「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2008年5月号
 

食農教育 No.62 2008年5月号より

ふくだ・たいぞう
1967年、長崎県佐世保市生まれ。1989年に教師になり、教師歴19年。生ごみリサイクルや「弁当の日」「味噌汁の日」を実践している

授業実践報告

食で子どもたちの「くらし力」を向上させる

長崎・波佐見町立南小学校 福田泰三

家庭の「空気」がなくなっている

 三時間目になると、どこからともなく香ばしい匂いがしてくる。「今日の給食はカレーだ!」、ふと私の小学校時代を思い出す。そのころは、遊びから帰ると、家に入った瞬間、匂いと調理する音で、今晩のおかずがすぐにわかった。それぞれの家庭の「空気」があった。

 しかし、昨今この家庭の「空気」がなくなってきている。そのことと並行して、子どもが変わってきている。目の輝きを失い、授業中に話を聞けない子どもが目立つようになった。その背景には、朝食の欠食などの食の問題がある。そこで、食の大切さを実感できる子どもを育むために、子どもにもでき、子どもが生活のなかに広げていける食の切り口を示すことが大切だと考えている。

生ごみリサイクルで、まず土づくりだ!

生ごみリサイクルで野菜づくり

 学校給食は、子どもの偏食と残菜の多さという問題を抱えている。偏食のなかでも野菜の好き嫌いが最も多い。残菜量はクラスによって違うが、子どもは、どれくらいの残菜の量が学校から出ているのか知る機会も少ない。そこでまず二〇〇六年度に、残菜の量が一番多かった五年生を中心に、残菜を畑に返して土づくりをして、野菜をつくる活動を行なった。

 まず総合的な学習の時間で環境問題を扱い、そのなかで、家庭から出るごみの六〇%は生ごみであることを子どもたちは知った。そして、本誌で連載中の吉田俊道氏を講師に迎えて、生ごみリサイクルの話を聞いたうえで、土づくりをし、ニンジンを植えて育てていった。

 この活動が、子どもたちの意識を変えた。給食後の昼休みに、子どもたちは給食室から生ごみを集め、畑に入れた。

 はじめは、「くさい」「きたないからいやだ」と言っていた子どもたちも、白カビが生えたり、発酵のために土が熱くなったりと、新しい発見をするようになると、「何でこんなに残すのだろう」「もったいないな」「残さないよう呼びかけよう」と心情にも変化が生まれ、現実に給食の残菜も減っていった。

 生ごみで土づくりした畑からとれたニンジンは、生でかじると口いっぱいにニンジンの匂いが広がり、ニンジンが持つ本来の甘さを感じ取ることができたのだった。

食生活チェックシートで日常の食を変えていく

 食は「心と体のエネルギー」となるもので、エサとは違う。しかし、現実には、スナック菓子や清涼飲料水などでとりあえずお腹を満たすといった若者が増えている。子どもたちもこういったものが好きだ。

 そこで、子どもたちに栄養の摂り方や食べ方を意識させるために、食生活チェックシートを活用することにした。食生活チェックシートの一七項目は、(1)旬の野菜をいただこう (2)葉野菜をいただこう (3)皮ごといただこう (4)成長点こそいただこう (5)元気な土で育った野菜を選ぶ (6)海草をいただこう (7)食事の量の半分はご飯をいただこう (8)ご飯に雑穀を加えたり、ぶづき米にしていただこう (9)朝はご飯と味噌汁 (10)煮物、和え物を食べる (11)梅干、たくわん、納豆をいただこう (12)のどが渇いたら、水やお茶 (13)間食をしない (14)三〇回かんで食べよう (15)心から感謝していただこう (16)命いっぱいの調味料・加工食品を (17)砂糖・塩を選ぼう(吉田俊道氏作成のシートを参考に改作)、だが、そのなかから三つだけ選んで、一ヵ月間実践していくことにした。

 家庭と連携して、このチェックシートにとり組んだところ、子どもたちの心身の状態がよくなって、「いらいらしなくなった」「疲れなくなった」「お菓子をあまり食べたくなくなった」というようになり、体温が三五度台だった児童の多くが三六度台になるといった変化が見られた。その結果、保護者から驚きの反響が寄せられた。

 また、このシートを実践することによって、これまで意識していなかった食にも意味があることに気づき、和食のよさを見直した家庭も多かった。

味噌汁の日

味噌汁づくりで台所に立つ子ども

 このようにして食意識を変える実践を行なってきたが、さらに子どもたちが自分で企画し、実践できる力を育てたい。そこで五年生の家庭科「作っておいしく食べよう」(開隆堂出版)の単元で扱われている「ごはん・味噌汁作り」を家庭で実践することにし、家庭科の実習をいかして、宿題として家庭で一週間、子どもたちに朝食の味噌汁をつくらせた。

 お米によく合う味噌汁は、山の力(野菜や豆腐などの素材)と海の力(だしに使う昆布、鰹節やワカメなどの素材)、発酵食品の味噌を同時にとれる日本の風土が生みだした伝統食だ。

 味噌汁は、だしをとり、旬の野菜を皮ごと包丁で切って鍋に入れ、味噌を入れるだけで簡単にできる。継続して味噌汁をつくることにより、子どもは旬の野菜を知り、切り方も学べる。また味噌汁にはその家庭の味があり、その家庭ならではの味や具材を親から学べる。この実践は、学校での学びが家庭で生かされ、子どもたちが、これからの自分の食(調理)を考えるきっかけにもなる実践となった。

家族のための食事づくりで変わっていく子どもたち

 家庭での味噌汁づくりを通して、子どもたちは大きく変わった。

「お母さんが『ありがとう』と笑顔で言ってくれたので、ぼくも心から暖かい感じになって気持ちよかった」

 朝から家族のために何かをすることで、子どもたちの朝の時間の過ごし方が変わり、気持ちよく登校し、授業に参加するようになったのだ。

 また、味噌汁づくりを通して、家族が喜ぶことをしてあげることにより、自分も家族のためにしてあげられるという自己肯定感も芽生えていく。

 夕食をいっしょにつくる児童もふえた。はじめは危なっかしい手つきの子も、見守り、ときにはやり方を伝えることにより、次第にうまくなる。子どもは失敗から学び、成長する力を身につけるのだ。投げ出さずがまんする力は、集中力を生んでいく。料理をつくる段取り力も育まれる。これまで、勉強ができれば、運動ができればという能力主義だった親の考えも変わってくる。はじめはできなかったことを、次第に身につけていくわが子を信じるようになる。

 「お母さんに『野菜炒めをつくって』といわれ、とても嬉しかったです」「『子どもだけでいるときは、火を使ったらダメ』といわれていたお母さんに、『今日はお昼つくって食べなさいよ』といわれるようになり、自分ももうおとななんだと感じました」そう日記に書いた子もいた。

「南っ子食育祭」で活動を地域に広げた

 二〇〇六年十一月二十一日、「南っ子食育祭」と称して、五年生は、生ごみリサイクル野菜づくりや食生活チェックシートでの食改善活動、味噌汁づくりのよさを地域の方がたに発表し、地域へ広げていくこととなった。

 発表は、生ごみリサイクル野菜の栄養価と生命力を発表するチーム、生ごみリサイクルの土づくりを発表するチーム、生ごみリサイクルに使う菌(ぼかし)づくりを発表するチーム、食生活チェックシートの活用と実践効果を発表するチーム、味噌汁づくりのよさについて発表するチームに分かれて行なった。

 発表当日は、生ごみリサイクル畑でとれたニンジンの味噌汁を、来場した方がたにふるまい、発酵食品のすばらしさや日本の伝統食のよさについても伝えることができた。この食育祭は、発表した子どもたちにとって、自分たちがこれまでやってきたことが地域の役に立つことを実感する場となった。

 ある子どもの日記には、「安全パトロールの方が、『この前の南っ子食育祭よかったね。家でも生ごみリサイクルしよるよ』と言われました。私は本当にしてよかったなと心から思いました」とあった。

感謝弁当にメッセージをそえて

感謝弁当のために料理する

 前年度に食にかかわるさまざまな実践を積み上げてきた五年生も、二〇〇七年度は六年生になり、いよいよ卒業の日が近づいてきた。本校では、「弁当の日」を実践している。その経験を生かして、六年生の最後の家庭科では、「親への感謝の弁当」をつくることになった。テーマは「『ありがとう』がたくさん詰まった弁当を、おうちの方がたに食べていただこう」。

 まず、子どもたちが自分でつくりたいメニューを出し、それをもとにチームをつくり、材料と道具を決めさせた。保護者七八名分の材料は、波佐見町給食センター栄養職員の方に購入していただいた。

 「親への感謝の弁当の日」をいつ実施するかが問題だった。保護者もなかなか忙しく、全員が集まれる日を設定するのはけっこうむずかしいのだ。そこで、一ヵ月前に「一日参観日のお知らせ」を出して、保護者全員の出席を呼びかけた。

 当日は、一・二校時に家庭科でおかずをつくり、三・四校時に子どもの出し物を中心に感謝の会を行ない、昼食に「感謝の弁当の日」を実施することとした。

 野菜を切ったり、ゴボウやジャガイモを水につけておくなどの下ごしらえを前日から行ない、当日は、料理と盛りつけに時間をかけた。日頃から台所に立っている子ばかりなので、手際よく一時間ほどで料理し、おにぎりをひとり三個ずつにぎって、弁当パックに詰めておいた。

 さて「感謝の弁当の日」では、親へのメッセージをそえて、子どもたちは、弁当パックを親に渡したのだった。子どもたちがつくったおかずは、バイキング形式でパックに詰めてもらうようにした。おかずのメニューは二〇種類。

 子どもたちのメッセージカードを、親たちは涙ぐみながら、とても嬉しそうに読んでいた。

 この日は、子どもたちにとっても心に残る一日になったはずだ。料理を誰かのためにつくる喜びと、自分の成長を実感した子どもたちは、くらしのなかでの食を大切にしていくだろう。この活動は、これからの人生においての「食をつくり、楽しむ」という心の根っこの部分になっていくだろう。

子どもは食卓の「空気」を食べる

子どもたちからのメッセージを読んで、お母さんたちは何を思ったろう

 何を食べ続けるかで、子どもの未来は変わる。楽しんで食をつくることで、食材にこだわり、よいものを見極める力が育まれ、食材を生かす工夫も生まれる。そこから生産者への感謝、食に対する感謝も生まれる。

 また食を楽しむことは、食卓を楽しむことにつながっていく。

 食卓で、子どもは「空気」を食べる。人とのかかわりの「空気」を食べ、それが子どもの人格を育んでいく。認め合い(認め愛)や学び合い(学び愛)のある食卓からは、「競い合い」ではなく「高め合い」の心が育まれていく。

 このように「くらしの時間」を大事にすることによって、子どもたちの「くらし力」は確実に向上する。

農文協食農教育2008年5月号

ページのトップへ


お問い合わせはrural@mail.ruralnet.or.jp まで
事務局:社団法人 農山漁村文化協会
〒107-8668 東京都港区赤坂7-6-1

2008 Rural Culture Association (c)
All Rights Reserved