「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2009年1月号
 

食農教育 No.66 2009年1月号より

コストかけずにおいしい給食

食材高騰を乗り切る工夫

食材の高騰が続き、学校給食の台所事情は厳しい。
でも、子どもたちには最高の給食を!
手づくり食、献立の見直し、米粉利用……。
ピンチをチャンスに変える給食現場の工夫を集めた。

ミスター国産給食! 江口栄養教諭のやりくり三ヵ条

編集部

 じわじわ続く食材高騰。相次ぐ食品偽装、食品事故問題で浮き彫りになった不安な食の姿。コストは抑えたいが、給食の質は落としたくない。

 限られた条件のなかで、安心できる給食をおいしく安くつくる工夫とは? そのモデルといえるような実践をしている杉並区・三谷小学校の栄養教諭江口敏幸さんを訪ねた。

 週におよそ二回、国産食材だけでつくる「国産給食の日」献立を実施している三谷小学校。

 すべて国産というとかなりコストが増えそうだが、価格差はこれまでの食材を使った場合と比べ、一食あたりたったの二・五円増。

 献立による差はあるが、全体的に小さな価格差に抑えられているのには、特別な秘訣があるのだろうか。
給食食材の値上がり状況を探り、江口さんのやりくり術に迫ってみた。


その一 安い魚を開拓

 「肉や魚を減らすよりもおもしろい」と江口さんがはまっているのが安い魚の開拓だ。東京の給食には滅多に出てこない魚を登場させている。

 その一つが気仙沼産のモウカサメ(ネズミザメ、三八頁も参照)。一kg九五〇円と安価な値段と味のよさにひかれ、これまでも数回使った。調理のコツは味噌焼きにしたり、下味をつけて揚げたりして臭みを消すこと。「おいしい」と子どもたちの評判もなかなか。

 カルシウム摂取のため、出すことの多い小魚類。代表はシシャモだが、国産だと一匹二〇〇円もする。そのため北陸で獲れるニギスをよく使う。姿がキスに似ているので“似ギス”というのだが、スズキ目のキスとは違うニギス目に分類される魚だ。地元の漁師が捨てるような魚だが、味はキスに似ており、磯辺揚げに合う。

 今、目をつけているのは北海道産のチカだ。一匹三〇円ほど。シシャモと見た目が似ており、頭から食べられるところがいい。

 ほかにもブリのかわりに一kg一四〇〇円のアカマンボウを使ったりと、安い魚の開拓に力を入れている。

 こうしたことができるのは、国産給食の実施にあたり協力してくれた業者の存在が大きい。魚にかぎらず、手ごろな価格の国産食材を見つけてきては、サンプルをもってきてくれる。そのサンプルを先生たちと実際に食べて、使用するかどうか決める。この試食も楽しみの一つだそう。

モウカサメの麦味噌焼きは「柔らかくておいしかった」「味噌だれが合っていました」と好評

その二 政府備蓄米の利用

850kg届いた備蓄米。かかった費用は10kg500円の輸送費のみ

 農水省が実施している政府備蓄米の無償交付制度。米飯給食を前年度より増やすと、その増加分の六割の備蓄米(前年以前の米)を無償でもらえるという。

 今年六月、杉並区が米飯給食を三回から四回に増やすと決定したことを受け、江口さんはさっそく給食会を通してこの制度に申請した。

 米飯給食は年に一六〇回で、一回に使う米の量は三〇kgほど。使用する米は一kg三一五円なので、米飯の年間予算は一五一万二〇〇〇円。備蓄米を使えばそのうち二六万四六〇〇円、一七・五%分浮くことになった。

 米飯が増えたことでもう一つよかったことがある。大きく値上がりした油や小麦粉、バターを使ったメニューが減り、和食が増えたことだ。ただ和食ばかりだと子どもたちが飽きてしまうので、洋風、中華風の和食献立を盛り込んで、変化をつけるようにしている。

その三 油、調味料は多めに購入

 食材のなかでも大幅に値上がりした油。今年二月まで使っていた外国産のひまわり油は、一斗缶(一八リットル)四八〇〇円から五九〇〇円に値上がりした。一方江口さんが使う米油は四七〇〇円から五五〇〇円に。業者によって多少違うが、米油の価格は外国産の植物油よりも安価に設定されている。

 油の値上がりを予想していた江口さん。値上がり前に多めに購入していたので油高騰の影響を受けなかった。むしろ外国産油を使っていた昨年より安くなったくらいだ。

 砂糖のてんさい糖は一kg二五〇円で購入していたが、三〇kg入りに替えた。一kgあたり二〇円安い。

 四月から国産に切り替えた醤油も同様だ。今のところ一升(一・八リットル)八五〇円で値上がりしていない。以前使っていたアメリカ産のものは三〇円上がり、五八五円になった。

 厳しい値上がりに直面しても、楽しみを見つけてやりくりしている江口さん。最近、地域の人の協力で校内の学級農園を整備した。これも食材高騰対策としてはじめたものだとか。「校内産給食の日」の構想も思い描いている。

値上がり前に多めに発注した調味料。4月から醤油も国産(埼玉産)に

「田舎の本屋さん」のおすすめ本

 食育活動 11号 どうする 食料高騰時代の学校給食

旬を活かした給食を支える食材の調達と献立づくり/地元商工会との連携からうまれたふるさとの味/緊急アンケート・食材費高騰を乗り切り地場産食材を活かす方法を探る/ほか。 [本を詳しく見る]

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