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第10回 子どもの「動き」を撮る

 デジタルコンパクトカメラの最も苦手とするものが、「動き」がある被写体の撮影である。
 最近の機種のなかには、「ある程度」激しい動きに対応できるオートフォーカスのものもある。しかし多くの機種は、残念ながら小学生の徒競走程度のスピードにも対応できないことが多い。
 かといって突然デジタル一眼レフを購入するというのはかなり勇気が必要になる。
 本格的な撮影ではないけれど、かっこいい写真を写す方法を2つのパターンで解説する。

※画像をクリックすると拡大表示します。

■パターン1 動きを「流し撮り」する

下の写真をご覧いただきたい。元気よくかけてゆく子どもの写真だ。画面全体が流れているように撮影されており、「流し撮り」と呼ぶ。動きをピタッと止めて撮影するよりも、流し撮りのほうが被写体の動いている感じ(動感)を表現しやすい。


コツ1 本題の写真をしっかり撮る

やり方としては、デジカメの撮影モードを「S」モード(シャッタースピード優先AE:機種によっては「Tv」モードとも)にセットして、なるべく遅いシャッタースピードに設定(お手元の取扱い説明書を参照)すること。コンパクトタイプのデジカメで、シャッタースピードが遅くならないときはあきらめるしかない。このへんがコンパクトデジカメの限界である。

撮影協力
原島農園 http://www.yokaocha.com


撮影方法は簡単(でもないが)である。子どもの動きを追いかけるようにカメラを動かしながらシャッターを切るだけ。このとき、カメラのセットを右のように切り替えるとうまくいく。

徒競走などの撮影のばあい、30分の1秒以下のシャッター速度にすると、たやすく流し撮りをすることができる。シャッタースピードを遅くすると、それだけたくさんの光を取り込むことになるので、光が比較的少ない朝夕が流し撮りのチャンスといえる。

コツ2 被写体の進行方向を空ける

再び最初の写真をご覧いただきたい。女の子がカメラの右手から左手に向かってかけていっている。多くの素人写真がダサいのは、被写体を真ん中に配置してしまうからだ。動きを表現するためには、被写体の進行方向に空間をつくるとうまくいくのだ。

ズームもあまり高倍率にしないで、なるべくワイド側に設定したほうが被写体の動きを捉えやすい。高倍率ズームでの流し撮りは、かなりのコツと練習が必要になるし、コンパクトタイプのデジカメでは不可能に近いだろう。


コツ3 ファインダーを使う

ファインダーのついているタイプのデジカメで流し撮りをする場合、液晶モニターは使わないこと。必ず目でのぞく「ファインダー」を使うことも、大きなコツのひとつ。

液晶のモニターを使って流し撮りすると、ただでさえブレやすいのにもっとブレることになる。流し撮りは横方向へのみのブレであり、縦方向へのブレではない。

また、参考までだが、デジカメのなかでは液晶モニターが一番電池を食う。ここ一番のときに電池切れというのはよくあることだ。可能な限り液晶モニターを使って撮影してはいけない。液晶モニターは撮影画像を確認するためにあるのだ。


■パターン2 動きを切り取る

次に、激しく動き回る子どもの一瞬の動きをカチッと切り取る写真。動きを止めるには、ISO感度(カメラが一度に取り入れられる光の量)を上げてシャッタースピードを早くすることだ(お手元の取扱い説明書を参照)。ただし、ISOを800以上に設定すると、粒子が荒れて汚い画面になるので、ISOの最高感度は400と覚えておくとよい。


コツ4 次の動きを予測する

下の2つの写真をご覧いただきたい。結論からいうと、このシチュエーションにおいては、上が失敗写真で、下が正解。さて、どうしてでしょう?

子どもの手が切れている。このシチュエーションでは手が切れちゃいけない。激しい動きを切り取るにはかなり練習しなくちゃいけないのは当たり前。
教師がその指導の成果や過程を記録するのは、じつはプロのカメラマンよりもずっと有利なのだ。なぜか? 教師がふりつけをしているのだから、次の動きが予測できるからだ。
次の動きを予想するのが、動きのあるものを撮影するコツである。
子どもの全身がきっちりと入っていて、正解。で、見たらわかるけれども、着地のとき髪の毛がふわっと浮き上がる。これが子どもの動きのすばやさを強調するので、見逃しちゃいけないのだけれども、難しい。とくにコンパクトタイプのデジカメはAF(オートフォーカス)も遅いし、タイムラグといってシャッターボタンを押してから実際にシャッターが切れるまでの時間もかかる。
とにかく数を打つしかないわけだ。

コツ5 視線の方向をあける

普通の人間は、動いていくほうに視線を向けるものだ。あるいは、集中しているほうに視線を向ける。
特殊な訓練を積んだり、人を欺こうとするときにこの反対をやる。Jリーグの試合ではしばしばこういうのが見られる。たとえば、PK(ペナルティーキック)のときは、キッカーの視線方向だけ読んでいたのでは、キーパーとしては失格だそうだ。
キッカーは視線と反対方向に蹴ることが多いからだそうで。だからといってその反対に蹴らないかというとそんなこともなく。
つまり、腹の探り合いなんだそうだ。
とはいえ、人間の視線方向に空間をつくると、画面に動きが出る。つまり、空間が空いているほうに進んでゆくような感じに写せる。
写真を見る人が、その場にいるように感じさせられるかどうかが、勝負どころである。


コツ6 一部を切り取る

写真はどこを見せたいのかというのが勝負。ナニを見せたいのかというのがきちんと伝わらない写真はつまらない。 思い切って、伝えたい部分以外をバッサリ切り取ってしまおう。

これは、まあ標準の写真。可もなく不可もなく、破綻していない。そこそこ安定しており、行政改革なんぞ強行して、どんどん公務員の首を切るのだなどということとは無縁の世界である。それはそれで暮らしやすいことではある。
標準ではあるが、弱い。どこかよそごとで、いわゆる工事現場の証拠写真のよう。だからなんなのだというのが伝わりにくい。
左手の先端も切れているし、被写体ブレを起こしていていまいちピントがはっきりしない。
けれども、こっちのほうがなんだか現場の臨場感とか、子どもの真剣さが伝わってくると思わない?
もっと切ってみた。思い切って部分だけにしちゃうという手もあるのだ。躍動感とか、元気とか、楽しさとかは、全体を写してもなかなか表現できない。ファインダーからはみ出すくらいに写してちょうどいい。
瞬間の出来事だからかなり撮影は難しいけれど、どんどん挑戦していただきたい。こういうときはピンともブレも気にしなくていい。どんどん行きましょう。

コツ7 ピントは目、または象徴的な動きの先へ

AF(オートフォーカス)になってからピンボケが少なくなったのかというと、じつは増えたのだ。デジカメ写真は悪いことに、パソコンのモニターででっかくしてみられるし、A4サイズに手軽にプリントできるようになった。これまでの「サービスサイズ」ではまったく気にならなかった、「ピンボケ」が顕在化してきちゃったわけだ。
ピントの基本は目に合わせることである。もしくは、象徴的な動きの先である。


動きのあるものは動いているように流し撮りすればいいんだけれども、やはり、バシッと動きを止めて、「もう勘弁してください」というくらいピントが合っている写真には、写真ならではの快感がある。

くり返しになるが、動きを止めるには、ISO感度を上げて早いシャッターを切るしか手立てはない。ISOの最高感度は400としよう。

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