「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2007年4月号
 
グリンピースの実。柱頭についた花粉から花粉管が伸びて受精し、5つの種子がふくらみはじめている
(撮影 八木澤薫)

食農教育 No.54 2007年4月号より

家庭科実習の食材を
「生きもの」の視点でとらえる

千葉・千葉県立船橋法典高等学校 早川雅晴

家庭科実習の内容を理科の立場で補足する

 私は高校で理科(生物)を教えるなかで、なるべく身近な例や身近な材料を使って実験することを心がけてきました。なかでも、食べることには多くの生徒が興味を示すことから、つくって食べる授業を意識してきました(本誌二〇〇五年五月号四六頁)。

 しかし、せっかくつくったものも、味に関しては家庭科実習にかないません。「やっぱり家庭科でつくったほうがぜんぜんおいしい」といわれると、わかっていても悔しいです。そこで、つくること自体は家庭科に任せてしまい、代わりに家庭科実習の内容を毎回理科の立場から補足することで、学習内容の理解に役立てました。

 具体的には、(1)家庭科実習で使用する食材について「生きもの」という視点からみるとどうなのか。(2)調理作業は科学的にどういう現象なのか、について説明しました。

 今回は、(1)の実習食材に関する「事前学習」の例(高校二年生)を紹介します。

シュウマイのグリーンピースでメンデルの法則

 「シュウマイ」をつくる実習では、グリーンピースを使います。

 グリーンピースはエンドウの種子ですので、メンデルが行なった遺伝実験も、グリーンピースの仲間で行なったことになります。そこで、メンデルの法則を説明するさいに、グリーンピースの実を一人一粒配りました。

 エンドウの種子の「しわ」や「丸」という形質は、種皮の状態を示しています。しわ入りのグリーンピースは用意できませんが、実際に種皮をはがしてみると、中に二つの半球形をした子葉があります。発芽すると双葉になる部分です。グリーンピースのばあい、子葉の色は緑色ですが、メンデルが実験に使用したエンドウでは、黄色が優性でした。

 メンデルが実験した七つの形質のうち、種皮のしわと、子葉の色については、どの教科書にもでてくるので、こうして実際に確かめて理解を深めるとともに、被子植物の生殖の単元の教材としても利用しました。グリーンピースがさやと結合していた部分の脇には、珠孔(花粉管が侵入した穴)の跡があるので、この跡を探させ花粉管の移動経路を想像させるのです(図1)。

キノコご飯でイネの受精と酵素の働き

 「キノコご飯」をつくる実習では、お米について学習しました。イネは被子植物であり重複受精を行ないます。受粉すると花粉管を通して二つの精細胞が送られ、その一つは胚のうの卵細胞と受精し胚を形成しますが、もう一つの精細胞は中央細胞の極核と受精して胚乳をつくります。胚乳は胚が成長するための栄養分となります。私たちの食べている白米は、おもにこの胚乳の部分です(図2)。

 胚と胚乳の確認のために、ほとんど胚(胚芽)が削られている白米と胚の残っている玄米を見比べさせました。玄米では、胚の成長に必要なエネルギーを得るため、アミラーゼで胚乳のデンプンをグルコースに分解します。このアミラーゼの働きを確認し、酵素の理解を深めるために図3の実験を行ないました。

スーパーの食材は生きものだと再確認

 以上のような授業は、家庭科の学習カリキュラムに合わせて行なっているため、どうしても理科の学習内容の系統性・順序性にムリがでてしまいます。

 しかし、見慣れているはずの食材を実験・観察したときに、「あっ、本当だ」と素直に受け入れてくれていることから、食材はスーパーで売られているものではなく、「生きもの」であることを再確認させることができたと感じています。学習内容に共通点の多い家庭科の実習を理科の視点からとらえさせることで、総合的な力が育成されているように思われ、新たな可能性を感じています。

農文協食農教育2007年4月号

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