木炭木酢液(サンネッカE)とVA菌根菌資材の相乗作用

大阪ガス株式会社
研究開発部応用研究所 上田 哲也
平成8年11月

1.微生物と環境保全型農業

2.微生物資材の開発経緯と特徴

3.施設栽培への応用

4.木炭木酢液(サンネッカE)とVA菌根菌資材の相乗効果

5.サンネッカEとVA5.サンネッカEとVA菌根菌の相乗効果に関する仮説

6.土作りを中心とした栽培方法の創造を

サンネッカEとは・・・
広葉樹皮木炭にストチュー(森林酢+液糖+焼酎)を配合した炭資材です

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1.微生物と環境保全型農業

 近年、温暖化や酸性雨などの地球規模での環境問題がクローズアップされている。また、農業の分野では、化学肥料や化学農薬の大量使用による環境汚染、残留農薬、作物中のミネラルのアンバランス等の問題への反省から、安全で栄養価の高い作物へのニーズが高まってきている。

 当社では、エネルギー産業の一端を担う企業として、地球環境保全への貢献を目指した取り組みを行っており、「大阪ガス環境行動指針」として行動計画をまとめている。その一つとして、熱帯林の再生や砂漠の緑化、さらには安全な農作物生産に応用が可能な微生物資材(VA菌根菌資材)の研究開発を進めている。

 VA菌根菌はカビやキノコの一種(糸状菌)で、土壌中に菌糸のネットワークを張り巡らせ、土壌中のリン酸やミネラルを活発に吸収して植物の根に与え、植物からは光合成で合成した糖をもらうことによって共生している。共生パートナーである植物は、リン酸等のミネラルの吸収促進以外に、水分の吸収促進による乾燥耐性の向上や病害抵抗性の向上等のメリットを亭受すること明らかになっており、化学肥料や化学農薬の使用を削減できる環境調和型の資材として、農園芸分野への応用が盛んに進められている。また、本年10月22日の閣議で、地方増進法施行令の一部改正案が了承され、微生物資材としては初めて、VA菌根菌が土壌改良資材として政令指定されることが決定した。政府のお墨付きを得た微生物資材として、今後の普及に弾みがつくものと期待される。

本研修会では、当社の農園芸向けVA菌根菌資材の開発経緯及び特徴と、園芸作物栽培での実用例について報告する。特に、ネッカ理研商事の本部専務の御指導に従って進めている、宮崎県各地でのサンネッカEとVA菌根菌資材の複合施用による良好な試験結果を基に、それらの相乗効果のメカニズムに関する仮説も提唱したい。

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2.微生物資材の開発経緯と特徴

 微生物資材の開発としては極めてオーソドックスな手順を踏んできた。しかし、VA菌根菌が人工培養できない絶対共生菌であるため、開発をスタートした1987年当時、国内ではほとんど研究対象とされていなかった。従って、VA菌根菌を微生物として取り扱うための分離・同定技術や菌株のコレクション等も全く無い状態であった。そこで、生物環境研究所の小川所長の励ましを賜りつつ、当社独自で分離・同定技術を確立し、日本各地の土壌から菌株の分離とスクリーニングを行った3)‐4)。その中で選抜された数種類の優秀な菌株を用い、その後の大量培養技術、製剤化技術、保存技術を確立し、農業試験場や農家での実証試験へと進んでいった。(財)日本植物調節剤研究協会の委託試験(OG−104)においても、有効性を評価頂いている。

 実証試験を進める過程で、当社のVA菌根菌資材がどの様な栽培条件で有効なのか、有効でないのか(この明確化が重要)を詳細に検討した。検討項目は、土壌リン酸濃度、農薬(殺菌剤、殺虫剤)、温度、土壌pH、施肥量等である5)。

 微生物資材の中にはどの様な栽培条件でも効果があると唱っているものもあるが、残念ながらVA菌根菌は万能ではない。特に、土壌中の有効態リン酸量には大きな影響を受けるため、リン肥料を過剰に施用している圃場では、VA菌根菌の活性が抑制され易い。従って、VA菌根菌資材を使用する場合には、栽培条件の見極めが重要であり、有効性を発揮させるために慣行の栽培法を一部変更することも必要となる。

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3.施設栽培への応用

 前述したように、施設栽培では過剰にリン酸肥料が施用され、土壌中にリン酸の蓄積が進んでいる場合が多い。これまで実施した200カ所以上の実証試験の結果を総合して、以下の3つの地域・栽培体系でVA菌根菌の有効性が高いことが明らかになっており、当面の応用ターゲットと考えている。

 [1]火山灰性土壌地域(黒ボク土地域)

 東北太平洋側、関東甲信、九州南部を中心に広く分布しており、施設栽培も盛んである。この土壌はリン酸吸収係数(リン酸を吸着して植物が吸収できないようにする性質)が高く、施用したリン酸が土壌に吸着され、非有効態リン酸に変化しやすい。従って、VA菌根菌の活性が高く、リン酸やミネラルの効率的な吸収促進効果が期待できる。

 [2]化学肥料に過度に依存しない有機農業

 [3]新規開墾地(心土肥培地)

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4.木炭木酢液(サンネッカE)とVA菌根菌資材の相乗効果

 当社がこれまでに行ってきた施設栽培での実証試験の中で、非常に高い確率で有効性が現れる例がある。宮崎みどり製薬(株)で進めておられる、木炭木酢液(サンネッカE)を基盤資材とする農法での試験である。試験地は宮崎県内(黒ポク土地域)で、ネッカ理研商事の本部専務の御指導で、ナス、ピーマン、トマト、メロン等の果菜類を対象として実施した(1995〜1996年度)。その結果、サンネッカEとVA菌根菌資材を複合施用する事で、

 なぜこのような相乗効果が起こるのだろうか? VA菌根菌の増殖に炭が有効であることは既に小川所長の研究によって証明されている6)。それに木酢液が加わるとどの様な効果があるのだろうか? 現在基礎的な検討を進めているが、これまでの結果から、相乗効果に関して以下のような仮説を提唱したい。

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5.サンネッカEとVA菌根菌の相乗効果に関する仮説

 ○炭の働き:
 ・VA菌根菌の住みかとして植物への共生を助ける
 ・木酢液を保持し徐々に土壌中に放散する
 →木酢液の効果を長続きさせる

 ○木酢液の働き:
 ・リン酸やミネラルの有効態化を促進する

 ○VA菌根菌の働き:
 ・木酢液によって有効態化されたリン酸やミネラルを、菌糸のネットワークで効率良く吸収する

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6.土作りを中心とした栽培方法の創造を

 環境に配慮し、安全で栄養価の高い農産物生産を目指した、いわゆる「環境保全型持続的農業」が今後の農業のキーワードである。化学肥料や化学農薬の削減のためにも、VA菌根菌をはじめ(まともな)微生物資材を上手く使うことが今後益々重要になってくる。そのためにも、化学肥料や化学農薬に過度に依存した慣行の栽培方法から脱却し、その土地に合った有用微生物が働きやすい、土作りを中心とした栽培方法を新しく創っていく気構えと努力が重要であろう。

 サンネッカEと共に、当社のVA菌根菌資材が、この新しい農業体系の確立と発展に貢献できるように今後とも努力していきたい。

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