「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2008年1月号
 

食農教育 No.59 2008年1月号より

新連載 野菜人形劇

野菜たちに吹きこまれた新しい“いのち”

野菜人形劇グループ『ベジタブル』代表 柴田多恵子

 福岡県の柴田多恵子さんたちの人形劇団の名前は『ベジタブル』。人形はすべて本物の生野菜でつくります。食育をテーマにした人形劇の対象は、0歳から大人まで。日本でも珍しい劇団立ち上げのいきさつを、柴田さんが筑豊弁で語ってくれました。〔編集部〕

野菜人形劇を始めたきっかけは

ニンジンのニーコちゃん

 あがり症の私が生野菜を使って人形劇を始めたんは二〇年前。地元の幼稚園の先生に「絵本の読み聞かせにおいで」と言われたとです。

 「さあー、困った。大丈夫かいな」と心細い思いをしたとき、目に止まったのが新聞に書かれた野菜のイラスト。

 「これだ!!」

 生野菜を人形にしたら、子どもたちがびっくりして喜ぶばい。私も野菜たちを隣に置いたら落ち着くし、「友だちを連れてきたばい」と、野菜の人形を子どもたちに見せりゃあいいきと、つくってみたとです。

 完成したとき、思わずニヤッ!

 ニンジンにボタンの目、フェルトで口、毛糸で髪の毛、菜ばしに洋服をつけて、野菜人形にさしこむ。ハイ、ニンジンのニーコちゃんの出来上がり。

 当時、いまもばってん、私は裁縫が下手やったき、娘のぬいぐるみの洋服を借りて着せましたと(笑)。

 よく聞かれるとです。
 「なし(どうして)、生野菜やったと!? 紙で書いてもいいやん、布でつくってもいいやん」と。

 でもなんか知らんばってん、生野菜の人形をつくろうっち、思うたとですよね〜。

 さて、幼稚園に持って行ったら、園児たちの喜びようっち……とりおうたとです。そしてある子は、自分のお弁当に入っていたニンジンを見て、「わあー、ニンジンのニーコちゃんだ」と大喜び。

 これがきっかけで、私は、近所のお母さんたちと人形劇をすることにしたとです。

劇団員は一〇代から八〇代まで

 物干し竿に垂らしたシーツを舞台に見立てて、初めて演じたのは「白雪姫」。

 はじめての経験で、胸はドキドキ。でも主役はもちろん野菜たち。タマネギの白雪姫、ジャガイモの王子様、キュウリの意地悪お妃に、ナスの魔法使い。ピーマン、オクラ、青いトマトの小人には綿のひげをつけ、モールの眼鏡をかけ、フェルトの三角帽子をかぶせたとです。

 ベジタブルを立ち上げて一五年。主婦九人で始めて、いまでは一〇代の女の子から八〇代のシニアまで、総勢二五人になっちょります。できる人ができるときにする、会費、会則、練習なしのグループです。

 セリフも覚えず、舞台代わりのシーツの裏に洗濯バサミではさんだ台本を見ながらしゃべくりまわります。野菜をつくる人、洋服をつくる人、小道具をつくる人、演じる人、いろんな人が集まっちょります。

 また一本だった物干し竿もいまでは何本も使って、舞台背景をつくってみたり、にぎやかになったとです。

 台本も一八本。「朝ごはんしっかり食べよう」「地産地消」などの創作劇から、「てぶくろ」「七夕」などの童話、民話がようけあるとです。

 子どもの集中できる時間は一〇分〜一五分、物語もその時間内で終わるようにしちょります。

手前のシーツが舞台。壁ぎわのシーツが背景。物語によって、多いときで物干し竿を背景用に4本用意。重くてたいへんばい!!
舞台代わりのシーツの裏に、洗濯バサミで台本をはさんでいます

旬の野菜だから伝わること

野菜人形を説明する柴田さん。手に持っているのは、柴田さんの畑にあったゴーヤでつくった「お父さん」

 私も野菜をつくるようになって一〇年。旬の野菜のおいしさ、大切さを知ったとです。そして私のつくった野菜だから、よけいにいとおしさ、大事さを伝えることができちょうとです。

・野菜を見直す(重さ、汁、におい、効能、効果など)
・旬の野菜を知る(旬を食べるわけがある)
・命を感じる(「いただきます」の意味)

 生野菜の人形たちは、こんなことを伝えてくれようとです。同じ物語でも野菜が違うだけで、新鮮な物語となるんです。四季折々の野菜人形たちが、いろんな役の出番を待っとおとです。色、形、大きさで、人になったり、動物になったり。同じ人でも、優しい人から意地悪な人まで、いろんなものに変身。

私たちは何にでも変身します

 ここで主人と私、仲間のおばあちゃんがつくっている秋冬野菜の変身ぶりを紹介しまっしょうかね。

ダイコン(ウサギ、男の人、お父さん、おじいちゃん)
カブ(白雪姫、イヌ、ネコ、シロクマ、女の子、お母さん、おばあちゃん)
ハクサイ(先生、ナレーター、お妃、イノシシ)
ナタ豆(カエル、男の人、女の人、男の子、女の子)
サトイモ(ネズミ、男の子、女の子)
サツマイモ(ネズミ、オオカミ、男の人、男の子)
ハヤトウリ(キツネ、お父さん、男の子、お母さん、女の子)
シイタケ(イヌ、おじいちゃん、おばあちゃん)
ブロッコリー(カエル、女の人)
ツクネイモ(イノシシ、お化け)
ナス(オバケ、魔女)
ニンジン(オオカミ、魔女)
ヤーコン(イヌ、お父さん、男の子)
秋ジャガ(イヌ、男の人、男の子)

 そして、葉物のホウレン草、シュンギク、カツオ菜、コマツ菜、チンゲン菜、ネギ、パセリ、ミツバは束ねて輪ゴムでとめて人形に変身。

 気持ちがのっているときは野菜人形がいきいきとイメージどおりにでき、ニヤニヤ。
 次回は台本の内容や書き方、春夏の役者を紹介するけんね。

娘の毛糸の帽子をかぶせて女の先生
フェルトの長髪、針金の眼鏡。
優しいお父さん
割れたところを髪にみたてて、
リボンを付けたら、女の子に変身
サツマイモにモールの眼鏡をかけたら、
キザな店長のできあがり
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