「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2007年4月号
 

食農教育 No.54 2007年4月号より

学校給食 Q&A

献立の見直し

Q. 食育基本法が制定され、超スピードで食育がすすむなか、食に関する指導(授業)が先行して、献立が置き去りにされている気がします……。食育の時代だからこそ必要な献立の見直しとは、どんなことでしょうか? (栄養士)

A. 子どもにこびることなく、素材の魅力を生かし、家庭にも胸を張ってつくり方をお伝えできる献立か、を考えることです。
答える人 徳島・北島町学校給食センター 栄養士 亀田佳子

平成十五年から豆やきのこが増えている

 子どもたちから、「このごろ、どうして、豆ばっかりだすの?」と聞かれることもあれば、「体にいい食品が意識されて、工夫されて、給食に登場しているのがよくわかるよ」と言われることもあります。

 平成十五年に文部科学省が「学校給食の栄養所要量の基準」および「標準食品構成表」を改定したことに伴い、豆類・種実類・きのこ類・藻類の区分の食品がたくさん登場するようになり、現代の子どもたちなら、食べなれない食品や献立がたくさん給食にでるようになったことと思います。子どもたちだけでなく、教職員自身も食べなれない食品や献立を学校給食で食べると同時に、子どもたちには「食べると体にいいよ」と、支援していく時代となりました。

調理研修会での新献立、三つのポイント

 本センターでは、夏休みに調理員とともに調理研修会を開催し、新献立の開発に取り組んでいます。栄養職員から新献立を提案するのですが、提案時には、次のようなことを考えます。

 (1)食品のもつ素材としての魅力が生かされているか。
 (2)子どもたちにこびることなく、料理本来の味となっているか。
 (3)学校給食流ではなく、家庭にもつくり方をお伝えできる献立であるか。

 当たり前のことと思われるでしょうが、伝統料理や酢の物は、子どもたちには遠い存在です。それを、おいしいと思って食べてもらえるように、子どもたちに食べやすいようにとの工夫は必要ですが、大人として、これはおいしいと胸を張って提供できる献立でありたいと思っています。

ひじきの炒め煮――残食の山をいかに減らす?

ひじきの炒め煮。毎年、できれば食べたくない献立の上位だが、子どもにこびることなく、味を改良してだし続けている

 ひじきの炒め煮は、低脂肪なのに鉄分や食物繊維を供給できる料理として、ぜひなじんでほしい献立です。四年前の赴任時には、調理員より、「提供した量よりたくさん残されてくるような気がする」と言われ、実際、給食時の学級訪問をしても、子どもたちからは不人気極まりないものがありました。

 とにかく、大人が食べておいしいと思う「ひじきの炒め煮」を提供しようと、以下の点を変更しました。

(1)ひじきは、長ひじきより、芽ひじき(米ひじき)が食べやすいので、購入条件を変更する。
(2)ひじきといっしょに炊き合わせる大豆は味がしみにくいが、水煮大豆を使用し、できあがった味の活用ではなく、本センター自らの調味とする。
(3)ひじきは、うま味を提供する海草ではなく、うま味を必要とする海草なので、肉と炒め油だけに頼らずに、煮干しのだしでうま味を添える。
(4)調理員より、使用した砂糖やしょうゆなどの追加や残りをていねいに聞きとって記録し、基準となる調味料の量を決める。
(5)ひじきは十分に水で戻せるように、大きなボールを使う。そのため、主菜には、大きなボールを使わないものを考える。
(6)ひじきだけの食感では単調なので、町内の特産物のれんこんのいちょう切りを歯ごたえに入れる。

 こういった改良を、約一年かけて実施しました。

 毎年十二月に町内の小学校五年生を対象に、アンコール献立のアンケートを実施しています。毎年、できれば食べたくない献立の上位ですが、改良後の子どもたちの反応は、「嫌いだけど食べてるよ。残さないもん」となりました。また、昨年十二月の調査では、一人ではありますが、初めてもう一度食べたい献立に選ばれるようにもなりました。

れんこんと枝豆のシャキシャキ和え――味をよくしみこませるために

れんこんと枝豆のシャキシャキ和え。合わせ酢を少し甘めにしたり、味をよくしみこませる工夫をした結果、もう一度食べたい献立の上位に入るようになった

 平成十六年夏にサラダ室が新設されたのを機会に、和え物献立を何種類か開発しました。

 この「れんこんと枝豆のシャキシャキ和え」は、いちょう切りのれんこんと、粒コーン、むき枝豆をごま油を入れた甘酢で和えたものです。名前のとおりシャキシャキした歯ざわりが楽しい献立ですが、よくかむことが苦手なのか、酢の味が苦手なのか、登場した年のアンコール献立では、できれば食べたくない献立の第四位でした。

 合わせ酢を、少し甘めにしたり、味をよくしみこませるために、ゆでたてのれんこんに、合わせ酢を先にかけてから、冷ましたりという工夫をしました。

 給食時の学級訪問で、物静かなタイプの子どもが、「みんな、このシャキシャキ和え嫌いというけど、私は好きなの」とお話ししてくれます。このようなささやきが複数回聞こえるようになり、れんこんと枝豆のシャキシャキ和えは、昨年度より、アンコール献立のもう一度食べたい献立の上位に入るようになりました。今では、先にれんこんに味をつけたりせず、ふつうに和えるだけにしていますが、今年度はもう一度食べたい献立のおかず部門の二位になりました。

 翌年開発した、いちょう切りにしたれんこんとツナのサラダは、抵抗なく定番メニューとなっています。

地域特産をあの手この手で活用する

 れんこんは、県下一人口密度の高い本町が誇る農産物です。学校給食では、このほかにも「れんこんそぼろ丼」を提供したり、学校給食以外の親子おやつ教室などでは、「れんこん蒸しパン」や「れんこんのねぎ焼き」を実習したりと、れんこん料理をいろいろ工夫しています。

 しかし、乱切りにすると歯ごたえが子どもたちになかなかなじみません。今後は、小さく乱切りにしたれんこんに、トウチジャンという中国の辛味みそを使っての「まーぼーれんこん」や、反対にれんこんのデンプン質を活用し、れんこんのすりおろしでとろみをつけた、「れんこんのみぞれ汁」を導入したいと計画しています。


れんこんとツナのサラダ

れんこんそぼろ丼

まーぼーれんこん

れんこんのみぞれ汁

れんこんのねぎ焼き

れんこん蒸しパン

喫食状況をもとに料理の基本に戻って

 献立の見直しや工夫は、子どもたちの喫食状況をもとに、料理の基本に戻って考え直すことではないかと思っています。とくに、料理を習ったわけではありませんが、料理の本や、テレビの料理番組からでも、いろいろなことを学ぶことができます。

 「れんこんと枝豆のシャキシャキ和え」は、煮浸しなど和食料理の冷ましながら味つけすることの応用です。イタリア料理はトマトのうま味で調理することから、トマト味のスパゲティは、ケチャップのみを使わずに、半量程度をトマトピューレにするとあっさりとおいしくいただけます。昨年度今年度と、もう一度食べたい献立のトップになったナンカレーは、カットされた完熟トマトを使用しています。

食育の時代だからこそ、「おいしい!」給食を

 食育基本法が制定され、学校における食に関する指導も、今まで以上にていねいに行なっていただける時代となりました。教員の高い見識のもと、環境問題や、家庭科の食物領域、地域産業の見直しなど、多方面からのアプローチで、残さず食べることを大事にする指導がなされている、と感じます。

 学校給食の献立も、常に見直していくべきでしょう。子どもたち自らが「おいしい!」と、新しい味覚を発見したり、楽しい食の出合いが十分に機能している給食になっているかを検証していく必要があります。

 そのうえで、授業時間に合わせたおやつや朝食献立の工夫など、子どもたちが調理技術を磨き、料理を心より愛して工夫できるスキルをも獲得できるよう、栄養職員が食育をコーディネートしていくべきであると思っています。

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