「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2005年4月増刊号
 

食農教育 No.40 2005年4月増刊号より

加工の知恵を生かす

半干し野菜で、苦手なナスやニンジンももりもり食べられる!

料理研究家 有元 葉子

子どもたち
干し野菜(手前)とトマトのフライ(奥)。
(写真はすべて岡本央、料理協力・伊藤香織)

太陽と風のパワーで野菜本来のうまみが濃縮

 タクワンを思い浮かべてください。2週間ほど干しますが、カリカリに干してはいない。それでいて、生のときとはまったく違った味と香りが生まれます。お布団を干したときの心地よい香りと温もり。干すことで、太陽と風の力が加わって、野菜本来のうまみが濃縮するようです。

 まずは、薄く輪切りにしたニンジンを2〜3時間干して、かじってみてください。なんともいえない甘みが口いっぱいに広がります。

もどさず食べれて、調理時間も短縮

 半干し野菜は、ふつうの干し野菜のように、水につけてもどす必要はありません。だから、野菜本来の水分だけをいただくことができて、干し野菜にはない生のシャキシャキ感を楽しむこともできます。

 調理するとビックリ。生よりずっと短い時間で炒められ、揚げ物も簡単。油が傷まない。干すというひと手間を加えただけで、調味料も少なめになり、料理がシンプルになります。

焼きナスのマリネ
焼きナスのマリネ。焼くというより、さっとあぶる感じ。身がしまって皮がおいしい!
野菜のかき揚げ
野菜のかき揚げ。組み合わせは自由に。油はねも少なく、1分もかからずに揚がる

 なにより、カサが減って、うまみが濃縮されるから、野菜をたくさん食べられるのがうれしいです。ナスやピーマン、セロリ、キュウリと、みんなの苦手な野菜をどんどん干してみてください。半干ししてからコショウの代わりに軽くカレー粉を振りかけて炒めれば、子どもたちも喜んで食べます。肉やベーコン、ジャコなどをちょっと付け足してもおいしいです。

干し野菜は世界各地にある

 キュウリやトマトと、こんなものまで干せるの? と思うかもしれませんが、世界各地にその土地に応じた“干す文化”があります。イタリアではブドウのように、ひと房まるごとを軒下に干しておく品種があります。

 トルコではドライフルーツが盛んです。その昔キリスト教徒が穴の中に何年も閉じ込められたさい、ドライフルーツを食べて生き延びたという話を聞きました。日にあたらずに病気になるのでは? と思いますが、なるほど、干すことで何年か前の太陽のパワーを体に取り入れていたのです。

下ごしらえ不要でピクルスに

 なお、半干し野菜は、保存のためでなく、野菜をおいしく食べるためのものですが、調理した段階で保存することもできます。トマトなら半干ししたものをそのまま酢やオイルに漬ける。キュウリやキャベツ、ニンジンも、そのままピクルスに。下ごしらえ不要で、塩漬け、粕漬けも簡単です。ダイコンやシイタケなら、カリカリまで干して、ふつうの干しシイタケや切干しダイコンを楽しむこともできます。

(談・文責 編集部)

こんな野菜も干してみよう!

実もの野菜

実もの野菜

トマト 切り口を下にして干しはじめ(2〜3時間)、余分な水気を抜いたあとに一度返して、さらに切り口が乾くまで2〜3時間干す。→フライ、マリネ

ナス 料理にあわせて切り方いろいろ。切り口を上にして日向に3〜4時間干して使う→焼く、炒める、揚げる、煮る

パプリカ ヘタをとって好みの形に切り、切り口を上にして3〜4時間干す。→マリネ、炒めもの

葉もの野菜

葉もの野菜

キャベツ、ハクサイ 縦に四つ割りし、切り口を上にして4〜5時間。返す必要なし。→サラダ、スープ

根もの野菜

根もの野菜

ダイコン 切り方いろいろ。皮つきのままのほうが歯ごたえよく、味も濃くなるよう。干し時間は大きいもので4〜5時間。細めや薄めは2〜3時間。→煮もの、炒めもの、酢漬け

ジャガイモ 料理にあわせて切り、水に15分ほどつけてアク抜きしたあと、2〜4時間干す→焼く、煮る、揚げる

ニンジン、ゴボウ、レンコン 皮付きのまま。薄切りの場合は2〜3時間、大きめのときは3〜4時間→炒める、揚げる

きのこ
*干し時間は、収穫時期のカラっとした天気が目安。

きのこ

シイタケ 石づきをとって料理にあわせて切り、切り口を上に。四つ割りなら3時間ほど。乾きが早いので注意。

シメジ 石づきをとって小房に分け、日向で2〜3時間。→焼く、煮る、炊き込みご飯

昔の人はどう干した?

『ふるさとの家庭料理 乾物のおかず』より

 とれすぎた野菜をどう使おうか……。カンピョウや切干しダイコンをはじめ、ズイキ、干しナス、干しイモなど、野菜を干す知恵は昔から各地でみられた。

 ただ、こちらは保存して食いのばすことが大きな目的だから、半干しでなくカラカラに。どんなものが干せるのか? 実だけでなく、葉っぱやヘタ、さらにはこんな果物まで干してたなんて!

干しナスビの煮もの
千葉寛撮影

■干しナスビの煮もの(富山県)

 薄切りにして、冷水に放してアクを抜き、ござの上に広げて炎天のもとで2日ほど干してカラカラにする。使うときは、熱湯の中でしばらくアク抜きし、もみ洗いしてやわらかくなったら、油揚げを上にのせて、味噌とニボシのだしで煮る。

ナスのヘタと大豆の煮もの
小倉隆人撮影

■ナスのヘタと大豆の煮もの(埼玉県)

 切り落としたヘタを手で縦に裂く。ヘタの上の部分の軸の中に入っている芯を取り除き、糸を通した針で軸の部分をつないで輪にする。吊るしてカラカラに干す。それをもどして、煮た大豆に入れると、まるで干しシイタケのような味がする。

干しアケビ煮
千葉寛撮影

■干しアケビ煮(山形県)

 アケビは種をとり、軒下に干す。もどすときは、湯にしばらくつけて、水煮して冷めるまで浸す。煮汁が冷めたら取り出してよく洗い、水気を切る。

 ニンジン、ゴボウ、コンニャク、打ち豆、油揚げなどを中に詰め、カンピョウで結ぶ。水と醤油、砂糖を加え、2時間ほど弱火で煮る。

「田舎の本屋さん」のおすすめ本

 自然流「乾物」読本』津村喬 著

健康食としての乾物、日本の年中行事に根づいた乾物、乾物大陸中国の暮らし、「乾物だけで1週間」のメニューや日本とアジアの乾物料理、アウトドア・サバイバルの乾物料理など、読んで楽しい実用乾物百科。 [本を詳しく見る]

田舎の本屋さん 

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