「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2008年9月号
 

食農教育 No.64 2008年9月号より

「昔のモノサシ」授業編

手をものさしにして測る算数の授業【一年生】

神奈川・茅ヶ崎市立円蔵小学校 岩瀬正幸

体をものさしにしてみよう

 「どちらがながい」という単元が、一年生の教科書にある。

 この授業の目標は、「長さの比較などを通して、長さの概念や測定についての理解の基礎となる経験を豊かにする」というものである。長さ、かさ(新指導要領では体積と書かれている)、重さなどの量の測定の指導には、次の四つの段階がある。

1. 直接比較 二つの大きさを直接比較する。AとBの長さを比較する場合、一方の端をそろえ、長短の判断をする。

2. 間接比較 紐などの媒介物を用いて長さを写しとり、間接的に比較する。

3. 任意単位による測定 測りたいものとは別のもののいくつ分という数値に表わして比較する。

4. 普遍単位による測定 全国(世界)で共通の普遍単位を使って比較する。

 一年生の段階では、(1)(2)(3)の測定活動を扱う。二年生になって(4)を扱うことになり、センチメートル単位を導入する。

 ここでは、(3)から(4)の段階への橋渡しをする、「体をものさしにする活動」の授業を提案してみたい(一年生の算数)。

手が何個分かで測る

 「それでは机の縦と横の長さを、最初にテープで測って比べてみよう」と、子どもたちに投げかけた。テープで測った後に、「自分の手や指で長い・短いということを比べることができるよ」と言う子が出てきた。

子ども1「筆が何個分という長さでも測れる」
子ども2「手で測ることもできるよ。手のひらを広げるとできる形で比べられる」

つまり、図1のように手で測ってみよう、と言うのである。

教師「どうして、そう考えたの」

子ども2「遊んでいたとき考えた」「教科書にも写真がのっているよ」

教師「しゃくとり虫を知っていますか。伸びたり縮んだりして歩く虫なんだけど、手でそんなしゃくとり虫の歩き方を真似できるかな」

子ども3「できるよ。やってみていいですか? 前に出てやってみる」

子どもたち「ほんとうだね。手で何個分というようにできるね」

教師「それでは、実際に手で長さが何個分か、やってみよう」

 このような子どもたちとの会話の後、親指と人差し指を広げた長さには、昔から「あた」という名前がついていることを教えた。

教室の中を「あた」で測る

 手のものさし=「あた」に子どもたちが興味をもったところで、教室の中のものが、手の何個分か測ってみようと提案した。子どもたちが測ったものは、次のようなものだった。

 水槽の縦横、黒板消し、ドアのガラスの縦横、教師用の机の縦と横、ロッカーの縦と横、給食の配膳台の縦と横、など。

 この中に、「一あた」のものがあった。例えば、子ども用のはさみは、「一あた」だった。これは、子どもが発見したものである。このことから、子ども用の道具は、子どもの手で使いやすいようにできていることがわかってきた。そこでさらに、「手で使う道具の長さは、『あた』と関係があるかもしれないね。調べてみよう」ともちかけた。

給食のお箸は「一あた半」

 手で使う道具として、子どもたちにとって身近な給食に出てくるお箸に注目させてみた。

教師「給食のお箸は、手の幅の『あた』で測ると、どのくらいの長さかな」
子ども4「手で使うものだから(あた)一つ分かも知れないよ」
子どもたち「やってみよう」「一つ分と半分くらいだ」
子ども5「一つと半分だよ」

 こうして、一年生の手に合わせたように、給食のお箸は「一あたと半分」の長さになっていることがわかってきた。

 実は、お箸は、子ども用も大人用も、手の「あた」一つと半分(=一あた半)が、使いやすい長さとして採用されているのである(当然、センチメートルで測れば、大人用が大きくなる)。以上のことを、子どもたちにも伝えた。

遊びながら学ぶ「あた」での計測

 お箸の授業の後、子どもたちは、自分たちで、いろいろなものを「あた」で測ってみたようだ。

 「家のお箸も『一あた半』だったよ」
 「電話の受話器は、大人の手の『一あた』だったよ」
 「子ども用のフォークは、子どもの手の『一あた』だった」
 「大人用は大人の手の『一あた半』だった」

というような報告をしてきた。なかには、折り紙で飛ぶカエルをつくってきた子がいて、その子はこんなことを言ってきた。

 「先生、かえるが四あた飛んだよ」

 その日から子どもたちの間に、カエルつくりが流行り、どの子もカエルをつくって競っていた。人差し指に乗るくらいのカエルをつくって、何「あた」飛んだのかを競うのだ。

両手を広げると「ひろ」になる

 こうして、「あた」で測ることに熱中した子どもたちは、今度は、運動場のいろいろなものを測りだした。子どもたちが、「あた」で測ったものは、次のようなものだった。

 円蔵小だけにしかないチタン製の朝礼台、ブランコの座るところ、シーソーの持つところ、雲梯の鉄棒の間隔、すべり台の一つの階段の長さ、などなどである。

 そこで、問題となったのは、長いものは手の「あた」で測るのは大変だから、何かいい方法がないかということだった。しかし、子どもたちは、すぐに両手を広げた長さがいいかも知れないと発見した。

 その、両手を広げた長さには、「ひろ」という名前がつけられていることを、子どもたちに伝えた。
身長と重なる「一ひろ」

 その後、身長測定の日には、子どもたち一人ひとりの「ひろ」も測ってみた。その結果は身長と「ひろ」の長さが、ぴったり一致した子どもが三人いた。測り方にも誤差があるのだが、ほとんどの子どもの身長が、「ひろ」と一cmから二cm以内の誤差しかなかったのには驚いた。けれども、子どもの中には、何度測っても、身長が「ひろ」より五cmも長い子どもがいて、みんなで不思議がった。

「あた」「ひろ」はユニバーサルデザイン

 このように、手で使う道具は、「あた」と「ひろ」という単位をもとにして設計すると使いやすいことが、最近、ものづくりの世界で注目されている。ユニバーサルデザインという考え方がそうである。「できるだけ多くの人が利用可能であるようなデザインにすること」が、ユニバーサルデザインの基本的な考え方である。デザインの対象を障がい者に限っていない点に特徴がある。将来、そのようなデザインに携わる子どもも当然いることであろう。そう考えると、「あた」「ひろ」という単位は、現代にも生かせるものさしだと言える。
(注)「あた」と「ひろ」について、詳しくは、「いまも生きる昔のモノサシ4」本誌二〇〇八年一月号を参照ください。

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