木酢液と木炭の混合物(サンネッカE)が
メロン果実のスクロース含有に及ぼす影響

宮崎大学農学部
 續 栄治
平成9年10月

日作紀(Jpn.J.Crop Sci.)66(3):369‐373(1997)
 杜 冠華**・小川 正則・安藤 定美
 続 栄治・村山 盛一***
 (**鹿児島大学連合大学院・宮崎大学農学部・***琉球大学農学部)
 1996年6月5日受理

1.はじめに

2.実験の材料と方法

3.結果

4.考察

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1.はじめに

木炭を製造する際に副産物として得られる木酢液は殺菌作用や作物の発根促進作用のあることが知られている.一方,木炭は吸着性や多孔性などの優れた特性を有しており,古くから農業の現場において利用されてきた.木酢液と木炭の混合物(木酢液1:木炭4 以下,サンネッカEと略称)は両者の特性を持っており,各種作物の栽培において使用されつつある。

 著者らはサンネッカEの作物に対する作用機作を明らかにする目的のもとに実験を続けている.ここではサンネッカEのメロン果実の品質,特にスクロース含量に及ぼす影響を検討した。

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2.実験の材料と方法

1.栽培法

 実験1(付属農場実験):1990,1992および1995年に宮崎大学農学部附属農場ガラス温室で栽培した.10a当たりサンネッカEを300kg,チッソ,リン酸,カリ,石灰をそれぞれ10.4,13.0,10.4,66kg基肥として与えた.いずれの年次ともサンネッカE施用個体は20株であった.

 実験2(佐土原町実験):1991年、宮崎市近郊の佐土原町メロン栽培農家ビニールハウスで栽培した.10a当たりサンネッカEを200kg,チッソ,リン酸,カリ,苦土をそれぞれ19.2,30.4,25.6,100kgを基肥として与えた.サンネッカE施用個体は40株であった.

 実験3(高鍋町実験):宮崎県高鍋町メロン栽培農家ビニールハウスで栽培した.プラスチック製コンテナー(32cm×40cm)に床土(組合芽だし)20リットルを入れ,コンテナー当たりチッソ,リン酸,カリをそれぞれ6.6g,8.8g,4.4g,またサンネッカEを38g基肥として与えた.サンネッカE処理は30個体であった.

2. 植物体乾物重および根の活性調査法

 1995年に実施した実験について,収穫時に地上部ならびに地下部乾物重,葉面積および根の活性を10個体について調査した.地下部の調査はメロンの株を中心に,直径20cmのステンレス製パイプを20cmの深さまで打ち込み掘り取った.掘り取った後丁寧に洗浄し,根の活性測定と,乾物重の測定に供した.根の活性は3リットルビーカーに水道水を入れ,ビーカー中の溶存酸素量を溶存酸素計により測定した.個体毎に根組織を6分間ビーカーに浸し,溶存酸素量の減少を求め根の活性とした.乾物重は80℃の熱風乾燥器に入れ,48時間後に測定した.葉面積の測定は葉面積測定器(林電工TYPEAAM‐5)を用いた.

3. 糖類の分析法

 果実の糖含量はいずれの実験においても受粉日の揃った平均的な果実6果について分析した.試料は収穫直後,果実の赤道面から上部へ約2cm幅で切り取り,外果皮,種子および内部の柔らかい部分を除去し,果肉部を裁断後ただちにガーゼで搾汁後試験管に移し,3,500回転で8分間遠心分離を行い,上澄液をマイクロフイルターで濾過した.得られた試料を10倍に希釈し,分析に供した.

 糖類の分析は高速液体クロマトグラフィで分析した.分析条件は次に通りであった.カラムはTSKgel‐80,4.6mm×25mmで,カラム温度は80℃であった.移動相としてアセトニトリル:水(75:25)を用い,1分間に1の流速であった.検出は示差屈折計を用いた.測定は1試料につき2回行い,その平均値を用いた.

4. スクロースリン酸合成酵素活性の測定法

 スクロースリン酸合成酵素(SPS)活性は糖含量の測定に用いた果実4個体について分析した.赤道面から下部へ約2cm幅で切り取り,種子および内部の柔らかい部分を除いた果実の中央部2ケ所からそれぞれ1gを取り分析し,平均値をその個体の活性とした.試料はあらかじめ冷却しておいた乳鉢に入れ,酵素抽出液5ml,石英砂1g,牛血清アルブミン(BSA)25mg,ポリクラール30mgを加え磨砕した.磨砕された試料はミラクロスで濾過し,38,000gで10分間遠心分離した.上澄液2.5mlをSephadex G‐25を詰めたPharmacia Biotech PD‐10カラムに移し,3ml流した後2.5mlを酵素液として採取した.得られた酵素液は酵素反応液50μlと混合し,30℃10分間インキユペートして酵素を反応させた後,1規定の水酸化ナトリウム70μlによって素早く反応を止めた.プランクはインキユペートせずに酵素反応液と混合した後ただちに水酸化ナトリウム70μlを加え,氷中で保管した.反応終了後,反応に用いられなかった基質を分解するために,沸騰水で10分間煮沸した.室温に戻した後,95%エタノールに0.1%(V/V)になるようにレゾルシノールを溶かした発色液1mlを加え,80℃で8分間インキユペートした.室温に戻した後,分光光度計で520nmの吸光度を測定した.プランクも同様に行った.分光光度計によって測定された吸光度は検量線と照合され,プランクとの吸光度の差から生成されたスクロースの濃度を算出することによって酵素活性を求めた.

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3.結果

1. 収穫時の乾物重および根の活性

 収穫時に地上部ならびに地下部の乾物重,葉面積および根の活性について調査した結果を第2表に示した.乾物重は地上部,地下部ともサンネッカE施用区と無施用区間に差異はみられなかったが,葉面積では前者が後者より有意に大きかった.また,根の活性もサンネッカEの施用で高まることが認められた.

2. メロン果実中の糖類の濃度

 4年間,5栽培試験において得られた結果をまとめて第3表に示した.果実重についてみると,実験3(高鍋町)ではサンネッカE施用区と無施用区間にほとんど差異はみられなかったが,実験1(附属農場)では後者が前者を上回る値を示した.スクロース含量は年次によって若干異なり,1991年および1995年実験において高く,1990年と1992年ではやや低かった.しかし,いずれの実験においてもサンネッカEの施用によってスクロース含量は増加する傾向を示し,無施用区に対しても9‐28%増加した.一方,グルコースおよびフルクトースでは実験によってやや趣を異にしており,実験2(佐土原町)および実験$ではサンネッカE施用区の含量が無施用区より低かったが,その他の実験では施用区が無施用区をやや上回っていた.

 総糖量についてみると,実験場所によってやや異なり,実験$および$ではサンネッカE施用区が無施用区を上回る値を示したが,実験$では両者間に差異はみられなかった.
 2農家で栽培した実験から成熟期に果実を数回採取し,果実中の糖類を経時的に分析した結果を第1および2図に示した.第1図(実験2)をみると,スクロース含量は受粉後36日では低く,36日以降増加傾向を示し,54日まで増加した.サンネッカE施用区は受粉後42日までは無施用区を下回ったが,48および54日後では無施用区を上回った.グルコースおよびフルクトースではサンネッカEの施用区と無施用区間に明瞭な差異はみられなかった.これらの単糖類は受粉後42日目においてほぼ最大値に達し,その後漸次減少する傾向がみられた.

 第2図(実験3)をみると,受粉後45日目ではサンネッカE施用区のスクロース含量は無施用区を下回ったが,55日目では施用区が高かった.グルコースおよびフルクトースについてみると,サンネッカE施用区のこれらは受粉後45日で最大に達し,その後減少した.無施用区ではこのような傾向はみられず,受粉後35日から55日までほぼ同様な値を示した.

3. スクロースリン酸合成酵素活性

 実験1(附属農場,1995)で得られた成熟果実のスクロースリン酸合成酵素(SPS)の活性を第4表に示した.サンネッカE施用区のSPS活性は無施用区のそれより10%程度高かった.

 第3図(実験3,高鍋町実験)にはメロン果実の成熟期に伴うSPS活性の推移を示した.受粉後45日目まではサンネッカEの施用,無施用に関わらず低い活性であったが,45日以降,SPS活性は高くなった.特に,サンネッカE施用区の果実のSPS活性は急激に増大し,無施用区上回る傾向を示した(10%水準で有意差).

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4.考察

 メロン果実の糖蓄積についてみると,受粉35日後では低く,時間の経過とともに増大し,受粉後およそ55日頃最大に達し,ほぼ成熟を迎える.Lingle and Dunlap4)によると,メロン果実の糖含量の大部分はスクロースであるとされている.サンネッカE施用と成熟期のメロン果実のスクロース含量との関係をみたところ,5実験すべてにおいてサンネッカE施用区の果実が無施用区を上回り,その程度は9‐28%を示し,サンネッカEはメロン果実のスクロース含量を高めることが観察された.グルコースおよびフルクトースについては一定の傾向はみられなかった.サンネッカE施用によってスクロース含量が増加することはサトウキビ7)およびトマト1)において報告されており,サンネッカE処理によるスクロース蓄積の機構を明らかにすることは興味のあることである.本実験においては,サンネッカE施用区の果実重は無施用区のそれよりやや小さく(実験3以外),糖含量では前者が後者より高く,果実の小型化に伴う糖濃度の濃縮効果の可能性も推測されるが,この点については今後検討する必要があろう.

 メロン果実におけるスクロース合成はスクロースリン酸合成酵素(SPS)の活性と密接に関係していることが報告されている(Lingle and Dunlap).さらに,Hubbard et alはスクロース含量の遺伝的に異なるメロン系統のスクロース合成の差異は果実の成熟過程のSPS活性の強度が密接に関係することを,またSPS活性はグルコース‐6‐Pおよびフルクトース‐6‐Pに作用し,スクロース‐6‐Pを生成することを報告している.このように,メロン果実のクロース合成にはSPSがKey酵素として働いているものと考えられる.

 本研究において,メロンの果実におけるSPS活性を検討したところ,サンネッカEの施用,無施用に関わらず成熟期に近づくにつれ,SPS活性は高くなり,それに連動してスクロース含量も増加することが観察された.サンネッカE施用についてみると,施用区のSPS活性は無施用区のそれより高く,スクロースの増加と対応するものであった.サンネッカEの施用によって果実中のSPS活性が高められ,これによってグルコースおよびフルクトースからスクロースへの合成が促進されたことを示唆するものであろう.本実験において,サンネッカE施用区と無施用区間のグルコースおよびフルクトース含量が実験によって相違した原因は定かではないが,その一つは分析に供した果実の成熟度に違いがあったことによるものと考えられる.

 作物に対するサンネッカEの施用についてのこれまでの研究をみると,サンネッカE施用によって作物の根の分化や伸長が促進されるとともに,根の活性も高まり,無機養分の吸収が促進されることが報告されている1).また,サトウキビではサンネッカEの施用によって葉面積ならびに葉身のクロロフイル含量が増大し,CGR,NARおよび光合成速度が増大することも知られている.本研究においてもサンネッカEの施用はメロンの根の呼吸活性を高め,葉面積を増大させることが認められた.このことは,メロンにおいてもサトウキビ同様にサンネッカE処理が根の活性を高め,無機養分の吸収を促進し,葉身の拡大やその生理機能を高めるとともに光合成速度を高め,基質の供給を増加させ,また他方ではサンネッカE施用がメロン果実の生理活性を維持し,果実中のSPS活性を高め,スクロース含量の増大をもたらすことを推測させる.

 謝辞:スクロースリン酸合成酵素の分析に際しては佐賀大学農学部助教授野瀬昭博博士にご指導を頂いた.ここに記して謝意を表する.

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