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Ruralnet・農文協食農教育2000年秋 10号

食農教育 No.10 2000年秋号より

徹底研究「総合的な学習の時間」の授業づくり

「学校で使える!」と小中学校の先生に評判
食農データベースで オンデマンド自主教材づくり

編集部


 「総合的な学習の時間」には教科書がない。地域の食と農をベースにした総合的な学習をすすめるために自分で教材をつくろう。そう思っても、なかなか手間暇かけてられないのが現実だ。そんなとき強い身方になるデータベースがある。

 二〇〇〇年七月二八日、盛岡市NTT東日本岩手支店で開かれた「食と農の情報活用講座」(次頁囲み参照)では、それぞれの受講者が学校で取り組んでいる「総合的な学習の時間」のテーマや関心のあるテーマに沿って、自主教材づくりの実習を行なった。

 各受講者のパソコンに用意された農文協の「食農データベース」(『現代農業データベース』『農業技術大系データベース』『日本の食生活全集データベース』など)から、自分の授業に役立ちそうな情報を選びだし、授業の展開を考えて選びだした情報の配置を変えたり、グルーピングしてコーナータイトルを決めたりして、自分ならではの「オンデマンド自主教材」を短時間で作ってみようという試みである。

◆検索が自由にでき、子どもの関心や
自分の必要にすぐ応えられるデータベース

 「総合的学習における〈食と農〉の情報活用講座」  「アグリフォーラム2000」(主催:アグリフォーラム2000実行委員会・JA岩手県中央会・JAいわてグループ・岩手食文化研究会・岩手大学地域共同センター/後援:文部省・農林水産省・岩手県・岩手県教育委員会・国立教育研究所・NTT東日本岩手支店ほか)の一環として開かれたワークショップ。受講者は、岩手県、宮城県の小中学校の教師が中心で、そのほかに農業高校、農業改良普及センター職員の方々が加わり、総勢18名。午前中、仙台市科学館の岩渕成紀学芸員が田んぼの微小生物のデータベースを紹介して、田んぼの生物的多様性を子ども達に実感させ、〈人が入った生態系〉というものを考えさせる「総合的な学習の時間」を提起。午後は、農文協の「食農データベース」を活用したオンデマンド自主教材づくりを実習した。

 「いやー、病気が出たときはあわてましたよ」。宮城県のF小学校で、この四月から初めて稲つくりに取り組んだというS先生は、発芽が不ぞろいで苗の生育に差が出たり、病気を出したり、なかなか苦労したそうだ。そこで自主教材づくりの実習では、『現代農業データベース』で、「発芽」や「苗」をキーワードにして検索。「キーワードを含んだ記事群がアッという間に出てくるのには驚いた」といいながら、そのなかから、「出芽の遅れ、不ぞろい 原因と対策」「ムレ苗、苗にでる病気の見分け方・原因と対策」「苗の姿・形で知る生育のよしあし」等々の記事を選びだした。

 いっぽう、宮城県Y小学校のN先生は、『農業技術大系データベース』から、東南アジア、韓国、中国、アメリカ合衆国などの「稲作風景」の写 真を集め、自主教材資料集『世界の稲作』をつくった。「女子児童が外国の農村に関心を持つのです。世界地理の学習とあわせて、世界の稲作の違いを写 真で説明できればなぁ、と考えていたのです。今まで、こんなに便利な情報があるとは思いませんでした」とのこと。子どもたちの関心に応えつつ、その関心に広がりを持たせて、子どもたちを伸ばしていくには格好のデータベースであるという。

 このように子どもたちの関心や自分の都合で必要な情報を瞬時に集めることができるのが、デジタル情報から成るデータベースの特徴だ。体験を重視する「総合的な学習の時間」では、地域の自然や食と農をテーマにするものが非常に多い。にもかかわらず食や農の本などはなかなか身近な場所に揃っていないし、たとえ膨大に本があったとしても、自分が求める情報に的確に行き着くのは容易なことではない。

食農データベースの特色と活用のポイント

 総合的な学習の具体的展開との関連で各種データベースの特徴と活用のポイントを見てみよう。

 食や栽培技術の実際を知るには『現代農業データベース』や『農業技術大系データベース』が適している。

◎『現代農業データベース』 自然調和的な農や食の技術、健康福祉、豊かな地域づくりなどを掲載した総合雑誌のデータベース。自然のなかで自然に働きかけて生活文化を築いてきた全国津々浦々の農家の英知の結晶というべき内容をもっている。栽培技術だけでなく、食生活や農家の暮らしが丸ごとわかる。検索のポイントとしては、授業のテーマにしている【作物名】(たとえば【トマト】)と【調理名】(たとえば【ケチャップ】)が両方でてくる資料をさがすのがコツ。

◎『農業技術体系データベース』 農業の各部門の専門の研究者が試験研究の成果 を農業という実践的フィールドを意識してまとめ、農家の経験技術の科学的裏付けも行なっている農業の大百科事典。一見難しそうだが、「目次ガイド」から作物を選んで「総論」の部分に目を通 してゆけば、目的とする作物の生育ステージごとのカラー写真、品種や形態・生理に関するデータなどが簡単に手に入れられる。その作物の原産地・来歴や、日本人とその作物とのかかわりなど、歴史や地理分野と関連した資料も簡単に見つかる。また、作物別 、地域別に実際の農家の経営や技術、歴史が載っていて、一年間の仕事や作物の見方や育て方などがよくわかる。見学先の情報としても大変便利(受講者から「連絡先までのっているんですね」の声あり)。

 「地域学習」につなぐ橋渡しとしてなくてはならないのが『日本の食生活全集データベース』である。

◎『日本の食生活データベース』 84頁の記事でも紹介したように、このデータベースは、現在のように食べ物をお金で買ってくることが普通 ではなかった昭和初期の地域ごとの食生活を、当時若嫁として炊事を担当していた5000人ものおばあさんたちに聞き書きした一級の資料。それぞれ独自性をもった地域自然に働きかけて日々の食生活の糧を上手に取り込む知恵を、各県ごとに自然的・食文化的特徴から地帯区分をして掲載している。

 「地域の生活空間と食べ物」の図や「食文化とその背景」から昔の生活の知恵を具体的に学ぼう。栽培した作物の料理法を「素材の利用法」から調べたり、地域のお年寄りからの聞きとりと比べてもおもしろい。

※これらのデータベースについては「食と農学習のひろば」(http://gakkou.ruralnet. or.jp)の「教材をつくる」のコーナーで検索をお試しいただけます。

 ここに集った受講者である先生たちの話によると、最近の子どもたちは、「農薬を使わずにイネを育てたい」という気持ちをもっているというが、このデータベースには、コイ・フナ農法やアイガモ農法、米ヌカ除草などなどのような除草剤をつかわない農法から、病気が出にくい健康な田んぼの土のつくり方や栽培法まで、無農薬栽培や減農薬栽培の技術情報が満載されている。全国の農家が実際の田んぼで確かめ、研究者がその合理性を確かめてきたような技術ばかりである。子どもたちが安全、安心な稲つくりを選ぶ上で格好の手引きとなるだろう。

◆データベースを編集して自分流の自主教材をつくることで、
授業の構想が広がっていく

 このデータベースを使えば、自分たちの関心からキーワードを設定し検索をかけて、そこで得た情報から知識を深めイメージを拡大して、つぎつぎとキーワードを設定し、食と農の世界の広がりを実感することができる。いわばデータベースによる教材研究であり、ウエッビングである。さらに、そのようにして次々得られた「情報の山」を、「総合的な学習の時間」の一年間の展開を想定して再編集し、自分ならではの資料集をつくることができるのである。

 たとえば工夫を要すのは、子どもたちの関心・主体性と教師の指導性を集約してこれから時間をかけて追求してゆくテーマを設定する春の「導入部」である。トマトをテーマにした学習の導入部の情報をさがしていた岩手県D小学校のN先生は『現代農業データベース』から検索して「クッキングトマトってなんじゃらほい」という記事を見つけた(本誌で連載中の徳島の藤本勇二先生は、大豆をテーマに一年間追求していく入り口に、やはり同じ『現代農業データベース』から「素朴さが口いっぱいに広がるおばあちゃんのきな粉飴」や「(大豆から)おいしいクッキー・アイスクリームだってつくれます」という記事を引き出して、導入部に配している(一三〇頁参照)。

 次に紹介するブドウの自主教材の例では、『日本の食生活全集データベース』から、かつての子どもたちの山ブドウの採取や日常の食風景を示すことから始めているが、これから追求するテーマに対する子どもたちの関心を強めるには、このように、食べるという世界から入るとよいのかもしれない。

◆二時間半の実習で自主教材の骨格ができた

 表は、受講者の一人M・K先生が、ブドウをテーマにして総合学習を行なうことを念頭においてつくった自主教材『わたしたちのブドウ』の目次である。


I ブドウはおやつだ!(『日本の食生活全集データベース』から)

1 季節素材の利用方法
2 子どものころの日常の食風景
3 山ブドウ酒

II ブドウの育ち(『農業技術大系データベース』「果樹編」から)

1 ブドウ(主要作物の形態と栄養生理)
2 開花・結実、果実の発育
(その1) 3 開花・結実、果実の発育

(その2)4 長梢剪定 新梢管理と診断

(その1)5 剪定(その1)

III 世界のブドウ(『農業技術大系データベース』「果樹編」から)

1 ブドウの原産地と特性
2 ブドウ栽培の始まり
3 世界とブドウ

IV ブドウで作る(『現代農業』から)

1 飲む
農家出資のワイン工場(上)
農家出資のワイン工場(下)

2 編む
ツルであむ


 二時間半というごく短時間でつくられた資料集の目次であるが、ブドウを食べることと栽培することをつなげてとらえ、ブドウの加工からのツルの利用まで地域資源としてのブドウを有効に活用する技や知恵を拾い出し、生活文化を豊かにする――そんなブドウと人間の関係を立体的にとらえる授業を展開しようとしていることが、この構成から読みとれる。

 このように、自主教材をつくること自体が、一年間の総合的な学習の構想を深め、練り上げることにつながるのである。

◆フィールドでの農業体験を深める方法が見えてきた

――アンケートの感想から――

 受講者から寄せられたアンケートの感想を紹介しよう。食と農の世界の広がりと深さが見えてくることに、受講者の教師自身がおもしろさを実感したようだ。

■M・N 29歳 中学校教師(理科) 〈PC歴〉五年

〈感想〉教材としてはもちろん各種研修や研究の素材となり得るものをたくさん紹介していただき、本当に役立った一日でした。とりあえずは夏休み明けに提出するレポート「総合学習の具体案」を作る方向性や内容が決まりそうです。私は農学研究科を終了しているのですが、リアルタイムな農業の実状を知ることができました。学生の頃勉強したこととはまた違った角度で農業を考えるきっかけとなりました。ありがとうございます。

■H・N 40歳 小学校教師 五年担任 〈PC歴〉一年未満

〈感想〉現代農業、日本の食生活全集データベース、農業技術体系データベース、大変興味を持ちました。また「学校で使える!」と思いました。今後使わせていただきます。大変楽しく、内容のレベルが高いと思いました。

■I・N 25歳 小学校教師 〈PC歴〉一年未満

〈感想〉まだパソコンを使うことに慣れていないので結構苦労しましたが、とても楽しく参加させて頂きました。本を作るという自分には縁のないようなことに参加することができ、とても良い経験をさせていただきました。機会があったらぜひ、利用していきたいと思います。

■T・K 29歳 小学校教師 五年担任 〈PC歴〉三年

〈感想〉情報・環境といろいろ取り組んでみたいことがありながら今一歩ふみこめていない状況のときに、この講座を受講して大変刺激になりました。農業を題材として取り上げていますが、人脈や知識の乏しさから中途半端な実践をしていました。情報を求めてさらに勉強していきたいと思います。

■T・K 36歳 小学校教師 三学年 〈PC歴〉一年

〈感想〉短時間だったのでもう少しやりたいと思った。はじめはすごく難しいと思ったが、もう少しやって慣れるといろいろできそうだ。本をつくるまではしなくても、テーマごとにパンフレットをつくってストックしておくと授業に活用できると思った。総合的な学習ばかりでなく社会や理科の学習でも大いに活用できそうである。この四月からウィンドウズに切り替ったばかりだが、操作にもっと慣れてまたやってみたいと思うので、このような機会を再び提供して頂ければ有難い。


関連リンク

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