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食農教育 No.30 2003年11月号より
多彩な大豆の利用法昭和初期に、農村や都会で台所をあずかってきた女性たちによる語りをもとに書かれた『日本の食生活全集』の中には、大豆をどのようにして加工・調理し、保存したかが次のように書かれています。 「軽米町のある農家では年間約三俵(一石二斗)の大豆を食べている。うち、約一俵は味噌に、残り二俵の大半は豆腐とし、他に納豆やきな粉もつくっている。生豆腐を焼き豆腐にしておけば、日持ちは二、三日のび、油揚げではいっそう長く食べられる。このように一度つくった豆腐を何段階かに食べる工夫がなされている。長期の貯蔵性を持たせ、農繁期に備えるための凍み豆腐づくりも盛んである。豆腐づくりにまわされる二俵の大豆のうち一俵は凍み豆腐だという。これは十二〜一月中の厳寒期をみはからって四〜五回に分けてつくられ、六月いっぱいまで食べられる。」(三巻・「岩手県県北の食」) 自然の寒さを利用した凍結乾燥法冷蔵庫のない時代、昔の人は、少しでも日持ちをさせるため、知恵を絞りさまざまな加工技術を発達させてきました。農繁期に備えての冬の凍り豆腐づくりは、硬めにつくった豆腐を薄く切り、縄で結わえて、軒先につるします。すると、夜には凍り、日中暖かくなると溶けて水が出ます。昔の人は、凍結乾燥法と呼ばれる方法を自然の中で発見し、利用し、保存できる乾燥食品をつくっていたのです。 凍り豆腐はスープ!?だし汁を煮含めた凍り豆腐を食べた外国の人が、「スープだ」と言ったという話を聞きました。 高野豆腐は、乾燥させることで、豆腐とまったく異なる食品になります。スポンジ状になり、だし汁を含みます。豆腐とは別のおいしさがあります。 凍り豆腐を冷凍庫でつくる凍り豆腐は、冬の夜、豆腐が凍るような寒い地方でなくてはできません。しかし、冷凍庫を利用すれば簡単にできます。試してみてください。
干すことでうまみが増す乾燥した食べ物のうち、植物性のものは「乾物」といい、動物性のものは「干物」といいます。 干すことによって水分が減少し、微生物の繁殖を抑えることができるので腐敗させずに保存できます。また、干すことで魚のうま味が凝縮され、鮮魚と違ったおいしさが生みだされます。干物には、素干し、塩干し、煮干し、焼き干し、調味干しなど、多彩な干物があります。 素干しはそのまま、乾燥させます。するめ、さより、身欠きにしんなどがあります。 塩干しは、干物の中で一番多く、塩をつけたり、塩水につけてから乾燥させます。イワシの丸干し・めざし(目刺し)、アジの干物といえば塩干しのことです。ほかに、サバ、サンマなど多くの種類の魚が塩干しにされています。 煮干しは、魚介類を煮てから乾燥させたものです。煮ることによって、含まれる酵素がこわされます。カタクチイワシやマイワシの煮干しは、だしをとるのに用いられ、貝柱、アワビ、ナマコなどは中華料理に用いられます。 焼き干しは、鮒、鮎、ハゼなどの淡水魚に多く、串にさして焼き、乾燥させたものです。 調味干しのみりん干しは、みりんと醤油を混ぜた中に開いた魚を漬けて味付けして、乾燥させたものです。「くさや」は、魚の内臓などを塩漬けし発酵させた液に、開いたムロアジなどを漬け込んだあと、天日干しにします。「くさや」の語源となるような「くさい」匂いと特有の味を持たせた調味干しのひとつです。 おいしさは生干しが一番保存のためなら水分を少なくした堅干しが適していますが、おいしさを味わうには、生干しが一番です。 [材料] 魚(イワシ・アジなど) *みりん干しの場合(四尾あたり) しょうゆ(大さじ3)、みりん(大さじ2)、砂糖(大さじ1)、ごま(適量) *塩干しの場合(一尾あたり) 塩(大さじ1)、水(2カップ半) [つくり方] (1)イワシは手開きに、アジは包丁で開きます。骨はつけたままにしておきます。 *みりん干しの場合 (2)魚を調味料を混ぜた中に30分くらいつけておきます。 (3)軽く汁気をとって、ゴマを適宜ふりかけ、図のような市販の干物用ネットか、洗濯物干し、針金ハンガーを工夫して、1日(5〜6時間)干せば出来上がりです。 *塩干しの場合 (2)流し箱に、分量の塩と水を入れてよく混ぜ、開いた魚を約1時間つけます。 (3)水気を拭き取り、干します。 [注意] *干物つくりには、気温が低くて乾燥している季節、ハエの少ない寒い季節が適しています。 *生干しはつくりたてを食べるのにこしたことはありませんが、冷蔵庫でも3日くらい保存できます。それ以上は冷凍庫で保存します。
保存のための肉の加工技術冷蔵・冷凍技術がなかった時代、一頭の豚や牛を屠殺すると、腐らないように工夫することで、さまざまな肉の加工品がつくられました。 ソーセージは、豚のひき肉にスパイス・調味料・ラードを加えて混ぜたものを、羊や豚の腸につめてから、ゆでるか、燻煙します。ハムは豚のロース肉などを円柱形に丸め、調味液の中で熟成させてから凧糸でしばり、その上をセロファンで包んで煙でいぶした後、70℃で2時間くらいゆでます。 作業が一番単純なのがベーコンです。肉はかたまりのまま使うことができ、香辛料・塩・燻煙によって肉を保存する技術がよくわかります。多くの市販品に加えられている発色剤を加えないでつくるので、できたベーコンの色を市販品と比較することから、食品添加物の学習にもつながります。なによりも、市販品にない香りと本物の味を味わえます。 腐らせないための香辛料高緯度にあり、やせた土地の多いヨーロッパでは、牧草を育て、それを家畜に食べさせることにより、肉をつくり、食料を確保してきました。冷蔵庫のない時代、コショウなどの香辛料は肉を腐らせないために不可欠でした。そのためにコショウを求めて大航海時代がはじまったのです。コショウは、ときには取引きの支払いに、金銭にかわって通用するほど、高価な貴重品でした。 「いぶす」ことでおいしくなる燻製は、室内に肉をつるして干し肉をつくっているとき、暖炉の煙があたり、食べてみると、普通の干し肉とは異なったおいしさと香りがし、しかも保存力が高まるという経験を通して、つくられるようになったのでしょう。 煙でいぶす(燻煙)の効果は、木材の煙に含まれる強い芳香をもった物質(アルデヒド類・フェノール類・酸類)の作用で、肉や魚の表面をコーティングし、肉や魚に含まれる油の酸化を防止し、微生物の繁殖を阻止して腐敗を防止するために、保存性が高まるのです。また、その芳香によって、燻製独特の風味がでてきます。 日本では、縄文時代の集落跡である鹿児島県の加世田市にある栫ノ原遺跡で、イノシシの燻製がつくられたと考えられる遺構が発見されています。 また、昔の農家では、囲炉裏の上の天井に、乾燥させた川魚や「干しがっこ(大根の漬け物)」をつるして、煙でいぶして保存食にしていました。また、煮た後に焙乾(いぶして乾燥させること)を何回も繰り返し行なう「かつお節・さば節・かれ節」などがあります。煙でいぶして乾燥させただけのものとは違うおいしさです。 ベーコンづくりの手順食品添加物の燻煙剤に漬けるだけでできる「いかくん」とは違う、本物の燻製のつくり方です。 [1日目] [4〜7日間]冷蔵庫で熟成させる。 [その後]いぶす 桜のチップは、アウトドアの専門店やホームセンターで入手できます。 |