「総合的な時間」の総合誌
農文協
食農教育  
農文協食農教育2010年11月号
 

食農教育 No.77 2010年11月号より

麦をまこう

蔵王のおばあちゃん直伝!

麦芽あめづくり

 宮城県、蔵王町に、昔ながらの方法で麦芽あめをつくるおばあちゃんがいるという。
 麦の発芽パワーを使いこなす、その技をみせてもらった。

築200年! おばあちゃんの家(奥平穣士邸)は、暮らしの知恵の宝庫(岡本央撮影、以下も)

教材研究の師匠、奥平さき子さん(73歳)

 本誌でも、サツマイモの苗をつくるための「ダンボール温床」(二〇一〇年三月号)や、ペットボトル稲の根っこも生かす「切株人形」(同年五月号)など、ユニークな実践を次々と発表している、奥平大和先生(五〇歳)。

 奥平先生が毎年必ず、畑やプランター、ペットボトルを使ってそだてているのが「大麦」。冬には、なんと麦芽も手づくりして「あめ」をつくっているという。

 大麦を発芽させて、乾燥、粉砕した麦芽粉を、もち米と混ぜて保温する。すると、あら不思議。自然な甘味がかもし出され、その搾り汁を煮詰めると、「麦芽あめ」ができるのだ。

 「食育のネタもとは、ほとんど実家のお袋なんです、ハハハ。麦芽あめづくりも、ワラづと納豆も、コンニャクづくりも……」。
 と話す奥平先生の“お師匠さん”につくり方を実演していただいた。


麦芽をつくる

麦芽あめは、まさにスローフード。
まず、5〜6日かけて麦を発芽させることからはじまる。
大麦の発芽条件が整う秋から冬にかけての作業だ。


1.大麦を2日ほど水につけ、十分水を吸わせる(水は毎日入れ替える)


2.水きりして、タオルにくるみ、日当たりのよい場所におく


3.3〜4日たって、芽が3cmくらいになったらOK


4.芽がからみあっているので、手でもいでほぐし、天日に干す

麦芽あめの特徴

 麦芽あめは奈良時代からつくられてきた甘味料。麦芽糖(マルトース)という成分を含んでおり、砂糖と比べて甘味は劣るが、まろやかで自然な旨味がある。体の中でゆっくりと分解・吸収されるので、血糖値が急激に上がることもない。


これが大麦。麦芽のほか、香煎粉や麦茶(11頁)、押し麦、麦味噌などに使われる


麦芽あめをつくる

台所にある道具で簡単にできる。
縁側でのんびり待つ時間も、また楽しい。

【材料】 もち米…2.5合 ぬるま湯…750ml 麦芽粉…100g

工程1 もち米のデンプンを糖化


1.炊飯器でもち米を炊く


2.大和先生愛用の家庭用製粉機(*)で、麦芽を粉に


3.粉砕するとこんな感じ


4.炊きあがったもち米にぬるま湯を加え、60〜65℃で、麦芽粉を加える


5.容器にフタをして発泡スチロールの中に入れ、タオル、布団などで包んで保温


6.約4時間で、米粒の中のデンプンが糖化されて甘くなる。なめるとほんのり甘い

(*)家庭用製粉機「よめっこさん」…大和先生は、麦芽粉、香煎粉、きな粉、野草やドングリの粉づくりなどに使用。1万2000円程度なので、前任、現任校ともに公費で購入してもらった。もちろん、コーヒーミルやすり鉢、石臼でもOK

炊飯器でもできる!

 大和先生は、4〜6の工程を発泡スチロールでなく、炊飯器で行なう。放課後、保温にセットするだけなので、より簡単。翌朝1時間目の学級会や総合の時間で、搾ったり煮詰めたり。ストーブのある教室なら、上にのせておけば、授業中に甘い香りが漂ってきて、グッド!

「いまは発泡スチロールだけど、昔は正月用のもち米を何升も蒸したあとの、カマドの余熱で保温しでだ。残り火や余熱もムダにしなかったんだな」

工程2 あめ水を搾って煮詰める


7.ザルの上で軽く裏ごしするように、水気を搾る


8.おにぎりをつくるように、あめ水を搾る(一番搾り。搾ったあとのおにぎりに、お湯と新しい麦芽粉を混ぜて、同様に二番搾りをとることも可)


9.搾ったあめ水にも、多少カスが含まれるので、さらしの布でもう一度こす


10.アクをとりながら、あめ水が半分くらいになるまで煮詰める。火力にもよるが、約1時間かかった

どうして甘くなるの?

大和先生と娘さん(小6)

 大麦が発芽したときにでる消化酵素(アミラーゼ)によって、もち米のデンプンが分解されて甘くなる。ごはんを口の中でくちゃくちゃ食べていると、唾液に含まれるアミラーゼによって、ごはんが甘くなるのと同じ原理。

 大根おろしにもアミラーゼが含まれるので、麦芽を大根おろしに変えてもできる。また、米と同じく、サツマイモもデンプンを含むので、もち米をサツマイモに変えてもOK。


麦芽あめをつかう

とろーりとなるまで煮詰めたら焼きもちをいれてからめよう。
宮城県のお正月料理、あめもちができる。

あめもちをいただきます!


きな粉をまぶしたあめもちは、もち米と大麦(田んぼの裏作)、大豆(田の畦で栽培)のハーモニー。田んぼの恵みがまるごと詰まったおもちなのだ

麦芽あめ こんなおやつにもピッタリ


温め直してはあめもちを食べているうちに、だんだん麦芽あめが濃くなって水あめのように固くなる。そうなったら、きな粉を混ぜ合わせてあめ玉をつくったり、砂糖の替わりにして大学芋をつくったりもできる


「1年生のとき、家でお父さんがはじめて麦芽あめをつくってくれました。お父さんには『おいしい!』って言ったけど、心のなかでは『なにこれ!? まずい!』って思った。そのころ、ドーナッツとかゼリーとかばっかり食べてたから。でも、最近はニキビとかができて、冬に干し柿とかリンゴとかばっかり食べてたら、ニキビも少なくなって、あめもちも、すっごくおいしいと感じるようになりました!」(娘さん)


番外編 香煎粉と麦茶をつくる!

香煎粉

大麦からつくる簡単おやつ。西のほうでは「はったい粉」と呼ばれる

つくり方

中火で、粒がパチッパチッとはじけるまで煎る

粉にして、ふるいで殻をとりのぞき、砂糖と塩(かくし味)を混ぜて食べる。水を適量加えて食べやすくしてもよい


麦茶

深煎りすると、香ばしい香りが部屋中に漂う。
秋冬でも温かくしておいしくいただける

つくり方

茶色くなるまで煎る。煎った麦をティーパックに入れて、お湯で煮だす

本物のストロー(麦ワラ)で、麦茶をいただく


製粉所に聞きました! 本格麦茶づくり

砂といっしょに麦を煎ると、砂の圧力と遠赤外線効果で、大麦が勢いよくはじける。最近は砂窯ではなく、クリーン焙煎と称して熱風で煎る工場が多いそうだが、やはり、砂で煎ったほうが、じっくりと熱が入る

麦ストローでシャボン玉!


麦ワラのことを英語で「ストロー」という。プラスチックのものが主流になる前は麦のストローが実際に使われていた


「田舎の本屋さん」のおすすめ本

この記事の掲載号
食農教育 2010年11月号(No77)

◆ムギをまこう!育てやすくて食べて楽しい◆地元の旬を使いきる"食材ありき"の給食献立 ほか。 [本を詳しく見る]

 麦わらの絵本

生活用具から伝統工芸まで、暮らしの中でさまざまに使われていた麦わら。裂いて貼って絵葉書や宝箱、編んで束ねて馬や人形、コースターや指輪に大変身!艶やかな金色に輝く伝統の麦わら細工、麦わら帽子にも挑戦だ。 [本を詳しく見る]

田舎の本屋さん 

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