「総合的な時間」の総合誌
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食農教育  
農文協食農教育2005年3月号
 

食農教育 No.39 2005年3月号より
[特集]学校と地域を結ぶ ホームページ活用術

  学校ホームページを元気に

●8ヵ月でアクセス16万件!●
地域とともに校区の元気を毎日発信

編集部

誰もが簡単に更新するしくみができた

トップページ写真を毎日更新

光ヶ丘中HP
光ヶ丘中HPのトップページ。毎日更新で中央の記事が日々追加されていく。記事はそれぞれ左のカテゴリ区分に沿って属性が与えられているので、関連記事を一覧することもできる

 昨年4月。愛知県小牧市立光ヶ丘中学校(以下、光中)に来た新任校長の日課といえば、デジカメを持って校内をうろうろ歩くことだったという。「今日のワンショット」と称して、学校ホームページ(以下、HP)のトップページ写真を毎日更新するためだ。

 「あー、校長先生、今日のワンショットこれで決まりねー!」。はじめは怪訝そうな顔をして、校長先生は校長室ででーんと座っているもんじゃないの? と思っていた生徒たちも、すぐに慣れてしまった。担任の先生たちも「あ、またネタ探ししてるんだな」と、校長先生が授業を見に来ても違和感がなくなってしまったようだ。

 撮った写真は、簡単なコメントとともに、毎日1点、トップページにアップする。たったそれだけのことだが、これが光中HP改革の始まりだった。

 「4月に赴任したとき、トップページには2月のスキー写真がまだ貼ってあったんですよ。職員のなかには私より年齢が上の人もいるし、新任校長がすぐに校内改革をするといっても抵抗感がある。でも、HPなら自分の考えで自由に改革できると思ったんです」と玉置崇先生(48歳)。

玉置崇校長
玉置崇校長

担当者次第で更新がストップするのを防ぐために

 「今日のワンショット」効果はすぐに現われた。PTA会長の遠藤雅弘さんや、おやじの会代表の前田肇さんから、さっそくメールが届いたのだ。「先生が来たら、ホームページが変わりましたね!」。2週間ほど続けてみて、「これはいける!」と玉置先生は手ごたえをつかんだ。以前からつきあいのあった教育ソフト会社に、ホームページを誰でも簡単に更新できるツールの開発を依頼する。というのも、それまでのシステムではHP作成の心得がある程度は必要だし、写真を1枚更新するだけでも10段階ほどの作業が必要で、すぐに40〜50分かかってしまう。つまり、玉置先生の都合次第で簡単に更新がストップしてしまうのだ。

 いま、地域の人がHPを注目してくれはじめた。この時期を逃したくない。5月の連休明けには新しいシステムを導入し、職員誰でもがHPの更新を担える態勢をつくりたい。そう考えた。「2〜3ヵ月も空いたら誰も注目しなくなると思ったんです。いま思えば、業者さんもあんな無茶によく応えてくれたと思いますよ」。

 こうして5月10日、これまでの学校HPの常識を覆すほどに画期的な、光中のHP作成システムが導入されることとなった(将来市販することを前提に、ツール作成のアイデア料として業者にはタダで開発してもらった)。

カテゴリ選択画面
管理サイト内のカテゴリ選択画面(本文中の手順(5))。校長メッセージ、コラム、生活など、11のカテゴリがあらかじめ設けられている。追加・変更も可
好みのテンプレートを選ぶ
レイアウトも簡単。好みのテンプレート(ひな型)を選ぶだけ(本文中の手順(6))

ブログふう、光中HPの更新手順

 新システムの発想の土台としたのは、いま巷で急速に広がっているブログといわれるHP作成システムだ。インターネット上での日記づくりを目的としたもので、ワープロを使って文章と写真1枚程度の簡単な学級日誌をつくる要領で、特別な知識やHP作成ソフトがなくても書き換えが可能。携帯電話で写真を撮って、簡単なコメントを書き、携帯からその場で更新している人もいるほどだ。

 玉置先生は、ブログの更新手続きをさらに簡略化し、最後は校長決済でHPがアップされるような形を考えた。具体的にはこうだ。

 (1)写真を撮り、コメントを書く。(2)ブラウザ(ふだんHPを見るときの画面)上から更新用の管理サイトにアクセスする。(3)ユーザ名とパスワードを聞かれるので、入力。(4)写真(0〜3個)を指定し、文章を貼り付ける。(5)記事のカテゴリを選ぶ(次頁参照。授業、部活動、PTA、地域など、11のカテゴリが設定されている)。(6)記事のレイアウトを19のテンプレート(ひな型)から選ぶ。(7)実行ボタンを押す。

 担当者の更新作業はこれで終わり。すると、(8)校長のEメールに更新情報が送信される。(9)校長専用のサイトから記事を確認し、採択、もしくは不採択ボタンを押す。これで、更新完了。

 ブログとちがう点といえば、ひな型を選ぶだけでレイアウトできるように単純化したこと。校長決済機能をつけたこと。それに、アップされた記事にコメントをつけたり、トラックバックする(双方向にリンクを貼る)機能を省いた点だ(学校の公式HPなので、学校主導で運営するため)。

夏休み中の毎日更新を達成!

 これで、玉置先生だけでなく誰もが更新を担える態勢が整った。さっそく、職員全員にユーザ名とパスワードを配布。みんなが書き込めるのだから、HP担当はおかない。とはいえ、先生たちも多忙だ。1学期中は更新の仕方を伝え、「いい写真があったら提供してくださいね」とアナウンスした程度で、おもに校長、教頭が更新を担った。

 新システムに対する認識が先生方に浸透したのは、「毎日更新」を目標に掲げた夏休みだった。その日の電話受付けや戸締りなどを担当する当番さんの業務の1つに、新たにHPの更新を入れ込んだのだ。「苦手な人はネタだけつくって誰かにアップしてもらってくださいね。私たちって、夏休みもばっちり働いてるのに、世間では『休みが長くて教師はいいなー』なんて思われてるでしょ。夏休みの学校をHPでどんどん発信しましょうよ」。そんな殺し文句を使って、土日も含めた毎日更新をやり遂げたのだ(これで更新経験者は職員の5割を超えた)。

 そうこうするうちに、HPのアクセス数は加速度的に伸び続けた。6月23日に1万件に達し、10月4日に5万件、11月30日には10万件、そして1月24日現在、スタートからわずか8ヵ月でなんと16万件を突破。最近は7〜10日で1万件増という驚くべき数字を記録している。異様なまでの伸びに、宣伝のために業者が手心を加えているのではないか? と当初は玉置先生も疑ったほどなのだ。

■IT活用で事務処理もスリム化

 毎日の授業のうえに、校務分掌、児童生徒の出欠確認、市教委からの通達など、なにかと事務仕事が多いのも先生方の悩みのタネ。小牧市の小中学校では、今年度から校内の情報を一元化し、必要に応じて適切な情報が得られるようなシステムが導入された。

 たとえば、光中のばあい、市教委からの通達などの文書が1ヵ月に80件ほど届くのだが、いままでは事務員さんから校務主任、教務主任、教頭、校長の順に渡され、それぞれが受理台帳に転記していた。ともすると記録することが目的化されがちなのだが、ネットワーク上に事務員さんが入力すれば、これらの事務は省略され、情報の共有がはかられる。

 児童の出欠や職員会議での資料、出張復命などについても同様。事前に情報共有すれば、朝のバタバタや長い職員会議も短縮され、本来の仕事である授業づくりに専念する余裕が生まれる。

光中HPは回覧板より効果的!?

 このアクセス数の伸びを支えているものは、なにか? しくみの問題というより、新システムのおかげでHPにアップされる情報の鮮度と質、出所が劇的に変化したことといえるだろう。

 学校HPというと、経営方針や校歌といった、無味乾燥な情報がまだまだ多い。しかし、光中では、イベント情報だけでなく、そのイベントを行なうまでに、学校や地域でどんな打合わせや下準備があったなど、生の現場情報が新鮮なうちに記録される。PTAやおやじの会の活動を中心に、学校外の地域情報も盛りだくさんなのだ。

 当初は玉置先生が意識して地域を取材していたが、最近では「校長先生、HPにこんなネタを載せてください」と、だまっていても地域からメールで情報が寄せられるようになった。1日100〜2000件と、親や地域からの注目度も高く、ご近所に回覧板を回すよりもよっぽど効果的なのだ。

 実際に、HPの「地域」や「PTA」といったカテゴリを開いてみると、学校や子育てにかかわって、ジュニア奉仕団活動やPTAサークルでの工場見学など、じつに多種多様な活動が展開されているのがわかる。こういった中身の濃いコンテンツこそが光中HPの最大の魅力。そしてなにより、それを支える活発な地域活動が校区に存在していることを見逃してはならない。

地域にとっての学校ホームページとは?
前田肇さんと森澤洋美さん
おやじの会代表の前田肇さん(右)と、前PTA母親代表の森澤洋美さん。森澤さんは今年度から小牧市で各中学校に1人ずつ委嘱されている地域コーディネータでもある

全住民参加型の文化祭を

 光中にかかわる地域活動としては、たとえばPTAや「おやじの会」「みどりの会」の活動がある。これらが学校を核としてうまくつながり合い、活性化したのは3年前。「地域ふれあいフェスティバル」の開催をとおしてだったという。

 地域ふれあいフェスティバルは中学校とPTAとの共催行事(初年度はPTA単独)。模擬店や中庭ライブ、そして地域講師による各種体験コーナーなど、地域の子どもからお年寄りまでが、講師や受講者として積極的に参加することのできる催しだ。初年度にPTAの母親代表(副会長役)だった森澤洋美さんはこう語る。

 「中学になるとパートにでる母親も多くなり、親が学校にかかわる機会も薄れる。PTA役員になっても研修、生活、広報、環境と、それぞれの部でなにをやっているのかが見えづらいのが実状です。さらにいえば、広報部なら広報部で、学期ごとに担当を決めて分業体制をしいてしまうと、同じ部内でさえ十分コミュニケーションがとれない。でも、どうせ1年間PTA役員をするんだったら、楽しくやったほうがいい。そう思ったんです」。

地域づくりは「わが子のために」から

おやじの会代表 前田肇さん

 おやじの会が結成されたのは2002年。週5日制がはじまるもんで、子どもが家にこもってはいかんと、おやじたちが立ち上げたわけ。目的もなにもなく「なにかやろまい」というレベルだったから、母親主体のPTAではなかなか動きがとれない。その点、おやじは、酒を飲む場さえつくれば、とりあえず集まったり動いたりできたんだよな。

 子どものためにとはいいつつ、「大人が楽しむ」ことが基本。だから、中学生をつかまえて愛知万博のプレイベントに出展している団体を取材させたり、「不自由な体験をしませんか?」を謳い文句に江岩寺でアウトドア体験をしたり、「校長室へGO!」と称して校長先生とおやじが「生きる力」を大真面目に議論する場をもったり。毎月のようにいろんな企画をだして盛り上げていったわな。そしたら、森澤さんたちが「おやじの会はズルイ! 私らも校長室へ行きたい」なんて言いだした。そんな感じで、地域ふれあいフェスティバルへとつながっていったのかな。

 光ヶ丘は新しい町だから、既成概念とか過去のしがらみがない。たいてい4人家族で生活環境も似たもの同士。家を買ったら誰だって住環境をよくしたいって気持ちをもつでしょ。そこをくすぐらなきゃ。でも、「町づくりのために」と言っても人は動かないから、「わが子のために」と言って参加しやすくする。だから、地域づくりは学校を核にすることがポイント。

 といっても、不文律みたいなものはあるよ。学校にもメリットがあることをすることと、授業に関しては口をださないこと。先生方は教育のプロだからね。

大人たちの「プロジェクトX 学校へ行こう!」

 森澤さんたちは、地域ふれあいフェスティバルの開催を視野に入れ、「プロジェクトX 学校へ行こう!」を立ち上げる。PTAの4委員会のほかに「みどりの会」「おやじの会」といった学校に関係するさまざまな組織を横につなげて情報交換する場を、年間で6〜7回もったのだ。

 こうして、環境部で行なっていた廃品回収、生活部での交通安全指導など、それぞれ個別に行なっていたことが、全体の組織のなかで有機的に連絡・機能しはじめ、その集大成が「地域ふれあいフェスティバル」となった。当日の目玉の一つ、体験コーナーでは、地域の人が講師を務めて、ハーブでつくる首飾りや、ビーズの指輪、ワラぞうり、パンづくりなどが行なわれ、同じ地域に住む人間同士がお互いの知恵を縦横に出し合う場が創造される。

 そして、HP改革の今年度。フェスティバルの盛況ぶりは写真構成でみごとに表現され、ネット上にアップされたのだ。

学校HPが地域を一丸にし、地域に安心感を育む

 「あのHPを見たときは、フェスティバルを立ち上げた一人として感無量でした」と森澤さん。フェスティバルは地域の人をつなぐ大切な取組み。それを、誰もがいつでもアクセスできるHPという形で記録すれば、あの感動を、あのときのパワーをみんなが共有し、次につなげるための大きな力とすることができる。

 現PTA会長の遠藤雅弘さんや母親代表の山口光津代さんも口を揃える。「『ホームページ見たよ! 夜の10時まで打合わせしてたんだね』などと声をかけられるようになりました」。HPには、イベント当日のようすだけでなく、その舞台裏も記録されているから、直接参加していない人も気持ちを共有し、ちょっと協力しようかな、という気にもさせてくれるようなのだ。

 また、「ホームページを見ると、母親として安心できる」と山口さんは言う。担任の先生による教育相談、おやじの会のベンチづくり、みどりの会の草取り作業など、HPからは、生徒たちの学校生活をこんなに多くの人が裏方で支えてくれているということが、手に取るように見えてくる。校長・教頭先生をはじめ職員の人柄も垣間見えるから、学校に対する安心感が親や地域の間で自然と芽生えているようなのだ。

前田肇さんと森澤洋美さん
平成16年度地域ふれあいフェスティバルの「中庭ライブ」。老若男女が自慢のパフォーマンスを繰り広げた
前田肇さんと森澤洋美さん
地域の人が講師になっての体験コーナー。写真は、PTAの人たちが学校のデジカメ(30台ある)を片手に撮り歩いた。
それを玉置先生が「ID」というソフトを使い、スライドショーに仕立てて「写真集」というカテゴリの中にアップしている

HPから「光中の冊子」発行へ

 来年度、玉置先生はネット上ではなく、紙で「光中の冊子」をつくり、年2〜3回バージョンアップさせる形で地域に配布しようかと考えている。最新のニュースはHPにアップしつつ、いっぽうで紙媒体を使って、地域の人たちに落ち着いて学校の教育方針を読んでもらうのだ。

 内容も「『授業のめあて』と『絶対評価』」といったことのほか、「ガラスを割ったときなどには修理代をいただきます」「コンピュータは家庭でも必要か」「災害時の登校について」など、具体的な切り口から学校の教育方針を表明し、地域の宝である子どもたちの教育に、地域の人自らが積極的にかかわってもらうきっかけとするものだ。

遠藤さんと山口さん
PTA会長の遠藤さんと母親代表の山口さん

 HPで常に情報を蓄積しているから、それを再編集することで、こういった試みも実現のメドが立つのだろう。光中の取組みはまさに、情報によって学校を開く試みであり、情報によって地域をおこす試みなのだ。

 光中HPの波紋は足元から着実に浸透しはじめている――。その証拠に、隣の光ヶ丘小学校でイキイキとした学校情報が発信されはじめた。校区内の大城小学校では、光中と同じシステムを導入し、同様に常時更新をスタートさせた。そのようすに、誰かがこうつぶやいたそうだ。「玉置が来て、地域に玉突き現象が起きた」と。

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