「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2009年1月号
 

食農教育 No.66 2009年1月号より

コンビニおにぎり Q&A

ごはんを水に入れると浮いてくる油はなんですか?

解説・鈴木修武
植物油の商品開発に長年携わる。2005年に(株)J-オイルミルズを退職し、鈴木修武技術士事務所を開設。
著書に『油の絵本』(農文協)など

ごはんが釜や機械に付着……

コンビニおにぎりのごはんのかけらを水に入れると、油が浮いてきた。油は添加物ではなく食品としての扱いで、全体の5%以下の使用量なら表示義務はない(アレルギー物質を除く)

 コンビニおにぎりが爆発的に売れだしたのは平成のはじめごろ。影の仕掛け人は、私を含めた元の会社の開発部隊と自負しています。

 おにぎりは、ベンダーといわれる食品工場でつくられます。製造工程は米の水洗⇒炊飯⇒ごはんのほぐし⇒おにぎり整形⇒包装。この工程で炊飯釜からごはんを搬出するときに粒が釜に付着し、作業員が一人ついて掻きとっていました。おにぎり整形機にもごはんが付着し、製品の歩留まりが低下。作業効率を高めるべく、当時の現場でも、米を洗ったあとにサラダ油を入れていたのですが、分散性が悪いために油が偏って油っぽくなり、風味が悪い。そのうえ、整形機に付着するので、作業がたびたび中断していたのです。

 分散性があり釜離れもよい新しいタイプの油は、およそ一〇年間温められた開発テーマでした。たびたびの実験も不成功に終わっていましたが、開発の担当者が替わり、ベンダーの炊飯装置がガス加熱であることに注目したのが最初の転機でした。それまで使っていた電気炊飯器は、火力が弱いため水と油の分散が悪く、試料として使ったさまざまな油の間に、優劣の差がでません。ガス炊飯器だと、分散する試料と分散しない試料に分かれ、必要な情報が得られるようになり、開発が軌道に乗りだしました。

 次に炊飯器のなかでの油の分散状態を調べる目的で、水分や油分を測定しました。しかし、水分の測定・分析に一日、油分に二日を要し、なかなか実験が前にすすみません。

 以前、私は赤や黄色に着色したドレッシングの開発と製造に携わっており、その経験からピーマンの赤黄の色素を油に添加することを思いつき、助言しました。着色した炊飯油を使えば、ガス炊飯器のなかでの油の分散状態が瞬時にわかります。開発のスピードは加速度的にすすみました。

炊飯油採用へむけての理論武装

 着色した炊飯油を使えば、採用する側であるベンダーの炊飯工場の担当者にも、炊飯油の分散効果と釜からのごはんの離型が一目瞭然です。開発部隊は、(1)米の性質、産地、銘柄、収穫年度、用途などの周辺情報、(2)炊飯装置におけるメーカー、処理量、用途別などの情報、(3)おにぎり整形機の情報を集めて理論武装をしたうえで、釜離れとおにぎり整形時における適正な使用量とおいしさ、油っぽさ、てりや色なども数値化してアピール。時間が経過しても水分の気散が少なく、硬くならない効果もあり、採用へとこぎつけました。

 その後のコンビニおにぎりの売れ行きはご存知のとおり。メーカーにとっては製造工程でのロスが大幅に改善され、低価格で安定した品質のおにぎりがつくれるようになりました。商品のバリエーションも一気に増え、平成のおにぎりブームとなったのです。

「田舎の本屋さん」のおすすめ本

 油の絵本』鈴木修武 編/宮崎秀人 絵

ジャッキと竹筒でナタネやゴマ、椿、ヒマワリ油を絞る。燃料、ロウソク、マーガリンにも挑戦。 [本を詳しく見る]

 おくむらあやおのごはん道楽!』奥村彪生

〈もち〉〈茶漬け〉〈汁かけ飯〉〈丼飯〉〈炊込み飯・混ぜ飯〉〈赤飯・おこわ〉〈ピラフ・炒飯〉〈特徴ある米を楽しむ料理〉〈すし〉〈おにぎり〉〈型抜き飯〉〈かゆ・雑炊〉の歴史・文化とともにレシピを解説する。 [本を詳しく見る]

 うかたま 8号 愛しの白いごはん 

鳴子の山の“山の米”/ニッポンのかてめし/こんな鍋で炊いてます/農家のお米/精米機くらべ [本を詳しく見る]

 

田舎の本屋さん 

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