「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2006年11月号
 

食農教育 No.51 2006年11月号より

味噌汁の教材性

――「味噌汁の具」調べから交流学習へ

阿波市立市場小学校 藤本勇二

 味噌と味噌汁の学習はどのような可能性をもっているのでしょうか。今年度、六年家庭科で味噌汁を取りあげ、県内三校での交流学習に取り組んでいる藤本先生にうかがいました。 [編集部]

会話のなかで「味噌汁が学習になる」という確信が

 「味噌・味噌汁」が学習として成立するためには、そこに教材性がなければいけません。子どもにとって意味のある「活動」と、それを通して学ぶ「内容」の両方が備わっている必要があります。

 味噌・味噌汁の教材性への着眼が生まれた瞬間を、私がインターネット上で公開している実践記録「教室風土記(二〇〇六年二月四日)」から拾ってみます。

※(注)「教室風土記」は藤本勇二先生のリアルタイムの授業実践レポートです。食農ネットで公開されています。

 藤本を含めて(徳島)県の総合部会の事務局員三名で話し合っていました。「私も来年は地元の食材にこだわったことをやろうと思っています」「私(藤本)は来年、家庭科で朝食をしっかり食べることをやろうかと思っているんだ」「味噌汁って具に何入れる? この前に家庭科で授業したんです」「野菜でしょ」「うちの子は、焼いた餅を入れた子がいたよ」「具が違うとおもしろいね」

 ここでぴーんときました。

 「○○先生のところだったら何入れる。地元の食材で。やっぱり海のものかな?」「ぼくの所は、ちくわが特産品だから入れたらおもしろい」「市場町なら野菜でしょ。どう、子どもたちが味噌汁に入れる具を自慢し合うってのは?」「いいですね、やる気も出てくる、地域の食材の見直しもできる」「それを交流し合う」「味噌汁プロジェクトだ」「味噌汁に入れる具を総合で育てて用意する」「購入する段階でこだわってみることもできる」「家庭科と総合の連携はいろんなスタイルがありうるはずだね」

 三人ともにこにこしながら語り合いました。

 こうして「とくしま味噌汁プロジェクト」の発想が生まれました。

 徳島県では総合的な学習の時間を充実させるために小学校教育研究会総合部会がメーリングリストを運営しています。そのMLに下記のように提案してみました。

市場小学校の藤本勇二です。
味噌汁の実(具)は県内でも違いがあるのではないでしょうか。
5、6年生の家庭科、総合の単元で
味噌汁をテーマに学習をしてみませんか。
いっしょに学習してもらえる先生を待っています。
1回目は基本の味噌汁を作ってください。
もちろんそのときにも実には地域性が表れてくるかもしれません。
次にどんな食材を味噌汁に入れるか
家庭や地域で
聞き取りをします。
ここで地域性が見えてくると思います。
宍喰でしたら海のもの
小松島なら海といっても少し違うでしょうか
山城なら祖谷イモでしょうか。
こうした地域性をお互いに自慢し合い
2学期には他の地域の味噌汁を作ってみます。
素材のぶつぶつ交換もおもしろいですね。
基本の単元は藤本が書いていきますので
この試みに参画してもらえる先生で
このML上でも単元のアイディアや
活動案を交流できたら
おもしろいです。

(徳島県総合メーリングリストより)

 発言を受けて、宍喰小学校の三浦智佳子先生と鳴門東小学校の大塚一志先生のお二人の先生が参加してくださいました。

三者三様のねらい

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味噌を仕込む(5月31日)

 三浦先生は、朝食の大切さを伝えることをテーマに、五年の総合の単元で味噌汁を取りあげたいと考えています。味噌汁のよさを考えたり、地域での聞き取りをしたりしながら、朝ごはん定食をつくることをゴールに取り組みます。

 大塚先生は六年の総合で地域のよさを発見していくことをテーマに、味噌汁の具にこだわる活動を進めることを描いています。地域のゲストティーチャーを何度か招いて味噌汁をつくることによって、地域のひとやもの、ことに関心を向けていくことを目指しています。

 藤本は六年の家庭科で地域につながっていく単元づくりを意図しています。味噌汁の具を家庭で取材して、話し合い、味噌汁をつくります。この段階で、家庭によって具が違うことに気づくことが、二学期の地域や季節によっても具が違うことの探究の伏線となるはずです。調理実習の一回目では、教科書に載っているような基本の味噌汁をつくり、二回目は十月末に自分たちで仕込んだ味噌を使ってこだわりの味噌汁をつくってみる。さらに、交流学習をする三つの地域で、味噌汁のだしの材料は宍喰、ワカメは鳴門、具は私たちの住む市場(阿波市)、そういう物々交換をしたいと思います。昔は地のものと交易で得たものを上手に組み合わせて味噌汁をつくっていたそうです。そうした暮らしのなりわいを授業で実現したいのです。

一学期は味噌の仕込みと基本の味噌汁づくり

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1学期の味噌汁づくり

 一学期には家庭科の時間に「ごはんと味噌汁」の学習をすすめました。「みんなの家の味噌汁にはどんな具が入っているのか調べてみよう。特徴も書いてください」。この言葉から授業はスタートしました。野菜の入手法や「旬」についての話し合いを経て、自分たちのつくる味噌汁の具には「できるだけ近くでとれたものを使う」「旬の野菜を使う」そして「栄養のバランスを考えて三種類の具を入れる」、こうした条件を決めました。

 「タマネギ・ジャガイモ・豆腐(五グループ)」「タマネギ・ジャガイモ・卵(一グループ)」の味噌汁ができました。またごはんを炊くだけではなく、おにぎりもつくりました。「ノリ」「ツナマヨ」「ウメ」「コンブ」「ふりかけ」「サケフレーク」の六種類です。

 さらに、味噌も仕込みました。『食農教育五月号』の「五月に仕込み、九月に食べる味噌づくり」の記事を見て、横浜の小泉糀屋さんから手づくりセットを手に入れることができました。

 味噌の仕込みを終えて、家庭科でTTを組んでいる美馬三八子先生との会話。「味噌汁をつくるにしてもだいぶ味噌が余りますね」「三月の謝恩会、今年は味噌でおもてなししますか」「二回目の味噌汁をつくるときに味噌料理をつくってもいいですね」「ダイコンはまだ早いかな」「子どもたちに調べてもらって、郷土料理をつくりますか」「味噌づくしもいいね」二学期以降の活動の見通しを、味噌づくりという体験を通してより具体化することができました。

味噌汁プロジェクトを全国へ

 味噌汁プロジェクトで実現できることが三つあります。

(1)味噌汁の教材の可能性の提案:総合や教科での味噌汁の可能性を探る。味噌汁で地域に入っていく実践を目指す。

(2)協働作業としての授業づくり:教師間の交流を通じて単元をつくる。さらに栄養士や地域の方といっしょに授業をつくる。

(3)地域の教科書としての単元開発:全国で多くの食農体験が実施されているにもかかわらず、食農教育にまでなっていない現実があります。その背景には総合の難しさがあります。特に若い先生にとっては教科書のない総合の活動を組み立てていくことは大変です。また多くの先生には総合の単元開発は経験のないことです。そこでこの単元で実践すれば、ある程度のレベルを保証できる、そういう単元を用意することも必要なのではないでしょうか。そのうえで食農教育誌の実践をヒントに、さらに深めていく、地域にどっぷり入っていくことができるのではないかと思います。そういう基本としての単元づくりを目指します。

 味噌汁はだれでもが話題にすることができる、つまり共通体験を持っています。その共通性が交流を可能にします。しかも地域での違いがあります。味噌汁の具という視点から地域を見ていくことも可能です。普遍と特殊という性格を備えています。全国交流学習への展望が開けます。徳島での実践をもとに、味噌汁プロジェクトを全国へ展開していきたいと思います。

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三浦智佳子さん

■味噌汁をとおして朝ごはんの大切さを伝えたい

海陽町立宍喰小学校五年担任
三浦智佳子さん

 私の母はどんなときでも食事に手を抜かない人で、家族で外出するときでも、早朝からきっちり味噌汁をつくってくれました。その点、私はなかなかまねができなくて……。私の子どもの通っている小学校は、食育に熱心に取り組んでいて、三つの基礎食品なども学校で教わっているので、家では「お母さん、これ足りないよ」と食事を厳しくチェックされています(笑)。

朝食と味噌汁の大切さ

 クラスのようすを見てみると、なかには朝食を欠食、また菓子パンと栄養ドリンクだけとか、ラーメンとか、かなり心配な状況もあります。また朝からあくびをしたり、授業中に便意をもよおして腹痛を訴えたりという場面も多く見られます。
 味噌汁を食べてきた子どもは、元気に一日のスタートを切り、とても活動的な子が多いです。朝食をしっかりとることが、クラスの雰囲気や学習への構えにもつながっていくと思いますので、今年度から担任している五年生には、味噌汁をとおして朝食の大切さを伝えたいと思います。

「いままでやってきたことを生かしたらいいやん」

 子どもたちは総合的学習で、三年生で干物やテングサを、四年生ではインスタント食品や塩と、食にかかわるテーマに継続して取り組んできました。ただ、昨年度末に行なった総合的学習の自己評価は低く、自分たちの学習に自信がもてない子どもが多かったのでした。私は今年出会った子どもたちとは食をやりたい、そして何より「ぼくたちってすごい。やったらできるんだ」という自信をつけさせたいと考えていましたので、「またか」と思わないだろうかと、正直心配しました。ところが、「先生、いままでぼくらがやってきたことを生かしてやったらいいやん」「総まとめやな」と、明るく言ってくれたのです。そして、「元気もりもり 宍喰てんこもり 朝ごはんいただきます!」をテーマに「朝ごはんプロジェクト」を立ち上げました。

 一学期は、保護者や地域の方を対象としたアンケート調査を行なって、朝食についての意識や実態をつかむことからはじめました。どんなことを聞きたいか出し合い、KJ法を使って整理していきました。

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地域の人に学ぶ味噌づくり

 また、一人の子どものおばあちゃんが、味噌を加工してスーパーマーケットに出しているので、この方に教わって味噌を仕込みました。

 いま、子どもたちは「だしチーム」「具材チーム」「漬物チーム」に分かれて「宍喰てんこもり朝ごはん」のレシピづくりに取り組んでいます。ゴールとしては、朝ごはんの大切さを知り、宍喰の素材を使った朝ごはんをつくることによって、地域のよさに気づかせたい、味噌汁は自分でつくれるようにしたい、そして、それらの活動をとおして地域の人とかかわる力をつけたいということです。

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大塚一志さん

■「必然性のある交流」で、自信をもって人にかかわる力を

鳴門市立鳴門東小学校六年担任
大塚一志さん

 いま単身赴任をしていますので、私の食生活は乱れがちです。週末などに実家に帰って味噌汁を飲むと、ほっと落ちつくような気がします。

味噌汁をとおして地域に目を向ける

 今年度異動して、六年生一六名のこぢんまりしたクラスを担任しています。みな素直な子どもたちですが、学年一クラスで組みがえがないまま持ち上がっていますので、役割が固定してしまっておとなしい印象を受けます。味噌汁の学習をつうじて、子どもたちの自尊感情を育てたいというのが私の思いです。また、地域についても子どもたちはあまり特徴がないととらえているようです。味噌汁をとおして地域のよさに目を向けさせたいと思っています。

 子どもたちは昨年度、五年の家庭科の調理実習で味噌汁をつくっています。それを今年は、総合的学習のなかで「おすすめの味噌汁」をテーマにして、地域とつないでいきたい。一学期には「味噌汁でどんなことしたいかマップ」をつくり、一人ひとりの願いを出してもらいました。「つくって食べたい」が一番多いのですが、「地域の名人に聞く」とか「味噌をつくりたい」などの願いも出ていました。夏休みには「それぞれがおすすめの味噌汁を考えてみる」を宿題に、家の人といっしょにつくれる人はつくってもいいし、頭で考えるだけでもいいといっています。

 二学期には特産のワカメの生産者とか地元のホテルのシェフにゲストティーチャーにきてもらうことを検討しています。味噌汁を三回はつくってみたいと思いますが、そのなかで一人ひとりの子どものおすすめから、地域のおすすめという方向で、「おすすめ」の意味が深まっていけばと思います。

目的があるから交流が深まる

 宍喰や市場の子どもたちと味噌汁をとおして交流することも楽しみです。本校でも県内の小規模校との交流活動を行事として行なっているのですが、一学期に交流会をして、一回カードを送ると、「もういいや」という感じで、国語の「ガイドブックをつくろう」の単元にあわせて、交流相手の学校の町の紹介をしようよ、ともちかけてものってきません。もともとこの鳴門ではだしじゃこを小松島のほうから買っていたそうですが、味噌汁をとおして、具材や情報を交換することで、学校間の交流をすすめられたらと思います。人と会うときに緊張するとか、初めて会う人とどう接したらいいかわからないという子も多いのですが、「必然性のある交流」が子どもたちの積極性を引き出すことを期待しています。

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亀田佳子さん

■手前味噌のもつ力を見直したい

北島町学校給食センター栄養士
亀田佳子さん

味噌・味噌汁へのこだわり

 学校給食センターの職員に自分の家で食べている味噌についてきいてみたところ、所長はおかあさん手づくりの味噌を、事務員さんはスーパーマーケットの味噌を食べているそうです。私は生協の味噌を使っているのですが、それぞれこだわりの味噌がありそうです。味噌汁といって思い出すのは、昔、夏場にナス、キュウリといった旬の野菜とそうめんを入れた味噌汁を食べたことです。そうめんをゆでてから入れるのではなく、そのまま煮込むのでねばった感じになるのですが、年配の方のなかにはあのねばっこい味噌汁が食べたいという方も多いようです。

味噌が健康に果たす役割

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藤本勇二さん(左端)を中心に4人でロール紙に付箋紙を貼りながら、味噌汁の交流学習のプランを立てていく

 ただ、子どもたちのようすをみると、私がかかわっている北島小学校でもごはんと味噌汁の朝食を食べている子どもは年々少なくなっているような気がします。昔から「医者に金を払うなら味噌屋に払え」という言葉もあるように、味噌は大豆を発酵させることで大豆の栄養の吸収がよくなり、血液をさらさらにして、脳梗塞や心筋梗塞を防ぐ役割があります。昔は農家にとって味噌の仕込みは欠かせない仕事であり、それぞれの家に手前味噌がありました。こうした知恵をぜひ伝えていきたいものです。

味噌汁を繰り返し学ぶ意味

 学校給食センターに異動して四年目で、地元の北島小学校にかかわって三年目になりますが、ようやく家庭科専科の先生や担任の先生と連携して授業ができるようになりました。いま教科書では「ごはんと味噌汁」の調理実習を五年生で、「朝ごはんのおかず」を六年生で扱うのですが、五年生では意味合いまでふれるのはむずかしい気がします。その意味で、六年生の総合的学習で味噌汁を再び取り上げ、問題解決的に取り組むことは大事だと思います。

 味噌をつかった料理には、味噌汁だけではありません。徳島には「ゆずみそ」といってゆずをそのまま器にして味噌を入れ、焼いて食べる料理があります。こうした特徴ある味噌料理もぜひ子どもたちに伝えたいものです。

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「味噌汁プロジェクト」を
食農教育ネットワークで立ち上げます

藤本先生たち徳島の先生が立ち上げた「味噌汁プロジェクト」を地域に根ざした食農教育ネットワークのホームページhttp://syokunou.net/で展開します。
関心のある方は食農ネット事務局まで。

電話03―3585―1159 FAX03―3585―3668
Eメール syokunou@mail.ruralnet.or.jp

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