「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2009年7月号
 

食農教育 No.69 2009年7月号より

左から住友美紀先生(27歳)、今村千夏先生(27歳)、中村祐子先生(27歳)、久保仁美先生(24歳)、佐々木由佳先生(26歳)、吉田光宏先生(29歳)。ほかに、赤澤絵里子先生(29歳)、前島潤先生(41歳)も参加

若手先生たちの虫むし談義

虫嫌いが治った! よい学級ができた!

横浜市立馬場小学校

編集部

 五月十五日、横浜市の馬場小学校で、一風変わった校内研修が行なわれた。虫にくわしい研究主任の前島潤先生が講師となって、約一時間、全職員で校内にいる虫を探索(六頁)。若い女性の先生方も熱心に参加していて、聞けば、ふだんの授業でも積極的に虫を取り入れているとのこと。そこで、研修終了後、若い先生方にお集まりいただき、それぞれの虫とのかかわり方を語っていただいた。

クビキリギス 足の関節の感じとかが苦手だったけど……

赤澤(一年生担任) 去年、三年生の担任で、理科でモンシロチョウを飼いました。子どもは自らさわるんですが、自分は遠巻きで見ていて。自分がさわれるようになったら、初めて、「先生もさわれるんだね!」って、いろいろ話してくれるようになりました。

佐々木(算数・少人数指導担当) 一年生の担任のとき、「秋探し」で、学校のまわりや公園を歩きました。放課後、ある子が「バッタがいたよ」と虫を捕まえてきて、種類がわからなかったので前島先生に相談したら、クビキリギスだと。その子に教えてあげたら、すごく喜んでくれて、私も興味をもち始めました。図鑑を見ているうちに楽しくなって。何を食べるんだろうとインターネットで検索して、飼い方をその子にわかるようにひらがなに直して教えてあげたり。

 その子は、休み時間のたびに、クビキリギスがすみやすいように葉っぱや腐葉土を持ってきていました。そのうちに、友達も興味をもつようになって。結局、死んじゃったんですけど。

 長期休みのときは私が家で育てました。最初は足の関節の感じとか苦手で、さわれませんでした。お腹のふわっとした感じとか(笑)。でも、よく見ると、「顔のところが赤くなってるんだぁ。口のまわりにケチャップつけてるみたい」と。そんな発見から、かわいくなって、カツオブシやタマネギをエサにやったり、いつのまにか子ども以上に熱中していました。カナヘビもダメだったけど、今は手にのせることもできます。すると、「なに見てるの?」「なにがそんなにおもしろいの?」と、子どもが集まってきます。収拾がつかないくらい。

ナス科の害虫、ニジュウヤホシテントウを飼育中!

中村(六年生担任) 虫は好きではなかったですね。小さい頃は大丈夫でも、大人になるにつれ、「虫、やだな」と思うようになっていました。でも、子どもと一緒にあれこれやってるうちに楽しくなって、さわれるようになりました。今ではヤゴにアカムシをやるのも素手で大丈夫です。強くなったなと思います(笑)。いま、子どもたちとニジュウヤホシテントウを飼っています。

編集部 エッ!? ナス科の害虫をですか?

中村 そうなんです。子どもたちがジャガイモそっちのけで飼育をはじめてしまって、つぎつぎにエサとして葉っぱが供給されてくるんです。「どこから捕ってきたの?」ときくと、「ジャガイモ畑から」と。葉っぱがなくなるんじゃないかと冷や汗もんでした。で、知らないうちに卵を産んで増えていて、ブンブン飛びまわるんです。

編集部 教室のなかをですか!?

中村 はい(笑)。ちょうど全国一斉学力テストのときに飛びまくって(笑)。子どもにとって、飼育して産みつけられた卵は、自然のなかの卵とはちがうみたい。孵ったら、感動するし、育てたくなるみたいです。

編集部 子どもたちに害虫という意識は?

中村 ないみたいです。でも、最近ちょっと変わってきました。今日はちょうどジャガイモのヨウ素デンプン反応の実験だったのですが、子どもたちはふだん気にしていない葉っぱの穴を気にしてました。こんなに食べられてジャガイモは大丈夫なのかなと。デンプンを蓄えて栄養をつけようとするジャガイモの目線にもなってきたんでしょうか。このあと、どうなることやら……。

クビキリギス。ケチャップをつけたような口をしている(8頁参照)
ニジュウヤホシテントウの幼虫
成虫。ふつうテントウムシはアブラムシを食べる益虫だが、こちらはナスやジャガイモの葉を食害する、やっかいな害虫(テントウムシダマシともいわれる)。畑で見つけられると、ふつうはつぶされる

好きになったら、子どもに話したくなる

今村(三年生担任) 四月のはじめ、モンシロチョウのエサになるキャベツをプランターにはりきって植えました。でも、実際のところ、子どもも私もそんなに関心がなくて、なかなか卵がみつけられず、「マズイ」と感じていました。で、やっとひとつ卵を見つけて、キャベツの葉っぱごと、ぬれたティッシュの上にのせておいたんですが、土日のあいだに葉っぱがひからびて、卵もダメになってしまいました。そのあと、幼虫を一匹見つけて教室に連れてきたら、やっと子どもも少しずつ見るようになりました。

 ゴールデンウィーク中、世話係を決め忘れて、私が家にもち帰って世話をするハメになったんですが、そこで急に愛着がわいてきちゃいました。五日間、ずっと台所に置いて世話をしたら、どんどん大きくなってきたんです。

一同 ゴールデンウィークはずっと虫と!?

今村 はい(笑)。うれしくなって、子どもに「かわいいでしょ!かわいいでしょ!」と言っていたら、関心のある子が世話をはじめました。声かけがすごく大事だなと思いました。

編集部 押し付けがましく(笑)。

今村 はい(笑)。はじめの頃、「捕っておいで」「卵があるはずだから、捕ってきて」と言っていたときはダメでした。見つけられずに、あせっていくだけ。こないだ、キアゲハの幼虫を捕りに行ったのですが、授業では見つからなかった。でも、つぎの日、子どもたちがたくさん見つけてきてくれて、いま飼育中なんです。

前島(五年生担任・研究主任) 学校の田んぼのセリから、卵も幼虫も一匹もいなくなっていたよ。

今村 ええっ!? 戻してきたほうがいいでしょうか?

前島 大丈夫、大丈夫! また産みに来るから(笑)。

詳しくなくて当たり前、調べれば大丈夫

編集部 観察はどうしてますか?

今村 自分も知らないことばかりで、子どものほうがよく見ていると思います。アゲハの幼虫の口の形とか、くさいツノを出すとか、今日の授業ではじめて知りました。子どもから何か言われても「スゴイネー」とか「どうなんだろう? 先生にも教えてネー」という返し方しかできないんですが……。

前島 「教えて」って言えるのがいいよね。先生が教えちゃうと子どもは調べないし。先生だって、そんなにわかるわけないじゃん。ハムシとか、ゾウムシだけで一五〇〇種いるくらいだから、とてもじゃないけど、覚えられない。そんなに知らなくてもいいんじゃないかな。軽々しく種の判別もできないし。まあ、何年かやってれば、身の回りの虫については、だいたいわかってくるよ。

おとなしい子とも話すきっかけが増えた

吉田(四年生担任) ぼくは虫嫌いでも虫好きでもないですね。ただ、子どもはみんな虫が好きなので、知っていたいという気持ちはあります。去年、三年生の担任で、学校の近くの原っぱに虫を捕りに出かけたんですけど、子どもたちは麦わら帽子に虫かごという昭和スタイル。ずいぶん気合が入ってるんで「ヤバイ!」と思いました。最初はみんな夢中でバッタを追いかけたりしていたのですが、ある子がアゲハを見つけたらみんな集まってきて。子どもたちのいい表情の写真は撮れました……。まぁ、そのくらいのものなんですが、ある保護者から、「最近、子どもが虫さがしをするようになりました。ありがとうございました」と、お礼をいただいてしまいました。

 子どもたちは、「一緒に虫を飼いたい人、昼休み一緒に遊んでもいいです」とか、虫に名前をつけたり、虫で交流していますね。クラスが虫好きになってくると、おとなしい子が雨の中、虫とりに行ってたりして。虫のおかげで、そういう子と話すきっかけがもてたりもしています。

中村 知ってるとしゃべりたくなるし、知らないと調べたくなる。いい循環がつくれると思います。教えたいことが二とか三でも、一〇もってると深みが出る。虫もそのひとつかなと。算数でもヤゴを一人一匹飼っていると、ヤゴ一匹にアカムシ何匹というふうに問題文を変えちゃう。そうすると、子どもたちの興味のもち方が全然ちがってきますし。

教室を虫の墓場にしないために

校内研修でゲットしたペットボトル虫かごのなかの虫たちを見て盛り上がる先生たち

久保(二年生担任) 私はいまも虫が苦手ですね。でも、昼休み、子どもがダンゴムシをもってくるんです。給食の時間、トレーの脇に置いて、エサにパンをやったりしているのを、そっと見ています。なんとか、生活科で虫をとおして子どもたちとかかわっていきたいと思っています。今日の研修でペットボトル虫かごを教わったので、月曜日、子どもたちに教えてあげたいです。

住友(三年生担任) 自分も大人になって、虫はあまり好きではなくなっていたのですが、子どもをとおして虫好きになりました。一年生をもってたとき、子どもがカナヘビを連れてきて、「ヘビ!?」と思ったんですが、よく見るとかわいい。手にのせたり、ブローチみたいに胸につけたり、平気になってきて。虫については知らないことが多くて……。虫は奥が深いですね。いろいろ連れてきて、殺しちゃうんじゃなくて、ちゃんと育てられるようになりたいです。

久保 私もエサがわからずにうまく飼えなかったんです。お墓をつくって終わってしまって……。

前島 子どもたちが捕まえた虫を飼うと、たいてい最初は死なせてしまう。ある程度は仕方ないとして、そこで先生が見逃してしまうかどうかが、運命の分かれ目だよね。お墓つくっておしまいにしてたら、またもってきては死なせて……、と教室が虫の墓場になっちゃう。そういうところは、学級運営もうまくいっていないことが多い。

 そうじゃなくて、「なんで死んでしまったのかな?」「そのままでいいの?」「なに食べるか調べてみたら?」って問いかけられるかどうか。子どもはぜったいリベンジしたくなる。今度は発見した場所の植物をよく見たり、口の形を観察してなにを食べるか予想してみる。その上で、図鑑で調べてみて「やっぱり!」とか「えーっ、そうじゃないんだ!」とか。教科書を覚えるんじゃなくて、実物を見て、予想を立てて、調べて、自分で確認していく。そういう学び方が具体的にできるから、「虫はぜったいいい!」って思うわけ。

 算数で掛算を教えるから、教師は九九を熟知しなければならないように、理科で昆虫を教えるんだから、教師は最低限の身の回りの昆虫については知っておかなければならないと思う。ぼくの先輩は、「クビキリギスを知らなきゃ、横浜の教師とはいえない」とまで言ってるよ(笑)。



虫の口の形から、何がエサか予想してみよう

虫の記録に強い味方 デジカメを生かせ!

 虫は幼虫、成虫で大きく姿が変わる。エサや周囲の環境によっても、色や模様が変わったりする。すぐには種類の判別ができないものも多い。そんなわけで、こまめに記録に残しておくとおもしろい。そこで威力を発揮するのがデジカメ。マクロ撮影(接写)機能を使えば、小さな虫でも迫力のある写真を撮れる。画像を拡大して、細部を観察することも。A4サイズでプリントすれば授業で有効に使える。
 昆虫写真家も使用しているRICOHのGRデジタルの場合、約1.5cmまで接近して撮影したり、約2秒間に16枚連写することも可能だ。撮影した日時と場所を記録しておくと、あとでいろいろ調べるときに役立つ。

キイロスズメ(スズメガ)の幼虫。短い咬む口
オオトビサシガメ。針のように刺して吸う口
ウンモンスズメ(スズメガ)の成虫。ストローのような吸う口


「田舎の本屋さん」のおすすめ本

 庭にきた虫』佐藤信治

テントウムシ、アゲハ、セミ、カタツムリ、カマキリなど8種の虫たちの親子三代に渡る異色の観察記。子どもの目線でいのちの動きやドラマを鮮烈にとらえ、豊富なカラー写真を駆使、親子の臨場感あふれる会話体で綴る。 [本を詳しく見る]

田舎の本屋さん 

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