「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2006年4月増刊号
 
小浜市地図

食農教育 No.47 2006年4月増刊号より

■参加型献立のすすめ

給食を知り、献立をつくり、家庭に生かす
PTA主体の「おしゃもじクラブ」

熊本・上天草市立小学校 学校栄養教員

松本珠美

学校の食育から家庭の食育へ

 新鮮な魚、甘ーいみかん、しゃきしゃきのレタス。上小学校は海と山、豊かな自然に囲まれた地域にあり、たくさんの特産物がとれる。このような恵まれた地域の中で、上給食センターから配送されている給食は、地域の特産物を利用した献立、郷土料理を取り入れた献立など地域の特色がさまざまな形で生かされている。

 あわせて、上小学校では平成十二年度から健康教育についての研究が進められてきたが、平成十五年度からはさらに食育に視点を絞って研究が進められてきた。平成十六年度は熊本県教育委員会委嘱食育推進事業を受け、児童は体験活動を中心とした食育からたくさんのことを学んでいる。

 食育というものは、学校教育で推進していくだけでなく、児童の生活の基盤となっている家庭でも実践されなければ本当の食育とはならない。学校の教育だけでは、生活習慣を変容させることには限界が生じるからである。家庭への啓発という面においては、給食だよりなどの発行を通して行ってきたが、より深く実態を把握したり、自発的な活動が必要だと感じていた。そこで、平成十六年四月、生活に密着した食育を推進するために、上小PTA母親部を主体とした「おしゃもじクラブ」を立ち上げた。

まずはふだんの食事のチェックから

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豊後谷地区で開かれた「おしゃもじクラブ」

 おしゃもじクラブでは、保護者が地区ごとに集まり、児童が実際に食べる一食分の給食献立を立てる。出席者は地区の保護者、PTA母親部の役員三名、地区担当の職員、学校栄養職員である。月に一回、一地区の割合で行なっているので、それぞれの保護者にとっては年に一回、自分の地区のときに出席することになる。

 午後七時、夕御飯の支度を終えたお母さんたちがぞくぞくと公民館に集まってくる。名前で呼び合えるようにと手作りの名札を胸につけ、七時三〇分開始。夏には冷たいお茶を飲みながら、冬には温かいコーヒーをいただきながら、まずふだんの食生活をチェックシートなどで振り返る。「朝ごはんは家族そろって食べていますか?」「豆類は週に三回以上は食卓に出ますか?」など、全部で八項目。よくできていたら、チェックシートの花びらが咲いていき、大きな花が咲かせられるという仕組みである。

 チェックが終わってみると「わが家は“つぼみ”だよ」とがっかりされる方もいるが、ここから大きな花を咲かせるポイントをみんなで考えていく。わが家の食生活のどの部分に問題点があるのかを把握したあとに、学校給食ではどのように栄養を満たしているのかなどを学習する。学校給食の食品構成表も参照しながら、家庭で足りていない食品を挙げたりする。その後、「主食・主菜・副菜」のバランスを考え、学校給食を手本に地区オリジナルの献立一食分を作成する。家庭で使いにくいといわれた食材でも、積極的に入れようという栄養職員の言葉に、「だって、豆料理なんてそんな知らんもんねぇ」と返ってきた。一人のお母さんの一言で話は一気にふくらみ、「うちじゃカレーに入れるよ」と別のお母さんが話し始める。すると、学校栄養職員も「学校給食ではこんなふうに使ってますよ」と学校給食からアドバイスする。

なにげない会話から食育のヒントが

 献立を作成していく段階で、栄養面を考えるだけにとどまらない。学校で行なわれている食育などを知らせたり、地産地消の推進の意義、旬の食材を取り入れることの大切さなどを栄養職員の立場から話すようにしている。「食育を、食育を」というが、家庭で食育をどのように進めていいのかがわからないというのが保護者の本音であろうから、こんなことでも食育になるんだというヒントを提示できるようにしている。

 キーワードに地産地消を入れると、そこでまた話がふくらみ、「○○さんちの畑でもうすぐ芋がとるっごたるよ(とれるみたいよ)」と栄養職員も知らなかった地元の畑の話題になり、その芋をどうやって料理にしたら子どもに喜んでもらえるかを考え始める。

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中央が大手原地区が開発した“おおてばろっけ”。この地区でよくとれるサトイモのコロッケ
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江樋戸地区が考案したりんごあめ。上八幡祭の中心となる地区なので、祭りをイメージしてつくった

地区の個性あふれるネーミングが大うけ

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ランチルームでの試食会(大手原地区)

 献立には、その地区オリジナルのネーミングもついている。中の丸地区のお好み焼き“なかのまんまる焼き”、“大手原地区のコロッケ”、“おおてばろっけ”、“ハン馬場ーグ”などがある。ネーミングで愛着も倍増し、子どもたちにも大うけである。

 また、“なかのまんまる焼き”は上小学校の四年生が育てたオクラ、“おおてばろっけ”は一年生が育てたサトイモを献立に入れようと考えられたものである。学校での体験活動を生かした食育とのリンクでもある。この一連の活動を通して、望ましい食生活とはどんなものなのかを理解する。上校区は地区ごとの団結力が大変強い地域である。そこを強みとして生かすことにより、「どこの地区にも負けない愛情献立をつくろう」という気運が高まり、毎回栄養職員も脱帽の献立ができあがる。

 その場で決定した献立については、学校栄養職員が適切な量に調整し、栄養計算を行なう。献立を実施する約一ヵ月前の同日に地区の試食会を設けている。試食をすることで実際の量、味加減などどれくらいが適切なのかを体感できている。試食後のアンケートには「家庭で食べるより薄味だと感じましたが、本当は子どもにもこれくらいで食べさせるほうがいいのかなと感じました。栄養面も家ではそのときの材料しだいでつくったりするので、少し考えないといけないなと勉強させられました」という意見が多く寄せられている。

地域の旬の食材がひと目でわかるレシピ集を発行

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12地区26種類のレシピを集めた「おしゃもじクラブ レシピ集」

 おしゃもじクラブというネーミングは「みんなでおしゃべりしながら、食育について考えることができたら…」という願いを込めてつけた。おしゃもじクラブで食を話題に“おしゃべり”をすることで、子どもの望ましい食事とは何なのかを考えることができている。クラブ終了後のアンケートには「愛する子どもの健康を考えながら、食事の大切さやバランスを盛り込んで、また、食べるのにも喜んでくれそうな献立を工夫できたと思います」「何もお役に立つような発言はできませんでしたが、他の保護者の方の発言を聞き、とても勉強になりました。これを機に食事に気をつかい、いろいろな食材、献立にチャレンジしてみたい」との記入もあった。

 一年ですべての地区を終えることができ、レシピ集を発行し、全家庭に配布した。レシピ集をのぞいてみると、地産地消や旬を意識したこともあり、大矢野町上地区で一年を通してどんな食材が取れるのかが一目でわかる。「食の歳時記」ができたかなとも感じる。

 学校栄養職員もおしゃもじクラブをとおして、保護者の食に関する悩みをじかに聞いたり、給食への忌憚のない意見をたくさん聞くことができている。この取組みを子どもの将来まで根づくような食育にするためには、一時的な取組みで終ることなく、継続して繰り返し啓発していくことが必要である。今後も、家庭・地域との連携を深め、地域に根ざした給食を実践し、食に関する指導をさらに進めていきたい。

お父さんや老人もいっしょに

 おしゃもじクラブには男女問わず参加してくださいと呼びかけていたが、平成十六年度のお父さんの参加はゼロだったので、より深くより広く地域で食育をすすめるため、平成十七年度“せいとご厨房”としてお父さんたちの料理教室を立ち上げた。また地区の老人会との月に一度の“かまど給食会”では、老人会から紹介していただく「伝えたいわが家の伝統料理」を給食で実施している。子どもたちの食をあずかる母親だけでなく、子どもたちを取り巻くすべての人たちとともに食育を推進し、健康地域づくりに寄与したい。

(※)「せいとご」は上地区に伝わるお祭りでかけるかけ声。

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