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 よい炭が焼ける指針 -黒炭の製炭手順素案-

栃木県立鹿沼農業高等学校 教諭 萩原 靖弘(はぎわら やすひろ)


 製炭を生業としている焼き子の方達と一緒に製炭を行い検討を加え合いながら作製した素案のようなものです。
 黒炭の製炭法に関しては、工業的に資本が行っているものを除けば、よい炭が焼ける指針であると自負しております。

1.炭材の調整2.炭材の立て込み3.上木の積み込み4.予備乾燥(口焚き)・着火5.炭化6.精錬


.炭材の調整

◆1 太さ(直径)9cm以下のものは、割らずに炭材とする。

   特に、直径4.5cm以下の細い炭材は、蒸気乾燥が太材に対してよく進むため(水分傾斜が小さい)、硬度の高い炭に焼き上がる。 

◆2 割物は、木口面の一辺の長さが4.5cm以下なるように調整する。

◆3 太い炭材は、三角割または四方柾目に調整する。

 太い炭材は、蒸気乾燥しても心材部分まで容易に暖まり、乾燥しないため、水分傾斜が細い炭材に比較して増大するため、焼き上げた炭に縦割れが生じやすい。また、甚だしい場合は、木口面に煎餅割れが発生する。
炭材は、伐倒後、1か月位穂付きの状態で伐倒現場で乾燥しておき、炭材に調整後、1〜2か付きほど雨に当たらない状態で自然乾燥したものを用いる。窯内に立て込むときの炭材の含水率は30〜35%のものがよい。


 炭材の立て込み

◆1 炭材を立て込む前に窯底部に残っている木炭をきれいに掃き出す。

   窯底に木炭が残っていると、木炭下部2寸位に横裂け・縦裂発生の原因となる。

◆2 炭材と炭材の間に隙間のないように、直立して立て込む。

◆3 窯内中央部に行くに従い、太い炭材を立て込む。

◆4 炭材の太い方(元口)を上にして、直立に密に立て込む。


 上木の積み込み

 炭材を立て込んだら、炭材の上に上木を載せる。

◆1 立て込んだ炭材に接する部分には太いものを、天井部に近づくほど細いものを積み上げていく。

◆2 窯の天井に接する部分には、細い枝木枝条を詰め込む。

 上木は、窯に向かって縦に積み上げても、横に積み上げても、どちらでもよい。

◎ 炭材の立て込みが終わったら、予備乾燥後、点火する。


 予備乾燥(口焚き)・着火

◆1 点火室に直径9cm、長さ30cm位の台木を窯の方向に2本敷く。

◆2 その上に枯れ木や細い皮付きの材を横積みにする。

◆3 その上に炭火を乗せて点火する。

◆4 枯れ木や細い皮付きの材に十分に火付いたら、順次太い材を乗せていく。

 煙道から排出する煙について  (燻煙の発生)

  燃材が燃焼して生じる燻煙(えぶりえん)が発生し始める。

◆5 火勢が強まったら、点火室の口部最下部に石またはブロックなどを用いて通風口を作る。

 通風口のサイズ  横幅30cm×高さ12cm
 大谷石を加工して事前に作っておくとよい。
 また、通風口の調節を行うために、大谷石をくさび形に加工したものを作っておく  と、容易に調整できる。

◆6 通風口の上30cm位の処に正方形(1辺18cm位)の焚き口を作る。通風口・焚き口以外は密閉された状態にする。

 大谷石を加工して事前に作っておくとよい。
 また、焚き口の開閉を容易にするために、大谷石を焚き口のサイズにカットしておくとよい。
 なお、口焚きをし、炭材の予備乾燥を行うときは、上木に延焼させないように注意する。

 煙道から排出する煙について    (燻煙 ⇒ 水煙)

 燻煙(えぶりえん)は炭材が着火したときに発生する黄肌煙と同様に、刺激臭と辛酸味(しんさんみ)があり、鼻を刺激するが、点火室の燃材の燃焼が進み、ほとんどが燠火(おきび)の状態になると燻煙(えぶりえん)は発生しなくなる。
 炭材は、燃材から発生する蒸気や熱によって熱せられて、蒸気を発生するようになる。このとき、煙道から排出する煙を水煙(すいえん)という。煙色は、褐色から白色に変わる。

蒸気乾燥が開始される。

 蒸気乾燥は、炭材から水分を発散させて炭材を乾燥・収縮させる操作であるが、その操作によって、木炭の皮付きと収炭率を向上させるとともに、木炭特有の亀裂(菊炭特有の木口面に現れる割れ)を形成する。

◆7 煙色が水煙に変わったら、板または石などで、排煙口を半分覆う。

 理由:窯内の通風を押さえ、窯内の蓄熱、上下の温度差を押さえ、炭材を均一に暖め、乾燥を促す。また、排煙口のあいている部分から窯内の湿気の排出を行う。

◆8 焚き口から点火室に薪を投入し、炭材の乾燥を図る。

 煙道口の温度が40〜60℃の状態を1〜3日間継続させ、蒸気乾燥を図る。

◆9 煙道口の温度が65〜76℃位になったら、煙道口を2〜3回に分けて全開にする。

 早いものでは、煙道口の温度が65℃位で上木に着火するものもある。
 一般的には、煙道口温度が75〜82℃で上木に着火する。
 着火時期を確認するためには、通気口から窯内を覗くと、炭材の下方より黄肌煙が吹き出すのを確認できれば、この時期が着火始点である。
 煙道口の温度が83℃になるまでに、口焚きを止め、焚き口を完全に密閉する。


 炭化

 煙道から排出する煙について (水煙 ⇒ 黄肌煙)

上木に着火すると黄肌煙を煙道より排出する。上木の一部が炭化し終わると、一時的に白色の白煙となるが、数時間後には、再び黄肌煙となる。

 上木及び炭材の一部が燃焼する時に煙道より発生する煙を黄肌煙という。
炭化を開始し、木酢を含んだ蒸気の煙で、刺激臭と辛酸味(しんさんみ:辛さとすっぱさの混じった味)のある煙で、鼻を刺激する。

 着火時期は、炭材下方より黄肌煙を吹き出す時をいう。
窯によって炭材下方から黄肌煙の吹き出す時期が異なることに注意すべきである。
  1. 最初の黄肌煙(上木煙)で着火する窯か、

  2. 最初の黄肌煙(上木煙)の後、数時間後に発生する2度目の黄肌煙で着火する窯か

    のいずれであるかを見分ける必要がある。

 着火時期がいずれであるかによって、
  1. 煙道口の開口時期、
  2. 焚き口の密閉時期が異なってくるとともに、
  3. 収炭率に影響を与える。
高温で着火すると収炭率が減少する。

◆10 上木に着火した時点で、通気口を3〜5cmの高さに調節する。

 煙道口の温度が83℃以上になると、窯内の炭材の自然(自発)炭化が開始している状態である。

 通気口の高さを調節し、煙道口の温度が83℃以下にならないように調節する。

 また、煙道口を全部開放して着火した場合には、温度の上昇を見極めながら、2〜3回に分けて煙道口を2分の1〜3分の1に狭め、窯内の温度が急激に上昇するのを防止する。
 当然、窯内の温度が急激に高まる時には、煙道口の温度が急激に上昇しないように、煙道口の調節も併せて行う。
  1. 急激に窯内の温度を上昇させると、木ガスが多く発生する。木酢液を多く採取できるが、収炭率・炭質ともに悪化する。

  2. 収炭率・炭質をともに向上するためには、炭化温度をできるだけ低温の状態に維持し、精錬時に窯内温度を1000℃以上に上昇させる。


 煙道から排出する煙について (黄肌煙 ⇒ 本黄肌煙 ⇒ 白煙)

 煙道口の温度が83℃となると、窯内の炭材は炭化を盛んに行うようになる。
 この時期を大焼と呼んでいる。また、大焼の時期に煙道口から排出する煙を本黄肌煙という。

 大焼も最盛期を過ぎ、煙色が白色に変化する。この白色の煙を白煙(はくえん)という。
 白煙は、タール分の抽出が盛んで、辛みと焦嗅が混じり合った刺激臭と臭いがある。
 白煙はタール分をよく抽出するので、煙道内を覗くと、湿り気のあるタール分が煙道に付着しているのが確認できる。


 精錬

 下に示す、1〜4の状態が現れている状態になったら、狭めてある通風口を開いて精錬を開始する。
  1. 黄肌煙が白煙となり多量の煙を発生している状態である。

  2. 煙道より排出する煙の色が煙道口付近で青煙であり、煙道口の温度が170〜180℃である。

  3. 煙道口より煙道を覗くと、煙道内の煙色が透明で、煙道にタール分が付着している。

  4. 焚き口を開けて窯内を覗くと、炭材が赤色となって燃えている。


 精錬時に通風口を急激に開けると、木炭の下部2寸くらいの部分に縦裂や横裂けが生じたり、窯底に接する部分が砕けることがあるので、通風口は徐々に開く。

 木炭に縦列や横裂けが発生することや、窯底に接した部分が砕けるのを裂けるためには、煙道口の温度が200℃〜230℃位になり、煙道口から排出する煙色に青みが増してきたら、通風口を徐々に開き、煙道口の温度が250℃位になったら、通風口を全開にする。

  注: 
  1. 煙道口の引きがよいと、8〜9の過程で青煙の吹き返しが起こり、窯内から動物の唸り声のような音が聞こえてくる。

  2. 精錬末期になると、窯内で燃焼する木ガスの炎が通風口から吹き出してくる。

  3. 窯内に発生する木ガスの一部は常に天井部に充満している状態であり、精錬時はこのガスのみが燃焼するので、窯内を循環する空気は炭材には直接接触しないので、炭材自体は灰化することはない。

 通風口から吹き返しに注意しながら窯内を覗くと、炭材は赤色ををしているが、炭材表面に灰ができず、容積も減少しない状態を確認できる。
 もしこの時、炭材表面に灰が形成され、炭材の容積が減少する状態であったら、窯内への空気の供給量が過大であるので、通風口を少々狭めて窯内への空気の供給量を減らす。


 煙道から排出する煙について
   (白煙 ⇒ 白青煙 ⇒ 青煙 ⇒ 水あさぎ煙 ⇒ 煙切)

 黄肌煙が煙道より排出される時期は、窯内の炭材が盛んに自発炭化する時期であり、これを大焼というが、大焼の終期になると煙道口より排出される煙は白煙となり、煙道を覗くと煙道に湿気のあるタール分が盛んに付着するのが確認できる。

 煙道口の温度が200℃位になると、白煙の下部に青色の透き通った青煙が発生する。この煙を白青煙という。

白青煙が煙道より排出されるようになったら、精錬を開始する。

 煙道口の温度が250℃位になると、煙道口より排出される煙は透き通り、特に晴天で無風時に、少し離れた箇所(5〜10m位)から煙を眺めてみると、全体的に透き通った青色に見える。この煙を青煙という。

この時期になると、窯内の水蒸気は少なくなるため、煙道口を覗くと、煙道内の最外部に白色の筋状の煙が確認できるが、全体的には、はぼ透き通って見える。
煙は甘味を伴う臭いに変化する。

窯内は精錬最盛期となる。

また、煙突の最下部から連続してタール分が落ちてくる。

 さらに時間が経つと、煙道口より排出される煙は一層透き通り、とくに晴天で無風時には、少し離れた箇所(5〜10m位)から煙を眺めてみると、排煙口のすぐ上側は透き通っており、その部分を通して遠くを眺めると、陽炎(かげろう)のように見えるが、全体的には透き通った淡青色に見える。この煙を水あさぎ煙という。

煙道口を覗き込むと、煙道の中は一層透き通って見える。
煙道に付着しているタール分は乾燥し、カルデラのように各タールの塊の中央部が陥没したようになる。
煙道を通して、その下部を覗き込むと、吹き付け部に赤白色の炎が吹き付けているのが確認できる。
また、排煙口に木片を乗せておくと、その木片は水分を含んだように濡れた状態となる。

 さらに時間が経つと、煙道口より排出される煙はほぼ無色透明に変わる。
とくに晴天で無風時には、少し離れた箇所(5〜10m位)から煙を眺めてみると、排煙口の上側全体に透き通って見えるが、排煙口の上部を通して遠くを眺めると、全体に陽炎(かげろう)が掛かったようにゆらゆらと揺れて見える。
この時の状態を煙切(えんぎれ)という。

煙道口を覗き込むと、よく透き通って見える。
煙道に付着しているタール分は乾燥が進み、黒色から灰黒色に変わる。
カルデラのように見えるタールの塊は薄くなり、時間の経過とともに消失していく。
煙道を通して、その下部を覗き込むと、煙道の吹き付け部に赤白色の炎が吹き付けているのが確認できる。
 また、排煙口に木片を乗せておくと、その木片に水分は付着せずに、乾いた状態となる。
 通気口から窯内を覗くと、窯底より20〜30cm程度上方にあり、窯内の空気の循環に伴って、獣のような唸り声をあげて燃焼している炎の最底面が、窯底より10〜20cm程度に下へ降りていることが確認できる。

 炭材の窯底に接した部分(炭材の底面)まで赤白色に変化していることを確認する。
 次に、通気口から棒を窯内に突っ込み、炭材の一部を倒してみると、「カラカラ、シャラシャラ」と金属音を発しながら炭材が転倒する。窯内に金属音が反響し、こだまのように窯内に音が響き合う。

 窯内の炭材を1本取り出し、素早く水中に没する。
水中で砕けたり割れたりしなければ、良好な炭が焼けたと考えてよい。
炭材が冷えた頃合いを見計らって、水中より引き出して、皮付きの状態、堅さと木口面の割れの状態を調べる。

カシ、クヌギ、ナラ、ブナなどの木炭に適した材は、硬度が高く、皮付きも良好で、木口面の割れが放射状に均等に分布したもの(菊炭)が焼き上がる。

精錬終期の確認と炭窯の密閉

 下に示す、1〜7の状態が現れている状態になったら、精錬を終了し、煙道口・通風口などの総ての窯内への空気の流入口を密閉し、窯内の炭材が完全に消火するのを待つ。
  1. 排煙口から排出する煙色が淡青色または無色の状態になっている。

  2. 通風口から窯内を覗き、炭材の下部まで赤燃した状態である。

  3. 煙道口を覗き込むと、煙道の下の吹き付け部までよく透き通って見える。

  4. 煙道を覗き込むと、カルデラのように見えるタールの塊は黒色から灰黒色に変化し、乾燥して薄くなり、時間の経過とともに消失している状態である。

  5. 排煙口に木片を乗せておくと、その木片に水分は付着せずに、乾いた状態となっている。

  6. 炭材の下部まで赤白色に変化している。

  7. 窯内の炭材を倒すと金属音がする。


黒炭の製炭手順(了)

自然の循環に適合したエネルギーである木炭が注目されています。

森林資源の有効利用、環境保全の観点から見直されております。  
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栃木県立鹿沼農業高等学校 教諭 萩原 靖弘(はぎわら やすひろ)
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電 話 0289−75−2231    f a x 0289−75−1420
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