「総合的な時間」の総合誌
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食農教育  
農文協食農教育2006年3月号
 
小浜市地図
「阿波農まるかじり」の講座「食品の色素を検索してみよう」の一場面

食農教育 No.46 2006年3月号より

私が農高と出会ったとき

農高へのイメージをがらりと変えた体験講座
「阿波農まるかじり」

徳島・阿波市教育研究所(前吉野中学校教諭)

三橋和博

 初夏の候、風薫るさわやかな季節になりました。私は阿波農業高等学校に入学し、二ヵ月が過ぎようとしています。先生はいかがお過ごしですか。(略) 私は阿波農業高校に入学してから「ここに来てよかった」と何度も思いました。教室だけの授業では学べないこともありますし、本当に毎日が充実しているのです。(略) 最後になりましたが、先生には感謝しています。私が今、最高の学校生活を送れているのは、先生のおかげだと思うからです。

 この手紙は、「阿波農まるかじり」を体験したことで、これまでの進路希望を見つめ直して、阿波農業高等学校へ進学した生徒からのものだ。それでは、この生徒の進路を決定づけた「阿波農まるかじり」とは何かについて紹介しよう。

農業高校の魅力を知ろう

 「阿波農まるかじり」とは、中学生を対象にした地元の徳島県立阿波農業高等学校(以下、阿波農高)への体験入学のことである。それまでも、体験入学を行なってはいたが、夏休みに希望者だけ参加するものだった。それを、前任校の阿波市立吉野中学校の三年生全員に体験させたいと考えた。なぜ、全員参加の体験入学を考えたかというと、二つの理由があった。

 一つは、阿波農高の山本一夫校長先生との出会いであった。「農は食を生み、食は人を育て、人は未来を拓く」という校長先生の言葉から生まれる教育実践に感動したからだ。それは、食農教育を通して未来をたくせる人間の育成をはかっていると感じさせるものだった。そのような教育実践に少しでもふれさせることで、生徒たちに食や農への意識をもたせたいと考えた。

 吉野中学校のある地域は、ほとんどが平野で、農業地帯であり、稲作と園芸が盛んで、特にレタスの集団栽培は全国的にも有名である。そんな地域でありながら、地元の阿波農高へ進学する生徒は、あまりいなかった。それだけでなく、阿波農高に対して勝手なイメージを描くだけで、全く知ろうともしないという実態があった。それが、三年生全員参加の体験入学を考えた、もう一つの理由であった。

 そこで、隣りの中学校にも呼びかけ、阿波農高の先生と二つの中学校の進路担当教員とで、どのような体験入学にするか何度も話し合った。中学生にも、その話合いの経緯を伝え、単に体験することが目的ではなく、農業高校、ひいては農業を理解することが目的であることを納得させた。だから、体験講座「阿波農まるかじり」は、中学生の自由な選択にまかせたが、講座の主旨を理解していたせいか、講座ごとの選択人数のバラツキは、さほどなかったと思う。前頁の表が、講座内容の一覧である。農高の先生が担当するもの、農高の先生と農高生が一緒に担当するもの、農高生だけで担当するものと、内容はさまざまだった。

「阿波農まるかじり」の講座名一覧

人は食を失っては生きていけない

 「阿波農まるかじり」を体験した後の生徒の感想を、次に紹介しよう。

 「阿波農まるかじり」に参加して、私のもっていた阿波農業高校のイメージが、全く違うということに気づかされました。私が最初イメージしていた阿波農業高校は、野菜を育てるばかりだと思っていました。しかし、実際は畜産や野菜を育てるばかりでなく、いかにおいしく育てるかなど、科学的にきちんと分析され実践されているので驚きました。そして、その内容の深さにまた驚かされました。
 私が受けた講座の中に、「酵母について学ぼう」という講座がありました。そこでは微生物によって、食物がおいしくなることについて学びました。とても勉強になり、楽しかったです。
 また、どの先輩も優しく接してくれて、とてもうれしかったです。そして、特に農業のすばらしさと大切さを学びました。人は食を失っては生きていけません。「人は土からはなれて暮らすことはできない」というのが、とてもよくわかりました。「阿波農まるかじり」で学んだこと、体験したことを生かして、これからの生活に結びつけていきたいです。そして、日々の食事に感謝し、生活していきたいです。また、自分の将来に向けても農を基本とした生活を参考にして、もっと進路について深く考えたいです。

 最初に紹介した手紙のように、この体験講座によって、進路選択の幅を広げた生徒もたくさんいた。生徒を対象にしたアンケートの結果によると、七二%の生徒が、この体験入学を進路選択の参考にすると答えている。その他にも、阿波農高に対するイメージや、農業に対する意識が変わったり、食の大切さを理解し、家の農作業を積極的に手伝う者まででてきた。

 また、農高生の側も、講座を自分たちで運営することを通して、農高生自身が成長したという。

意見交換会から生まれた中学・農高が連携する総合の企画

 この「阿波農まるかじり」を生徒の体験だけで終わらせるのではなく、教師自身も次年度の体験入学に向けて、実践の見直しをしっかり行なっている。たとえば、「阿波農まるかじり意見交換会」を阿波農高の先生方と二中学校の教師で行なっている。今年は、これまでの二つの中学校以外に、六つの中学校が参加してくれた。二つの中学校からはじまった取組みも、徐々に広がりつつあると感じた。

 この意見交換会では、ワークショップ形式を取り入れ、成果と課題を参加者で図にまとめている(下の図)。このようなワークショップ形式で意見交換会をすることにより、中学校と農業高校の協働性が高まってきたように感じる。特に二〇〇五年度は、次のような意見が出てきて、そのことを実感した。

 「農高生を総合的な学習の時間(以下、総合)のゲストティーチャーにする」「阿波農高の施設を生かした総合を企画する」「中学生と農高生が一緒に活動ができないか」など、中学校と農高で協力して、総合を進めていこうという考えがでてきたのだ。実際にすでに動きはじめている中学校もある。たとえば吉野中学校では、校庭に小さいながら畑をつくった。そこでは、農高との連携を意識してできた「農業クラブ」の生徒たちが活動をしている。

 これらの取組みには、まだまだ課題があるものの、これら実践により、阿波農高に目的や夢をもって進学しようとしている生徒が増えてきているのは確かである。

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ワークショップ形式の阿波農高と中学校との意見交換会(大きな紙にそれぞれの意見を付箋で貼り込んでいく)
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ワークショップでまとめた「『阿波農まるかじり』の成果」
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