日から15日後まで5日ごとに4回に分けて20個ずつ測定した。

 産卵成績についての統計処理は、t検定によって区間の有意差検定を行った。生存率については検定によった。卵質調査結果については、区、貯卵期間、測定月を因子とする3元配置法で行い、有意差の検定は区×貯卵期間×測定月の3因子相互作用項を誤差項として実施した。

[2] 実験結果

実験−1の産卵成績を第8表に示した。

第8表 対照区、投与区の産卵成績(実験−1、2)

  実験−1   実験−2    
  対照区 投与区 対照区 投与1区 投与2区
ヘンディ産卵率(%) 73.4±12.5a 76.3±12.6a 77.5±2.7a 81.9±1.8b 81.6±1.4b
卵重 59.4±4.0a 59.5±4.0a 59.7±2.5a 59.5±2.2b 60.0±2.2a
産卵日量 43.6±8.2a 45.4±8.6a 46.3±1.0a 48.8±1.5b 49.0±1.6b
飼料摂取量 105.9±5.0a 107.8±5.1a 113.6±3.3a 111.6±2.9a 111.9±2.9a
飼料要求率 2.43±0.76a 2.37±0.75a 2.46±0.03a 2.29±0.05b 2.28±0.05b
生存率(%) 91.2a 91.3a 90.4a 92.2b 91.9b

備考 [1] 異文字間には1%水準で有意差がある。
 [2] 平均値±標準偏差
 [3] 家禽会誌、24、44、1987.

50%産卵日齢は対照区164日齢、投与区165日齢で両区の産卵率の推移を比較すると、151〜210日齢までの平均産卵率では区間に差がなく、211〜330日齢の間では投与区が常に1.5〜2.6%上回って推移した。331日齢以後両区の差はさらに大きくなる傾向を示し3.7〜6.8%の差を生じた。全期間の平均値では投与区が76.3%となり、対照区を2.9%上回ったが、有意な差ではなかった。

 卵重は区間に差がなく、産卵日量は投与区が45.4グラムで対照区を1.8グラム上回った。飼料摂取量は投与区が107.8グラムで対照区より1.9グラム多かったが、このうちの1.6グラムは製剤の投与によるものであり、実質的な摂取量の増加は0.3グラムであった。しかし産卵日量は1.8グラム増加している。したがって飼料要求率は対照区2.43、投与区2.37で投与区が0.06下回った。なお製剤の投与分を除いた実質摂取量による飼料要求率は2.34となった。

 実験−2について開始前10日間の産卵率は、対照区80.2%、投与1区80.1%、投投与2区80.6%、卵重はそれぞれ55.2グラム、55.0グラム、55.5グラムで、区間に営はなかった。実験開始後の産卵成績を第8表に示した。産卵率は全期間の平均値で対照区の77.5%に対し、投与区は4.1〜4.4%上回り、対照区との間に1%水準で有意差を生じた。卵重は区間に差がなく、産卵日量は対照区の46.3グラムに対し、投与区は2.5〜2.7グラム上回り、対照区との間に1%水準で有意差を生じた。

 卵質調査結果のうち外部卵質について、第9表に示した。

第9表 対照区、投与区の卵質調査結果(実験−1)

  2月 4月 6月 8月 10月 平均値±標準偏差
卵重 57.0 60.0 62.2 61.3 62.4 60.6±2.2a
  57.3 61.2 61.7 61.4 61.9 60.7±1.9a
卵殻厚 0.359 0.350 0.337 0.337 0.333 0.343±0.011a
  0.349 0.355 0.352 0.344 0.365 0.353±0.008a
卵殻強度 3.04 2.86 3.07 2.60 2.62 2.84±0.22a
  3.20 3.17 3.29 2.78 3.00 3.09±0.20b

備考 [1] C:対照区、T:投与区
 [2] 異文字間には1%水準で有意差がある。
 [3] 家禽会誌、24、44、1987.

卵殻厚は産卵期の後半において投与区の方が厚い傾向を示したが、平均値では対照区の0.343ミリメートルに対し0.010ミリメートル上回ったのみで、有意な差ではなかった。しかし卵殻強度については、すべての測定月において投与区が対照区を0.16〜0.38上回った。全期間の平均値では対照区2.84、投与区3.09となり、区間に1%水準で有意差を生じた。

[3] 考察

 木酢液を主成分とする製剤を飼料に1.5〜2.0%添加して採卵鶏に投与することによって、産卵成績の向上がみられた。とくに実験−2においては対照区との間に、統計的にも有意差を生じた。

 また卵殻質の面においても、卵殻厚については区間に差を生じなかったが、卵殻強度には有意差がみられたことから、卵殻構造の緻密性の面において、両区の間に違いがあるものと推察される。

 このような現象の作用機序については、製剤中に含まれている成分が各種の有機酸をはじめビタミン、ミネラル、酵素類、軟質炭素末など多種類であるため、どの物質の作用によるのが特定できない。むしろ1つの要因によるものではなく、これら各種物質の相加的作用によるものであろうと思われる。

 部分的に解明されている点として、本製剤を家畜に投与することによって、畜舎内のアンモニアガスなどの濃度が減少し、環境浄化が可能となることである。また乳牛に対して、体重1キログラム当り1日0.3〜0.5グラム投与することによって赤血球数の増加、ヘマトクリット値の上昇など血液性状が改善されたり、胃汁のpHが正常値に回復するなど、家畜の健康増進に有効であることが明らかにされている。その結果、乳量が増加したり、胃汁中のVFA(揮発性脂肪酸)の産生が高まったとの報告もある。

 一方本製剤を肝臓毒である四塩化炭素を投与したマウスに与えると、これを解毒する作用があるとする報告もある。畜種は異なるが鶏においても、鶏舎の環境浄化、鶏体の健康増進などが有効に作用して、産卵成績の向上、卵殻質の改善につながったものと考えられる。

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5.生産現場への応用

 第4項において、貝化石(商品名:スーパーミネカン[R]、宝化砿産業株式会社)を2〜4%飼料添加することによって、産卵成績の向上、卵殻質の改善による商品化率の向上など、生産性の向上に有効であることを述べた。一方前項において、木酢液を主成分とする製剤を飼料に1.5〜2.0%添加して採卵鶏に投与することによっても貝化石の投与と同一現象がみられることを述べた。そこでこれら両物質を同時に飼料添加し、鶏に与えたらより効果的ではないかと考え、実験を行った。

 具体的には、貝化石1%と木酢製剤1%を同時に添加した区を設定し、対照区、貝化石2%区、カキ殻2%区と比較した。まず産卵成績については(第10表)、産卵率で貝化石+木酢製剤区が78.1%で最高値を示し、対照区・カキ殻区に対し、有意に高い値を示した。

第10表 各区の産卵成績

ヘンディ産卵率(%) 平均卵重 産卵日量 飼料摂取量 飼料要求率 全量,飼料のみ 全量,飼料のみ
対照区 74.0a 66.3c 49.0a 126.2a 126.2b 2.64ab 2.64ab
貝化石2%区 76.5ab 66.0ab 50.3ab 126.1a 123.6a 2.56a 2.21a
貝化石+木酢区 78.1b 66.1bc 51.5b 131.6b 128.9c 2.60a 2.55a
カキ殻2%区 73.9a 65.8a 48.4a 131.2b 128.6c 2.78b 2.73b

 備考 [1] 1羽飼い、2羽飼いの平均値である。
 [2] 異文字間には5%またはそれ以上の高水準で有意差がある。
 [3] 家禽会誌、春季大会号、19、54、1982.

 したがって産卵日量も最高(51.5グラム)となり、飼料要求率についても、貝化石区と同様低い値を示した。

 このようなことから、貝化石と木酢製剤の同時給与は、産卵成績の向上に有効であることが示唆された。

 さらに卵殻質の面においても(第11表)、卵殻強度では2.91と最高値を示した。また破卵発生率についても、集卵可能卵・集卵不能卵ともに最低を示し、両者の合計では5.53%となり、対照区やカキ殻区に対し、有意差を生じた。

 以上のような実験結果から、貝化石または木酢製剤のみを通常量添加するよりも、両物質を通常量の半分にして同時に添加した方が、産卵成績の向上や卵殻質の改善の面において有効であることが示唆された。

 産卵成績の向上や卵質改善に有効な添加剤(物)は、本項で挙げたもの以外にも多数市販されており、それらを活用する場合、単一の物質のみを添加するよりも、何種類かの物質を組合せて添加することも有効であろう。

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