「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2007年9月号
 

食農教育 No.57 2007年9月号より

子どもたちのつくった献立による
給食の日がやってきた!

鹿児島・鹿児島市立田上小学校(六年担任) 岡元 照代
(学校栄養職員) 高橋ひとみ

 今年度、子どもたちのつくった献立で給食を実施する試みを始めた鹿児島市立田上小学校。効果はさっそく現われた。全校でごはんの残食が、多い日には九キロあったのが二キロへ。おかずの残食も半分に。田上小学校の実践を紹介します。

給食献立づくりで家庭科の学習を実生活に生かそう

 本校は、単独校方式で給食を実施し、児童数五六三名、職員数四〇名、計六〇三名分を調理している。校舎内に給食室があるため、休み時間になると、給食技師の作業を見に来る子どもも多い。

 五、六年生の子どもたちは家庭科が好きな子どもが多く、なかでも「食」への関心が高い。子どもたちは、食事をつくっているようすを見たり、実際に自分でつくったりすることが大好きなのだ。家庭科の調理実習では、みそ汁や野菜いためなどをはりきってつくっている。

 これまで家庭科では、テーマ(単元)の最後に、家庭科で学んだことで家庭でも実践できたことを発表し合い、学習したことが実生活で生かされるような取組みを行なってきた。しかし、その学習テーマが終わると、家庭で実践する子どもが徐々に減ってしまうという課題が残った。

 また、子どもたちの家庭での食事を調べると、朝食はとっているものの、栄養的に偏りのある食事になっている子どもが少なくないことがわかった。これは、家庭科の学習によって栄養のバランスのとれた食事の大切さを理解はしていても、好ましい食生活の習慣が十分定着していないことも要因として考えられた。

 そこで、子どもたちが家庭科で学習したことを確実に身に付け、それを実生活で継続的に実践するための手だての一つとして、六年生が考えた献立を給食に出すことにした。

 子どもたちにとって身近な「給食」に、自分たちが考えた食事が出てくることで、食の栄養や栄養バランスについて関心が増し、「○○さんの考えた料理を、自分も家で作ってみよう」といったように、家庭での実践意欲がさらに高まると考えたのだ。

 六年生はこれまでに、栄養のバランスを考えながら手早く加熱する調理法(「ゆでる」「いためる」)で朝食のおかずをつくっている。また、主食+汁物+主菜+副菜の組み合わせ方の学習も行なっている。これまで学んだことを実生活につなぐための発展的な学習として、家庭科で総時数一三時間を使い、「給食(一人分の食事)の献立」づくりにチャレンジするのである。

 献立づくりのテーマは「楽しい食事の工夫をしよう!」。

7月19日の献立は夏に勝つカツ丼
校内放送で「給食一口メモ」を読み、自分のつくった献立を紹介する

献立作成の指導はTTで

 具体的な献立作成の指導は、担任の先生と学校栄養職員とのTTで行なった。

 献立作成のポイントとして、「栄養のバランスを考える」「できるだけ多くの食品を使う」「旬の食材、鹿児島県内産の食材を取り入れる」よう子どもたちに説明した。

 子どもたちは、家庭科教室に展示されている食材に関する資料や、ニガウリといった野菜や果物などの実物を何度も見たり手に取ったりしながら、楽しい食事にするための献立を考えていった。食材をあれこれ入れかえながら献立づくりに励む子どもたちの熱中ぶりは、私たち教える側の予想を超えるものだった。

 六年生は三クラス一〇三名。この子どもたちがつくった献立のなかから、各クラスの担任の先生の意見も聞きながら七名の献立を選び、給食の献立に採用することにした。選ぶにあたっては、栄養のバランスや旬の食材が多く利用されていることはもちろんだが、料理のネーミングの斬新さも考慮した。

 採用した献立を考えてくれた子どもには、献立のどこを工夫したのか、どのような気持ちで献立を考えたのかを「給食一口メモ」として書いてもらい、それを給食時間の校内放送で本人に読んでもらった。自分の考えた献立をみんなに食べてもらえる喜びと、献立を考えることの楽しさを感じてほしかったからである。

子どもたちの献立の日は会話もはずむ

 「給食一口メモ」を放送しているときの教室のようすはいつもと違っていた。各クラスを回っていると、「今日の献立、六年生が考えたんでしょ。私も給食考えてみたい」「今日のニガウリはぼく食べられたよ! とってもおいしかった」と、いつもは給食を残してしまう子どもが、空っぽになった食器を見せてニッコリと笑いかけてくることが多かった。

 「きらいなものが食べられた」と喜んでいる子どもを見ると、私たちもうれしくなる。

 また「給食一口メモ」を聞き、「この献立の名前をつけた意味がわかるような気がする」「本当に元気になる野菜がたくさん入っているんだね」と、子どもたちが食材の種類やその栄養価について目を向けながら、楽しそうに食事をしている姿も見られた。

 給食献立づくりで、家庭での子どもたちのようすにも変化が見られたようだ。食事の準備を手伝うようになったり、料理のつくり方を聞いたり、食材について関心を示すようになったり、なかには自分なりに食材を工夫し調理する子も出てきているようだ。

 給食の残食も、以前に比べて少なくなってきた。とくに、子どもたちがつくった給食献立を実施する日には、残食がそれまでの半分以下に減っている。今回採用した七名以外の子どもたちが考えた献立についても、九月の献立で実施しようと考えている。

「給食一口メモ」の例

・7月2日実施
 メロンパン・牛乳・カレー風野菜スープ・
 みんなウキウキフルーツポンチ

●今日から7月になりました。今月は6年生が家庭科の学習の時間に考えてくれた「田上小学校のみんなが元気になる」献立です。旬の食材や、鹿児島県産の食材がたくさん使われています。

 ぼくは野菜ぎらい、フルーツぎらいの人にもおいしく食べてほしくてこのメューを考えました。工夫したところはふつうのスープではなくてカレー味にしたところです。また「みんなウキウキフルーツポンチ」にはパイン・もも・甘夏みかん・今が旬のぶどうをいれました。みんなにおいしいと喜んでもらえるとうれしいです。


・7月17日実施
 元気♪マッスルカレー・牛乳・
 キラキラ星のフルーツポンチ

●ぼくは、夏休みを元気に過ごしてほしいと思い、このメニューを考えました。元気♪マッスルカレーには、かぼちゃ、おくら、なす、えだまめなどの夏野菜がたくさん使われています。またキラキラかがやく星をイメージして、ナタデココは星形のものにしました。ナタデココはココナッツの実からできています。この元気♪マッスルカレーを食べて、元気に夏休みを迎えてほしいと思います。


・7月19日実施
 夏に勝つカツ丼・牛乳・
 きゅうりとわかめの酢の物

●今日の給食を考えた6年3組○○です。今日の給食は夏に勝つカツ丼、牛乳、きゅうりとわかめの酢の物です。ぼくは、暑い夏に夏ばてをしないように夏に勝ってほしいと思い、このメニューを考えました。また、旬の食材「きゅうり」をつかいました。きゅうりは体を冷やす効果があり、夏にぴったりの野菜です。今日は酢の物に使いました。ぼくの考えたメニューが給食に出てきてうれしいです。残さず食べてください。

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