「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2008年7月号
 

食農教育 No.63 2008年7月号より

黒豆(枝豆)を混ぜたおにぎりを朴(ホオ)の葉で包む=サビラキ

消えかかっていた田植えどきのご馳走

サビラキを子どもたちが再現

兵庫・篠山市立西紀小学校(元教諭) 中西尚子

校長先生の一言から思いついた題材
「お祭りのごっつお(ご馳走)」

 平成十九年度は、三年生を担任し、学級目標を「山(さん)SUN・産キュー!」と掲げた。そして、一年を通して、すべての教育課程で、「地域の人や自然に学び、地域を愛し、地域に感謝できる子をめざして」を目標に、授業に取り組むことにした。

 また、本校は、県の食育推進モデル校として、三年目をむかえているが、その食育の三年生の重点課題は、「食文化の継承(黒豆)と自給力を高める」となっている。

 というわけで、「黒豆」に関わって、何か具体的な題材を考えなければならなかったが、前々年度にも三年生を担任し「丹波篠山特産・黒豆の人気のひみつをみつけよう」を題材に調べ学習をしていたので、「さて、今年度はどんな題材にしようか」と、迷ってしまった。

 そんな折、一月に一回のペースで開かれている校内研修会で、校長先生が、「お祭りは、この辺ではどうなの?」と発言された。この発言にピンときた私は、「そうだ、今年の題材は、お祭りのごっつお(ご馳走)にしよう」と決めた。黒豆は、栽培をはじめていたので、収穫後の二学期末に、この「ごっつお」の学習の流れのなかで何かの加工に取り組めばよいと、大雑把に計画した。

 二学期に入ると、社会科で、「地域に伝わる昔からの行事」(大阪書籍)、国語科で、「つな引きのおまつり」(東京書籍)の学習をする。ちょうど同時期、校区の各地域に伝わる祭礼があり、クラスの子どもたちも数名が、その伝統行事に参加して楽しむ。

 そこで、二学期から、総合的な学習を中心に、前記の教科とも関連させながら、地域に伝わる「ごっつお(ご馳走)」の調べ学習に、取り組むことにした。

あの、サ……なんとかの味が忘れられん

炭焼きのおじいさんが朴の葉もとってくれた

 一学期に題材を構想した当初は、地域に伝わるお祭りのごっつお(ご馳走)として、鯖ずしを主に考えていた。いまでも、この地域では、お祭りには「鯖ずし」がつきものだからだ。

 そんなことを考えていた六月のある日、学校農園(本校の三年生は、毎年学校農園で、丹波篠山特産の黒大豆栽培をしている)のすぐそばで農業をされていて、学校農園をいつも気にかけてくださっている岡澤さんというおばあさんに、篠山の特産物などを、子どもたちと聞く機会があった。そのときに、岡澤さんが話された「サ……なんとか言うて、田植えどきに学校から帰って食べたあの味が忘れられへんの」という一言が、気になってしかたがなくなった。そこで、お祭りのごっつお「鯖ずし」のほかに、子どものごっつおとして、その「サ……なんとか」も、調べ学習の題材にすることにした。しかし、子どもたちも私も、「サ……なんとか」では調べようもなく、おばあさんの記憶だけが頼りであった。

ついにわかった田植えどきのごっつお(ご馳走)「サビラキ」

岡澤さんたちがサビラキづくりを教えてくれた

 そこで、子どもたちと一緒に、岡澤さんに、再度、「サ……なんとか」について聞くことにした。少しずつ記憶が言葉になり、わかってきたことは、次のようなことだった。

・田植えどきの子どものおやつであった
・黒豆ごはんのおにぎりで、朴の葉に包まれていた
・栗の木にぶら下げられていた
・田の畦にさしてあった

 これらのことに、子どもたちも私も、興味津々となった。しかし、まだ正しい名前がわからない。どうしたらわかるか、子どもたちと話し合い、家族や地域で調べてくることになった。しかし、三年生の祖父母の年齢も若く、「そんなん知らん」と、まったく情報がないまま夏休みを迎えた。

 せめて正しい名前だけでも知りたいと思い、私は、夏休みを利用して、市立図書館へ出かけた。司書の方に事情を説明して、何冊か資料を紹介していただいた。司書の方も、「郷土料理の掘起こしをしているので一緒に調べたい」と言って探してくださり、丹波篠山の郷土食・行事食の古い資料も五〜六冊出してくださった。それらの資料を一頁ずつくって調べた結果、ついに名前が判明した。

 その資料の中の一冊に、二行程度で、「サビラキ=田植えどきの早苗の成長を願って食べる大葉にくるんだおにぎり」と書かれてあった。「サビラキ」という名前がわかった時点でほかの本を見ると、同様に、「サビラキ=田植えが無事に終わったときに食べる朴の葉でくるんだおにぎり」と記されていた。

炭焼きのおじいさんからゲットした朴の葉

 二学期に入り、「サビラキ」という名前がわかったことを、子どもたちや岡澤さんに報告をした。子どもたちは、サビラキへの関心が強まるばかりであった。そして、子どもたちは、岡澤さんに当時を思い出してもらって、一緒にサビラキをつくりたいということになった。私は、岡澤さんにそのことを伝えてお願いした。

 岡澤さんは、最初は、「教えるなんてできない」としりごみをされていた。それでも、子どもたちの願いを実現するため、何とか承知していただいた。こうして、岡澤さんと、お友だちのおばあさん、そして、本校の栄養教諭の協力で、「サビラキ再現」にチャレンジすることになった。

 サビラキをつくるには、まず、朴の葉がいる。子どもたちは、登下校時の地域の朴の葉探しからはじめた。

 やっと見つけても、ほとんどが大変高いところにあり、子どもたちの手ではとれなかった。また、サビラキづくりの実習をするころまで、朴の葉が緑のままかどうか、という問題も出てきた。

 九月に、炭焼き体験学習をさせていただいたときのことだ。炭焼き小屋の裏山に、「あれ、朴の木や」と、子どもたちが見つけた。けれど、ずいぶん急な山である。見つけた子が、炭焼きのおじいさんに、「朴の葉とサビラキ」の話をした。その話を聞いたおじいさんは、「早くとりすぎると枯れるから、調理実習をする前日に、朴の木を切ってあげよう」と、思いもかけない言葉をかけてくださった。あきらめかけていた矢先だっただけに、おじいさんの親切な言葉に、私も子どもたちも感激した。残暑の厳しい日だったが、子どもたちも私も、炭の出し入れを一生懸命手伝い、おじいさんに感謝の気持ちを伝えた。

 このおじいさんの記憶では、「山ブキの大きな葉で包んでたような気がする」とのことだった。サビラキには、地区により、いろいろな工夫があったのかも知れないということもわかった。「山ブキならあるところ知っている」と、子どもたちもますます意欲的になった。地域の人たちの教育力に助けられながら、サビラキづくりが現実になってきた。

黒豆の枝豆ごはんにすればいい

 サビラキは田植えどきにつくるから、実際は収穫して乾燥した黒豆を使うが、学校のサビラキづくりの実習は十月後半に予定している。そこで、豆をどうするか、子どもたちに相談すると、ちょうど、地域の特産・丹波篠山黒大豆の枝豆のシーズンである。学校農園で自分たちで育てている黒豆も枝豆で収穫できる。「黒豆の枝豆ごはんにすればいい」という子どもたちの声を採用して、黒豆の枝豆おにぎりをつくることになった。学校農園でつくった米もある。サビラキをつるす栗の木もある。これで準備万端ととのった。

 実習当日は、岡澤さん、岡澤さんのお友だちのおばあさん、本校の栄養教諭の三人に指導してもらい、サビラキの再現に取り組んだ。

 今日を迎えるにあたって、岡澤さんやお友だちのおばあさんが、朴の葉を保冷庫に保存してくださっていたこと(実は調理前々日に変色してた)、事前に試食してくださっていたこと、炭焼きのおじいさんの朴の枝を切り落とす苦労や、図書館の司書のご協力など、多くの地域の人たちの期待やお力添えがあったことを、子どもたちと共に実感した。

 実習の時間には、枝豆の収穫を喜び合い、朴の葉を心をこめてきれいに洗う、いつもと違う子どもたちの顔があった。 黒豆のおにぎりを、朴の葉で包み、しゅろをひもにして結ぶ。そして、栗の木にぶら下げる。子どもたちには、はじめてのことだったが、みんな嬉々としてつくることができた。

 でき上がったサビラキの味は最高で、「簡単やからまた家でつくる」と、子どもたちは大喜びであった。

白いごはんは、すごいごちそうやったんや

 岡澤さんたちは、子どもたちの前で教えられるかと、不安がっておられたが、授業のなかでは堂々とされ、子どもたちとの時間を楽しんでくださった。おばあさんの子どものころのお話では、「おやつは自然の物ばかり、白いお米なんて食べられるのは年に数回で、今のように何でもあるぜいたくさはなかったけれど、おいしくて楽しかった」と話してくださった。子どもたちは、おばあさんの子どものころの様子に興味を持った。サビラキの再現を通して、朴の葉の効能や米の豊作の願いなど、地域の人たちと心の通い合う多くの学びができた。

 サビラキづくりを終えた感想を表わした子どもの詩が、地元紙(神戸新聞)の「小さな目」の欄に掲載された。

サビラキづくり (西紀小 三年 北川いずる)

岡澤さん、おばあさん、
教えてくださってありがとう。
サビラキって何なん?
何をつくるのかわからなかった
あとでおじいちゃんに聞いたら
「子どものころに食べたことあるわ」って言ってた
今はいっぱい食べられる白い米や豆は昔はごちそうやったこと
お米がいっぱいとれるようにおいわいしていたこと
ほうの葉につつんでいたこと
ほうの葉はお皿がわりやったこと
教えてもらってわかった
さびらきはおいしかった
おばあちゃんとおじいちゃんは
子どものころに食べた
ぼくらは小三で食べた
またつくります

 この詩を通して、地域の方がたに、 三年生の地域学習の様子を知っていただくことができ、三年生へ励ましの言葉をかけていただいたり、学校と家庭や地域との交流の輪が広がっていったりした。そして、三学期の社会科学習での三世代座談会の成功へとつながった。

農文協食農教育2008年7月号

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