「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2005年1月号
 

食農教育 No.38 2005年1月号より
[特集]ふるさとを育てる

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「八十八の手間」を聞き取り、学習すごろくに

秋田県農山村振興課副主幹 小野 一彦

きっかけは学校現場のニーズから

「みんなで学ぼう 秋田の農業」
学習すごろく製作のきっかけとなった副読本「みんなで学ぼう 秋田の農業」

 秋田県では平成13年度から、県内の小学5年生全員に農業副読本を配布しています。この副読本は全県で99%の利用実績がありますが、内容をさらに充実させるため毎年学校現場に対するアンケートを実施しています。

 昨年のアンケートの中で、「米づくり八十八の手間の八八とは具体的にどんな手間があるのか、現在調べていますが答えが見つかりません。教えてください」というニーズが寄せられました。

 このアンケートが直接的なきっかけとなり、子どもたちが、一年間にわたる昔と今の米づくりを比較しながら、自発的に学べるような教材として、学習すごろく「昔の米作『八十八の手間』を学んで今の農業を知ろう!」が誕生したのです。

日記本、タンス写真、農家の語りがすごろくに変身

 渡部景俊さんは『農具の変遷』という著書の中で、秋田県男鹿市の吉田三郎さんの昭和10年から11年の1年間の日記をもとに「農作業を時系列に整理した一覧表」をまとめておられますが、このすごろくはこの表をモデルにしています。

学習すごろく
学習すごろくのコマには昔の農作業の様子の写真を多用した。なかには農家のタンスにしまわれていた写真も

 それに加えて積雪地帯の農家の方のお話をおうかがいし、農業試験場のアドバイスを得ながら、88のコマにまとめたものです。もとより、農作業の流れは、時代、地域、気象によって異なり、88という数字は絶対的な数としてあるわけではありません。

 実はこのすごろくを作ることで最も学習効果が認められたのは、今年で45歳になるこの私かもしれません。

 農家の方からうかがったのは、コマとして活用する農作業の目的、順番、使用した農具、その作業の困難さ、鳥追いという小正月行事、田植え行事、収穫祭の行事の意味など、一年間のすべてが、われわれが食卓でご飯をいただく「ゴール」に向かうための連鎖であることです。どの農家の方も実に生き生きと、時間を忘れるほど熱心に教えてくれました。

 「わら細工の多様な活用」「吹雪の中、堆肥をそりで運んだこと」「田んぼを耕してくれる馬に与えるための草を、毎朝4時から起きて刈りに行ったこと」「手で行なった真夏の除草作業のきつさ」「やわらかい苗を機械が植える田植機を見たときは本当にびっくりしたこと」などなど、農家の方の「語り」は当時の風景がまさに記録映画として再現されているような迫力のあるものでした。

今と昔を比較しながら学ぶ

 さて、すごろくの内容について紹介します。このすごろくは一番のわら細工(1月〜4月)から八八番の米の検査(10月下旬から11月まで)のコマで成り立っています。

「農業機械化カード」
コマをスキップできる付録の「農業機械化カード」。切り離して使用する

 すごろくには、「農業機械化カード」が付録として添付されています。カードの種類は「育苗施設」「トラクター」「田植機」「無人ヘリコプター」「カントリーエレベーター」などです。あるコマにとまると、このカードを手にすることができます。そして、たとえば28番田起こしのコマにとまったときに、トラクターカードを持っている子は、28番田起こし1回目、30番田起こし2回目をとばして進むことができるのです。このカードによって、子どもたちは昔の手作業を中心とした農作業が現代の機械化によってどのように軽減されているか比較することができます。

 また、コマをイネの発芽、生長、結実という観点からとらえた「理科のクイズ」をコマの中に仕組んだほか、子どもたちが交流を深められるよう、「87番米の運搬=友達を負ぶって足踏み20回」というようなイベントも加えています。

 さらに、県教育庁が所管する秋田県立農業科学館と連携して、すごろくで紹介されている農具は同館で調べることができることを紹介したほか、現在の米づくりの作業日誌欄を設けて、子どもたちが実際に行なった農作業やイネの生長の様子を記入することにより、農作業体験学習に直接使用できるようにするなど、すごろくでの学習と実体験をつなげるよう工夫しました。

学校と子どもたちの反応

 学校現場ではこのすごろくをどのように活用したか、こどもたちの反応はどうだったかご紹介します。

 「総合的な学習の時間で米について調べて見たいと答えた子どもが増えたのは、このすごろくの効果もあった(鹿角市立尾去沢小学校)」

 「子どもたちは楽しそうに遊びながら、秋田について関心を深めているようです(同八幡平小学校)」

 「このすごろくを見たとき、やってみたいと大きな反応を示してくれた子どもたちでした。ぜひ続けてください(合川町立合川北小学校)」

 「米づくりの過程と農家の方の苦労などについて楽しく学ぶことができた。農業科学館へも訪問し、すごろくで紹介されている昔の農具を実際に見学することができ、有効に活用できた(秋田市立明徳小学校)」

 「子どもたちが大変喜び、要望が強かったので、ゆとりの時間を使って学級全体で楽しみました。遊んでいるという意識の中で、難しい用語を覚えたり、もっと調べて見たいという意欲が高まったりして、大変有意義な時間となりました(秋田市立牛島小学校)」

など、多くの学校から活用事例についてご回答いただきました。

最終的なねらいは文化を引き継ぐこと

 いま、世界は、唯一の超大国を模倣するのではなく、それぞれの文化、歴史、経済を背景に、個々の国々が複雑に関わり合いながらも、自国の「個」を尊重し、主張しあう「多極化」の時代になりつつあります。子どもたちは、そうした状況の中で新たな時代を切り開いていかなければなりません。

 そうしたときに、最も重要なことは、自分がよって立つ日本という国、秋田という地域、ここはどんな国であり、地域なのか、稲作文化による原風景を心の底で共有しながら、いままで先人がどのような思いや努力を重ねてこの国、地域をつくりあげてきたのか――そうしたことを子どもたちが自ら知る機会、きっかけをもっともっとつくり、提供しながら、個性豊かな将来の国づくりや自己実現へとつなげていくことではないでしょうか。

 それができる「語り部たち」が、元気ないまこそ、そうした「次代への文化の承継」を個々の地域をあげて行なうべきではないでしょうか。それこそが「地域が次代を育てる」ことであり、教育における地方分権の実現方法の一つではないかと思うのです。

 このすごろくを、農業・農村の資源で学びを広げるだけではなく、子どもたちと祖父母世代など地域での「文化の承継」のための架け橋として使用していただければと考えています。

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