「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2007年11月号
 
飛んでいくカラスを観察する生徒たち

食農教育 No.58 2007年11月号より

カラスは害鳥か?

中学生のカラスのねぐら大調査!

千葉県立中央博物館 大木淳一

 私が当館で準備を進めている山の博物館(仮称)設置予定地の千葉県君津市清和県民の森に位置する君津市立清和中学校では、平成十三年度に試験的な「総合的な学習の時間(以下、総合学習)」が実施されました。その際、一年生の学年主任から、総合学習へ協力してほしいという依頼がありました。地域に根ざす博物館活動を目指すためにもアドバイザーとして授業をサポートすることになりました。

地域を巻き込んだカラスのねぐら調べ

 この中学校は千葉県で唯一の僻地校指定を受けており、一年生は三四名の一クラスです。

 今回の試験的な授業は十一月中旬に四日しか行なわれません。しかも地元の自然を知ろうというのがテーマ。先生たちにとって、総合学習は初めての経験。また国語や体育が担当科目なので、かなり困惑している様子です。

 先生たちと話し合った結果、私は「カラス」がもっとも適した題材だろうと考えました。その理由は、(1)学力の差に関係なく誰でもわかり、(2)家に帰っても世代を超えてお茶の間の話題になるものだからです。

 しかもカラスは社会問題になっているし、十一月なら夕方になると「ねぐら」へ向かって一直線に帰っていく様子が観察できるはずです。さらに清和中学校の学区が広い! 小糸川の流域に沿って南北に約一〇km、周囲は標高が三〇〇m台の山に囲まれ、集落や田畑よりも森林が多い地域です。地の利を生かして自宅周辺のカラスを観察すれば、一生、気になるかもしれないし、各家庭やご近所も協力してくれるに違いありません!

 あまりにシンプルなテーマだったせいか、先生たちは気が進まない様子でしたが、何とか口説き落として実施する運びとなりました。

カラスのねぐら大調査!

どてらを着て朝から調査。防寒対策バッチリです!

 調査は学区が広いので、一年生三四名を九班に分けて、自分が住む地区のカラスがねぐら入りする前からねぐら入りするまでの様子、翌日の午前中の行動を観察することにしました。早朝、カラスがねぐらから発つ様子は有志だけ観察しました。

 生徒たちは二日かけたカラスのねぐら調査を楽しんでいました。カラスが見つからないときはおしゃべりをしながら盛り上がり、野山を探検したり、時にサルが現われて驚いたり、ねぐらに近い班ではカラスに糞をかけられて慌てて自宅へ飛び込んでシャワーを浴びたり……。ふだん、部活や塾などで瞬く間に流れる時間を、たまにはゆっくりと仲間同士で過ごすことができたようです。

 調査データは各班が学校に持ち帰り、学区全体が載っている地図にカラスの移動方向を記入しました。また各班は、カラスを観察した様子や、地域の方から聞き取ったカラスにまつわるお話を模造紙に書いて、発表資料としました。

 地図上にカラスが飛んでいった方向を記した結果、事前調査でわかっていた辻森のねぐら(次頁写真 調査地点Iのそばの★印)以外にも、鹿野山(調査地点Aのそばの★印)にねぐらがあることがこの調査で初めてわかりました。これには私たちもビックリ。みんなで一斉に調査すると予想もしない情報が得られます。

 また各班がまとめた模造紙には可愛いカラスの似顔絵?もたくさん書かれていました。それを見るとちゃんとカラスを観察していたかは微妙ですが、個性あふれる絵に癒されました(文末の「カラス美術館」をご覧下さい)。

カラスが教えてくれること

見よ、この美しい軌跡を! 学区内にねぐらが2ヵ所あることが判明!

 先生も貴重な体験をしたようで、初めは不安げだった学年主任は「カラスが飛んでいるのを見ると、どこに帰っていくか気になって仕方がないわ〜」、担任の先生も「生まれて初めて野生のサルを見た!」と目を輝かせていました。試験的に行なったカラス調査でしたが、生徒にも先生にも、何らかの形で心のどこかに身近な生き物「カラス」の存在が植えつけられたようです。生徒と教師、学芸員という立場は関係なく、何事も体験することが大事だということを教えてくれたねぐら調査だったと思います。

あの中学生たちは今……

 あれから六年が経った今、私たちは建物のない博物館活動「房総の山のフィールド・ミュージアム」を立ち上げ、地元の小学校の余裕教室を借りた「三島小教室博物館」という拠点で、地域の方々と一緒に博物館活動を行なっています。

 カラスのねぐらを調べた生徒たちは現在、大学生あるいは社会人として働いています。今でも何人かと交流があるので、当時のことをメールで聞いてみました。

 「中学校で受けた授業のなかで二番目に面白かったです(ちなみに一番目は、「家庭科の授業でマフラーをつくったコト」 だそうです)。あぁやって外に出て一日中調べたりするっていうことは初めてだったので、とてもワクワクしましたね。あと、朝方に辻森でやったカラスのねぐらの調査も少し眠かったケド楽しかったですね!」と、何らかの形で心のなかに留まっているようなので、安心しました。

 身近にいる生き物から周囲の環境に目を向けるきっかけとして、カラスはとてもいい題材だと思います。彼らが成人し、家庭をもつようになり、自分の子どもを育てるようになった頃、あの授業が活きているかどうか、この目で確かめてみようと思います。

 今回紹介した授業や生徒たちがまとめたカラス調査の成果は、千葉県立中央博物館ウェブページのデジタルミュージアムで公開しています。興味のある方はご覧ください。

〈カラス美術館〉

アートセンス抜群!
正面顔はむずかしいな〜
雰囲気はいいけど、くちばしが黄色……
授業前に書いた作品だけど、くちばしに歯が……
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