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農文協トップ主張 1998年5月号

転作ダイズの地元味噌を、
地域の全世帯に届けよう

――味噌は日本人の原点――

目次
◆味噌に吹く風
◆タマさんがつくる350kgの味噌
◆味噌を届けることは米を届けることなのだ
◆地元の味は農家でなければわからない
◆地域においしい味噌を届けよう

 昨年より176,000ha増えた98年の転作割当面積。今年は、増えた分の2〜3割に当たる50,000haにダイズが作付けされると予測され(JA)、6年ぶりにダイズの作付け面積が100,000haを上回りそうだ、と伝えられている。  この画期を活かしたい。地元でとれたダイズを加工し、それを地元に届けることで、地域の未来が拓けると思うからである。

◆味噌に吹く風

 味噌に対する風向きが変わってきた。  かつて、食生活改善運動のなかで、高血圧を引き起こす食品として、含まれる塩分の多さを指摘され、米とともにその消費が減っていた味噌が、ここ数年、その消費量(生産量)を徐々に伸ばし続けているのである。  平成7年 540,772t  平成8年 542,785t  平成9年 545,683t (食糧庁加工食品課「生産動態調査」)  これは、全国味噌工業協同組合に参加しているメーカーの生産量であって、農家自身の自家消費分、あるいは今月号の特集にあるような農産加工所などでつくる地場流通分の味噌は入っていない。  味噌はかつての高塩分食品のマイナスイメージを払拭し、お湯に溶くだけでできる味噌汁の手軽さ、ミネラルもビタミンも酵素も含有した味噌の健康的なイメージ、そして味の差別化・高級化が、味噌全体の消費を伸ばし始めたのである。  しかし一方で、味噌消費の増加を素直に喜べないのもまた事実なのである。それは、市販の味噌に使われているダイズの九八・五%が輸入されたものだからである。中国産ダイズが70数%を占め、20%強がアメリカやカナダ産、国産はわずか1.5%に過ぎない。使用量で見てみよう。味噌加工用に使われるダイズが160,000t強。国産大豆はそのうちの3,000tにも満たない。使おうにもダイズがないのである。市場への国産大豆の出回り量は50,000〜60,000tあるが、煮豆用や豆腐用などに使われた残りとなると、味噌用にはそれだけしか回ってこないのだという。  日本のダイズはタンパク質が多く含まれ、しかもデンプンが多いのが特徴である。このタンパク質やデンプンが味噌の発酵過程で分解されて、風味豊かな味噌を醸し出すと言われている。それだけではない。日本のダイズは「マメの煮えやすさ」にも優れている。煮えやすいほど煮汁に養分が逃げず、しかも短時間で煮上がるからタンパク質の変成が少ない。このことも国産ダイズ味噌の風味の良さを生み出していると言われてきた。しかし、これまでは、使いたくとも、肝心の国産ダイズが手に入らないというのが現状だったのである。  このようにすぐれた日本のダイズでつくった味噌を、どうすれば消費者に届けることができるのか、今月はそこのところを考えてみたい。

◆タマさんがつくる350kgの味噌

 六三頁に紹介した栃木県の戸川タマさん。今年、古希を迎える。体もきつくなってきたから、もうそろそろ味噌つくりもやめようかなと思う。それでも、今年もまた100kgのダイズで味噌を仕込んでしまった。納屋に置かれた5、6本の四斗樽の中には、仕込んだばかりの350kgの味噌が今年の秋の出番を待っている。これから秋まで、仕込んだ味噌にかびが生えないように、上下をかきまぜながら熟成させていく。タマさんの仕事である。  タマさんの家は5人家族。ちょっと前まで農業だけで生計を立ててきた。もちろん、米をつくり、ダイズもつくっていたのだが、息子さんが勤めに出ることになって、ダイズの栽培から手を引いたのである。だから、今、タマさんがつくる味噌は、米は自家産だがダイズは購入したものだ。しかし、ダイズをつくらなくなっても、タマさんは、味噌つくりをやめようとは思わなかった。地元のダイズを購入して、仕込みだけをむらの加工所にお願いして以前の味の味噌をつくりつづけたのである。それも、350kgも。  タマさんの家族が1年間使う味噌の量はおおよそ60kgだという。とすれば、ダイズは20kgもあれば十分なのに、なぜ毎年ダイズ100kgも使って350kgもの味噌を仕込むのか? 残りの290kgの味噌はどこへいくのか?
 「兄弟が多いんです。暮れに泊まりに来たりするときも、やっぱり朝昼晩と、季節の野菜をたっぷり入れた味噌汁は欠かせないでしょう。そうしたら、みんなおいしいおいしいと言っておかわりして、帰るときにはお土産も味噌。お土産に渡した味噌が切れると、『また送って!』と催促されるようになりましてね。『買ったお味噌は食べられない』なんて言われると、やめられなくなってしまって」
 送ってもらうほうも、今年もタマさんが味噌を仕込んでくれたかどうか気になって仕方がない。帰省したときに、さりげなく聞いてみる。「今年も仕込んだの?」
 地元のダイズと米だけでつくった混じり気なしの味噌に、みなお礼を惜しまない。でも、タマさんは、こうじに使った自分のうちの米の代金と、購入した大豆の代金など、最低限の費用しか受け取らない。親戚や友人たちのボランティアみたいなものだ、と笑う。
 こうして、タマさんがつくった350kgの味噌のうち、自分のところで使う分を除いた残り290kgは、「タマさんの味噌でなくては」と待ちこがれる親戚や友人たちの食卓に懐かしい味をのせて届けられる。おそらくは10軒を上回る人たちの台所の安心を、タマさんは預かっていることになる。味噌はこのように、家族の暮らしの土台として、ある。

◆味噌を届けることは米を届けることなのだ

 篠塚守さん(54歳)は4年前に勤めを辞めて専業農家になった。そのとき、年をとってから田も畑も大きな面積をこなせなくなったときのことを考えて味噌つくりを始めることにした(66頁参照)。味噌を選んだキッカケは、自分の家でつくっていた味噌がなくなったときに買った市販の味噌がちっともおいしくなかったからである。
 自分の家でつくった味噌はおいしいのに、なぜ市販の味噌はおいしくなかったのか。何冊もの本を読んでわかったことが、自分の味噌は「生きている」ということであった。ダイズとこうじと塩以外には何も加えず、加熱もしない自分の味噌の中には乳酸菌や酵母菌などたくさんの菌が生きており、どうもその菌が味噌のおいしさを生み出しているらしいということだった。さらには、おいしいだけではないこともわかってきた。体に取り入れれば、その菌たちが腸内の有用菌をふやして、体の免疫機能を高めてくれる。
 こうじに使う米は自家産の無農薬米だし、ダイズも近くの知り合いが減反田につくったものだ。塩にもこだわっている。市販の味噌よりおいしいのは当たり前なのだ。市販品があの味で売れるのなら、自分がつくった味噌は絶対に売れる、そう確信したという。
 篠塚さんの味噌は、普通の味噌とちょっと違っている。ダイズよりこうじのほうが多いのだ。ダイズ3に対してこうじ4。無農薬米でつくったこうじが、そのこうじ菌によってダイズを分解し、ダイズの旨味を引き出してくれる。篠塚さんにとって、「味噌を販売することは、ダイズと一緒に米を売っていること」なのだ。
 篠塚さんはその味噌を、それまで米を直売してきたお客さんにも届ける。味噌に加えたこうじの米、それにふつうのご飯用の米、篠塚さんの米の販売は倍に増える。しかも、菌が生き生きと活動している篠塚さんの味噌は、おいしいだけでなく、お客さんに健康を届けていることにもなる。味噌がおいしければ食が進まないわけはない。おいしい味噌が主食としての米も引き立てて、いっそうその消費を伸ばしていく。

◆地元の味は農家でなければわからない

 「私たち流通業者は、これまで安いもの安いもの、何でもそろっているお店を、と追求してきました。しかし、それでは生き残れない時代になりました。スーパーも中身を変えなければなりません」
 栃木県北に2軒のスーパーを構えるミマス屋の商品開発本部長藤原さんは、新しいコンセプトのもとに事業展開を開始した(62頁)。行き着いたのが、実にシンプルな結論だった。
 「そこでとれたものを、そこで食べるのが一番うまい。店にはその品物を並べればいい、という当たり前のことでした。この地域の土のことがわかり、作物の育ちがわかり、長年同じものを食べても飽きのこない味と加工の技を知っているのが農家の人たちですから、その人たちに教えてもらえばよかったのです。私たちは地元のスーパーです。この土地で暮らしている人たちがお客さんですから、この土地で一番口のこえている農家の人たちの味を届ければよいと思ったのです」
 藤原さんは、地元のダイズと米で真正直に味噌をつくるお母さんグループに、味噌の加工をお願いした。お母さんたちがつくってきたようにつくってください。それでいいのです、お母さんたちが納得のいく味だったらそれでいいのです、とお願いした。地元の材料で地元の味なんだから、地元で暮らす普通の人たちが買える程度の値段にした。味噌の名前は「那須名産品 地元素材使用 天然味噌」。1kg680円。スーパーの目玉商品として客寄せに並べられる1kg200円程度の味噌がいい方には、他のお店で買ってくださいとお話しするしかない、とも言う。
 「この味噌の良さがわかった人は、次からは必ず同じ味噌を買っていかれます」
 食べることへのこだわり、生活者の意識が変わったのだ。藤原さんは自分の眼に狂いはなかったという。
 農家の人たちがつくった味噌を、大メーカーに対抗して全国に流通させようというわけではない。藤原さんはお母さんたちに、もっと自信を持ち、その地域のおいしい食べ方をもっと積極的に伝えてもらいたいと思う。
 昭和初期の日常の食とその背景を聞き書きによって丹念に採集した『日本の食生活全集』には、その土地の食べ方が料理の仕方とともに紹介されている(注)。ダイズは、日本人の食を支えてきた基本的な食べ物であり、ダイズとともにある食生活こそ、健康のみなもとであることが知れる。味噌が創り出していた豊かな世界を、お母さんたちの手づくり味噌といっしょに消費者に届けたい。

◆地域においしい味噌を届けよう

 平成九年、味噌消費量は、全国平均で一世帯当たり一年間に8.867kgであったと報告されている(総務庁統計局「家庭調査年報」)。この数字には、単身者や農林漁業に従事する世帯は含まれていない。また、味噌を自分でつくっている人も除外してある。
 細かく見ると、大都市の場合は7.3kg、町村部で10.1kg。これが1世帯3.9人の1年間の味噌の消費量。先に紹介したタマさんの5人家族が1年間に60kg近い味噌を消費しているのに比べるといかにも少ない。タマさんの家族1人分が、大都会の1世帯の消費量をはるかに上回っている。
 こうした消費者に地元の味噌を届けることで、国産ダイズの味噌の消費は伸びていく。
 もし届けられた味噌がおいしくて、それまで朝食のときだけしか食べていなかった味噌汁を、夕食のときにも食べてもらえるようになったとしよう。味噌の消費量はすぐに2倍に増える。さらに、味噌を使ったおいしい食べ方や調理法を伝えてあげれば、さらに消費量は伸びるはずである。そんなちょっとしたことで、味噌の消費量は2倍、3倍と増えていく。もちろん米の消費量も増えていく。
 味噌用として使われている外国産ダイズを国産ダイズに置き換えるだけで、ダイズは確実に15万t以上不足する。ダイズ150,000tといえば、10a当たり200kgの収量をあげたとして、75,000haのダイズの作付けが必要になる。
 地元産のダイズがおいしい味噌に変わり、その味噌の食べ方が豊かになって一家族当たり60kgの味噌を消費するようになると、味噌用だけでさらに約7倍、520,000ha以上のダイズ畑が必要になるのである。
 ダイズの加工利用は味噌だけではない。豆腐もある、納豆もある、醤油もある、煮豆もある、黄粉もある。豆腐の国産ダイズ自給率3.5%、納豆も3.6%に過ぎない。それも国産ダイズに置き換えようとしたら、とても栽培面積が足りない。
 今年こそしっかりとダイズをつくり、良質のダイズを多収しよう。収穫できたダイズは、お母さんたちの力を借りておいしい地元味噌に加工して、地域の全世帯に届けよう。
 そのためには、農協や町村の行政にも協力してもらわなくてはならない。一つは、味噌加工のための施設や機械の援助、二つ目は体力が必要なダイズとこうじの仕込みに、元気なお母さんやおばあさんたちの力を借りることができる仕組みつくりである。そうした援助さえあれば、タマさんのように、古希を迎えてもみんなに感謝されながら味噌つくりの腕をふるうことができる。しかも、送った味噌を通じて地元に健康を届けることができるのだ。
 味噌には追い風が吹いている。
(農文協論説委員会)

(注)『日本の食生活全集』(全50巻)はこれからの地域の暮らしを、健康に、環境豊かに形成し、消費者がのぞむ新しい直売を起こすヒントに満ちている。全巻揃いで145,000円。地域を選んで料理素材で検索したり、料理名で検索したりする場合に大変便利なのが、『CD-ROM版 日本の食生活全集』だ。全巻の内容・写真すべてが一枚のCD-ROMに収められており、パソコン画面上で自由自在に検索でき、表示できる(Windows3.1以上に対応)。定価一二万円。いずれも農文協刊。


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