「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2008年3月号
 

食農教育 No.60 2008年3月号より

若手とベテランで徹底討論!

コンビニ弁当から出発する自給・ゴミ・環境の授業

千葉 保
 神奈川県三浦市の3つの小学校の校長として勤務。そのうちの1校が、黒山先生と松田先生が勤務する旭小学校だった。総合学習の授業づくりに役立つ著書多数。現在、國學院大學非常勤講師。
黒山美沙樹
 新卒で熊本県の小学校・2校に短期間、勤めた後、千葉先生が転勤後の旭小学校に移り、4年目になる。総合学習の研究会で千葉先生を知ってから、千葉先生が主宰するいろいろな研究会に顔を出すようになった。
松田明子
 千葉先生が転勤後の旭小学校に、新卒で勤務するようになって6年目。千葉先生に薫陶を受けた職場の先輩に、黒山先生と一緒に鍛えられ、熱心な総合のチャレンジャーとなる。結婚前の梶谷明子の名前で、『食農教育』2005年7月号に「塩」についての実践を執筆した。

 子どもたちの生活に身近な“モノ”=コンビニ弁当から出発して、自給・ゴミ・環境の問題を考える……「そんな授業を、子どもたちとどうつくりだすか」というテーマで、総合の達人・千葉保先生と、総合に挑戦している最中の若手、黒山美沙樹先生・松田明子先生が、具体的な授業場面から授業づくりの秘密に迫ります。
 三人は、ある総合学習の研究会での、講師と教え子という関係。まず、黒山先生にコンビニ弁当を教材にした実践を報告していただき、その実践報告を分析する形で、三人に率直に話し合っていただきました。


コンビニで「これぞコンビニ弁当」を探す子どもたち

授業実践報告

コンビニ弁当から世界が見える

神奈川・三浦市立旭小学校 黒山美沙樹

 二学期はじめの総合的な学習の時間。袋から私の大好きな「牛カルビ丼」を取り出して、私はいきなり食べはじめました。五年生の子どもたちはびっくり。「先生、私たちも食べたいよ」「いいよ、じゃあ、みんなも買ってくる?」と聞くと、みんなうれしそう。作戦は大成功! 大喜びでコンビニ弁当の授業がはじまりました。

これぞコンビニ弁当!

 コンビニでは、多種多様な食べ物を売っています。買いに行くといっても、どんな弁当を買いに行けばよいのか、子どもたちは迷いました。そこで「これぞコンビニ弁当」という内容を、子どもたちに考えさせることにしました。「ご飯にゴマがかけてあるとコンビニ弁当っぽいよね」「ハンバーグとかシャケとか、オカズが決め手!」。こうして、だんだんコンビニ弁当への思いは高まっていきました。

 学校の近所のコンビニに、弁当を買いに行きました。弁当を食べた後に、コンビニ弁当からどんなことを考えたのか、書いてもらいました。「コンビニのシステムについて知りたい」「シャケはどこからきたのかな」などと、さまざまな疑問が湧きあがったようです。

 さっそく、コンビニの歴史やシステムについて、インターネットや図書室の本を使って調べました。コンビニの歴史がわかっていくにつれて、コンビニの歴史と人間の生活の変化が深く関わっていることを学ぶことができました。

自給自足の生活の意味を子どもたちと考えたい

 この学習をはじめる前の夏休みに、教材研究を行なっていた私は、コンビニ弁当の食材が外国から輸入されていることを知り、驚きました。そして、夏休み後半には、東北タイのブア村で約一週間、生活をしました。ブア村では、自給自足の生活が行なわれていました。山のイノシシ、川の魚、自然の雨水を利用した米つくり。その地でとれたものを大切にいただく、そんな、食文化はとても豊かで素敵だと思いました。日本もきっと昔は、そのような暮らしがあったのでしょう。この経験を子どもたちに伝えたいと思いました。ただ、日本の食生活や食文化が悪いというのではなく、変化した日本の現状を見つめて、そこから子どもたちが自分の生活を見つめなおすきっかけにしてほしいと思ったのです。

コンビニ弁当には、いろいろな食材が入っているね

食材は全部日本産と予想

 コンビニ弁当に入っていた多くの食材の産地を考えてみることにしました。子どもたちが考えた産地は、全部日本でした。ちょうどそのころ、「カネ美食品」という会社を知りました。コンビニ工場やスーパーに冷凍食品や加工野菜を届けている会社です。さっそく、ファクスと電話で、食材の産地を聞いてみました(一九頁写真)。すると、驚くことに肉や魚はほとんどが外国からの輸入で、野菜も輸入しているものがあることがわかったのです。子どもたちの予想は、ことごとく外れていました。

 それにしても、遠くから輸入されています。シャケはフェロー諸島からはるばるやってきていました。日本との距離はいったいどれくらいだろう? 地図帳を使ってその距離を調べてみると、二万二〇三四km。ほかの食材の輸送距離も測って、幕の内弁当の食材の総合輸送距離を出してみました。驚くことに一四万一九八七km、つまり、地球を三周半する距離だと知ると、子どもたちの驚きの声もさらに大きくなりました。

値段が高くても「日本の大根が食べたい」

 なぜ、こんなにも多くの食材が外国から輸入されているのでしょう。「外国からだったら、おいしい物が入りそう。いろいろな国の味が楽しめる。日本で収穫できないものが食べられる」などと話し合ううちに、子どもたちの意見は、次の三つのポイントにしぼられてきました。

(1)安全性。外国でとれたものを現地の工場で加工するシステムがあるというカネ美食品の回答から、現地ですぐに加工するので新鮮ではないのかという意見が出ました。

(2)値段が安い。日本と外国の生活水準の違いや人件費から、同じお金でも雇う人数が外国のほうが多くなり、その分多くの人数で加工できるから、安い値段で仕事ができるのではないかという考え方。

(3)外国との友好関係を保つため。以前、社会の時間に、貿易摩擦について考えたときのことから、世界中のみんなが仲よく暮らすために、「お互い様」が必要とのこと。

 活発に話合いが進むなかで、こんなことを口にした子どもがいました。「外国から輸入すればいろんな国の味が楽しめるのは本当だけど、やっぱり日本のものが食べたい」。みんな納得です。そこで私は、「逆に輸入することで困ることはないだろうか?」と投げかけました。すると、安全性についての疑問があがりました。「外国で加工すれば安全というけど、調べた資料の中に中国野菜の話題があった」と紹介してくれました。中国野菜に基準以上の農薬が使われていた問題は、数年前に起きたこと。今もこのようなことが起きているのではないかと、不安だというのです。するとこれに関連して、鳥インフルエンザやBSE問題についても出てきました。そこへ、カネ美食品にファクスを出した子どもが、みんなを安心させる一言を!「鳥インフルエンザ問題が起きてからは、中国やタイからの鶏肉の輸入はやめて、ブラジルに切り替えたらしいよ」。

 話合いが盛り上がってきたときに、「安全とか新鮮とかすんなり来ないな」と、つぶやく子どもがいました。その子の言い分はこうです。日本は安全大国といっているわりには、食べ物を外国に任せている。本当に安全を考えるならば、日本の作物を使ったほうがいいのではないか。子どもたちも、この意見に賛成多数! すると、ある子が言いました。「それは、弁当を食べる人の考えだろう。弁当をつくる立場の人からすれば、安い食材を仕入れたいんじゃない?」。

 さらにお父さんが農家をされている子どもが、大根の話をしてくれました。日本の大根は、経費が一本三〇円かかるのに対して、中国の大根は一〇円しかかからない。中国の安い大根が出回ると、日本の大根の出荷に影響が出るとのこと。そんな大根の値段の話が出た後で、学校が大根畑に囲まれているせいでしょうか、「それでも日本の大根が食べたい」と、子どもたちは言うのでした。

 そして、話合いは、環境問題へと移っていきました。燃料を燃やすことで二酸化炭素が発生します。「人が食べる弁当をつくるために、多くの燃料を使って地球を汚している」。子どもたちも私も、思いのたけを出し尽くして、何だか疲れてしまいました。

「環境破壊」を目に見える形に

 「環境破壊」と言葉では簡単に言うけど、子どもたちは、実際にそれを実感しているのでしょうか。そこで、「環境問題」を何か見える形で確かめたいと考え、次の実験を行ないました。

 準備したのは水とポリ袋とリトマス紙。酸性雨には、二酸化炭素が溶け込んでいるから酸性になることを話してから、実験を開始。車のエンジンをかけました。小さなビーカー一杯の水を四五Pのポリ袋の中に入れ排気ガスを溜めていきます。ガスと水が混じり合うように、一生懸命に振り続けます。袋の中の混じり合った水にリトマス紙をつけてみると、なんと薄いピンクに変わりました。水が弱酸性になったのです。さらに、実験を続け、リトマス紙につけてみると、先ほどより濃く変わりました。「ほんとうに変わった」「一台でこんなに変わるなんて」。子どもたちの目で環境問題を実感した瞬間でした。


徹底討論 授業づくりの秘密に迫る

導入は「食べる」のが一番いいんじゃない!

子どもたちの調べたいエネルギーをためる

──黒山先生が「コンビニ弁当」をテーマにした理由からお聞かせください。

黒山 このときは、五年生の担任だったのですが、子どもたちはあまり給食を食べない。とくに野菜などは食べないのに、体だけは大きい。この「食への意欲は弱いのに、体は大きいということ」に、不思議な感じがしていました。だから、子どもたちに「食」に対する関心を持ってほしかったのです。

 また、五年生は社会科で、農業などの産業と外国とのつながりを学ぶので、子どもたちの日常の食事の食材を調べることから、外国と出会えないかと考えていました。

 そんなときに、千葉先生がお書きになった『コンビニ弁当 一六万キロの旅』(太郎次郎社エディタス)を読んで、ああこれだな、子どもたちの生活に身近な「コンビニ弁当」をテーマにしようと思ったのです。

──それで、黒山先生が突然、「牛カルビ丼」を食べることから学習がはじまるわけですが、よくこんな入り口を考えつきましたね。

黒山 やはり、子どもたちが食いついてこないと、学習ははじまらないと思うのです。だから、導入は絶対子どもたちにインパクトのあるものにしたくて、当時の教頭先生に相談したんです。二人でいろいろ話し合っているうちに、教頭先生が、「黒ちゃん、食べるのが一番いいんじゃないか」と言ってくれました。「食べる」については、子どもたちに食べさせる方法もありましたが、私も一人暮らしで、実はコンビニ弁当が好きだということを子どもたちに伝えて、子どもたちと同じ土俵に立って学習をはじめようと思ったのです。

──「牛カルビ丼」を食べたのは、給食の時間ですか。

黒山 給食の終わった五時間目でした。昼休みに近所のコンビニに買いに行って、子どもたちが食欲をそそられそうな、香りの強い「牛カルビ丼」を選びました。「先生はこれが好きなんだ」とか言って、コンビニの袋を持っていきなり教室に入っていったら、何がはじまるんだという感じで、子どもたちが興味深そうに見ていました。

──松田先生は、黒山先生と同年代でいらっしゃいますが、導入で子どもたちを乗せるには、どんな方法を使いますか。

松田 「食」をテーマにした学習の場合、どの子も食べたいという欲求は一緒だと思うので、食べることからはじめるのがよいと思います。たとえば、昨年度、私が担任した三年生で「お寿司」を学習したときも、お寿司の出前をとって、お寿司屋さんが来て、私がお寿司を食べるところからはじめたんです。また、四年生と「塩」を学習したときは、マクドナルドのフライドポテトを、塩をかけないで、子どもたちと食べることからはじめました(本誌二〇〇五年七月号八四頁参照)。

 ただ、千葉先生が、「『喚起』の時間は一時間だけでなく、子どもたちが学習テーマに意欲や興味を持つまで、いろいろな手立てをとることが必要だ」とおっしゃるように、「食べる」だけでなく、いろいろな方法があるとは思います。

──その「喚起」というのは、どういうことですか。

千葉 黒山先生や松田先生が、現在、勤めておられる三浦市立旭小学校で、私が校長をしていたとき、総合学習の方法を考えました。学習テーマとしては、子どもたちが日常的に接している「モノ」に視点を当てるのがよい。「モノ」には現代の情報がいっぱい詰まっていて、それを調べていくといろいろなものが見えてくるからです。しかし、「モノ」をポンと見せても、それで子どもたちが乗ってくるとは限らない。そこで、子どもたちが「モノ」に興味を持って学びはじめるような、いろいろな手法を考えました。それらの手法を「喚起」と呼んだわけです。

──「喚起」というのは、子どもたちの気持ちを学習テーマに向けて沸き立たせる、という意味ですか。

千葉 そうです。この「喚起」からはじめて、追究→深化→発展と学習を進めていきます。それらについては、話題が関係してくれば、述べさせていただきます。

──コンビニ弁当の喚起の方法で、黒山先生が行なわれた方法以外に考えつきますか。

千葉 コンビニ弁当を買ってきても、まずは子どもたちに見せないで、「幕の内弁当を買ってきたんだけど、どんなオカズが入っているか?」と、クイズ方式で問いかける喚起もありますね。

──O-一五七への配慮などから、学校で食べてよいのは、給食と家庭科の調理の時間だけ、という学校もあると思うのですが……

千葉 食育の時代に、そんな学校がありますかね。まあ、それなら、コンビニ弁当を一つひとつ写真に撮って、「〇〇弁当には、何が入っているか?」と問いかけながら、写真を見ていく方法もあります。ただし、写真をいっぺんに見せてはダメですよ。そこは、もったいぶるわけ。シャケがある、ハンバーグが入っていると話し合っているうちに、子どもたちは乗ってきます。場合によっては、弁当の写真も実物も見せずに、「幕の内弁当だけど、さて、何が入っているか」と、クイズ調で一つひとつ当てていってもよいし、グループで弁当の中身を想像して絵にしてもよいでしょう。

 黒山先生のようにほかの先生と相談してもよいから、この喚起の段階で、子どもたちの調べたいというエネルギーをためておかないと、次の追究の段階が、本やインターネットの丸写しという具合に、おざなりになってしまうのです。


(続きは食農教育2008年3月号をお読みください。)

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