食農教育 No.26 2003年4月号より
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5月
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三種類の土で稲の成長を比較
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編集部
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■目的を定めればもっと面白い
連休明けの5月の学校は、行事がつづき、落ち着いて授業のしにくい時期。バケツ稲栽培では、種まきや苗の移植をすませて、ほっと一息といったところだろうか。忙しさにまぎれて手抜きをしがちだが、ここで子どもたちが栽培に熱中できる工夫をしておくと、その後の展開がぐんと楽になってくる。
5年生を担任してバケツ稲に取り組むことになった大槻逸子先生(福島県須賀川市立第一小学校)は、「ただ栽培するだけではつまらない、目的を持って栽培すればもっと面白い」と考えて、子どもたちに、比較栽培を持ちかけてみた。すると子どもたちは、早速その話に乗ってきた(2001年度)。
■調べ学習で湧いてきた稲への意欲
大槻先生は、「比べること以外はすべて同じ条件にするんだよ」と伝えただけで、何を比べるのか、どうやって観察するのか、観察した結果をどう表現するのかは、子どもたちにまかせることにした。
といっても、突然子どもたちにまかせたわけではない。4月いっぱいは、社会科でお米の調べ学習をしていた。校区内に田んぼがないので、「自分たちが食べているお米のことを何も知らない」ことに気づいた子どもたちは、進んで調べ学習に取り組んだ。お米屋さんや稲つくりをしている友だちのおばあさんのところへも、聞き取り調査に行った。そんななか、資料集の「お米を自分でつくってみよう」という記述を読んだ子どもたちは、教師が持ちかけるまでもなく、「稲つくりがしたい」という気持ちになっていたのだ。
■稲が子どもたちの分身になった
クラスの31人の子どもたちが、「稲の育ち」「生き物」「日照時間」「水量」「土の質」「肥料の量」「土の量」「稲の本数」という8つのテーマの班に分かれ、比較栽培がはじまったのは、5月の末。観察の結果をどう表現するのか、各班では激しいやり取りで議論がつづいた。
その間、大槻先生は口出しをしなかった。たとえば、図1をご覧いただきたい。大人なら、すべて折れ線グラフで表現したくなるが、棒グラフと折れ線グラフを組み合わせれば見やすくなる、というのが子どもならではの発想だ。そんな発想を矯正したりせず、子どもにまかせたところから、比較栽培への意欲が湧いてきた。大槻先生の言葉によれば、「稲が子どもたちの分身になっていった」のである。
■ひっくり返った成育予想
ここで、土の質の比較研究班の研究内容を見てみよう。
四人の班員は、稲用の育苗培土、バーミキュライト(鉱物資材)、砂場の砂という具合に土の質だけ変えて、植付け本数(2本)、土の量は同じにして、比較栽培をはじめた(図2参照)。
育苗培土は近所の農協が用意してくれたもの、バーミキュライトは大槻先生が園芸店から購入してくれたもの、稲はこれも農協が用意してくれたコシヒカリの苗を植えた。元肥は入れず、追肥は液肥を少し施した。
子どもたちの生育予想は、バーミキュライト→育苗培土→砂の順だった。バーミキュライトを一番にしたのは、大槻先生がわざわざ買ってくれたものだからかもしれない。
しかし予想に反して、稲の成長は、育苗培土がバーミキュライトを大きく上回った(図3参照)。よく観察していると、稲には急に成長する時期と、ゆっくり成長する時期があることがわかってきた。また、育苗培土の稲の葉の色は、バーミキュライトの稲と比べて、緑が濃いこともわかってきた。
■土選びの大切さを発見
結局、収穫時の成長の順位は、上から育苗培土、バーミキュライト、砂の順番だった(図4参照)。養分をあまり含まないバーミキュライトの成育が、育苗培土に負けるのは、専門家にとっては当たり前の結果かもしれないが、何も知らない子どもたちには、土選びが稲の生育を左右することを実感する驚き体験だった。ある班員はこう書いている。「土の質がちがうだけで大きさや長さまでも大きなちがいがでてビックリしました。農業の人は、育てるほかに土もえらばないといけないと思います」。
農業にとって土がいかに大切かが、わかってきた子どもたちである。この比較研究で、田んぼの土をもらってきて比較しても、面白かったかもしれない。順位比べはともかく(田んぼの土が一番なのははっきりしているから)、稲の生き生きした様子、バケツに湧いてくる生き物の多様さに、子どもたちは驚くはずだ。
そして、田んぼの土は、自然にできたものではなく、農家が長い年月をかけて作り上げてきたことを学べば(地域の農家に聞取りをしてもよい)、農業は食料を生産するだけでなく、地域の風土そのものをつくってきたことを、実感するにちがいない。
(文責・編集部)
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