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農文協トップ主張 1998年8月号

防除を変えれば暮らしの空間が変わる
――農作業、食べ物、健康、教育の全体がよくなる

目次
◆農作業を楽しくする地域資源活用の“手づくり防除資材”
◆防除を変えれば朝市・産直が栄える
◆防除を変えれば、農業と子ども・学校が結びつく、子どもが元気になる
◆防除を変えていのちを養う文化・物産を生み出している農家の事例を地域の共有情報に

 病害虫の防除の急速な変革が始まっている。農薬を中心にした防除で生産力を上げられる時代が終焉したという事情もあるが、それだけではない。土着菌や土着天敵や米ヌカ、はては雑草まで、地域の生物資源を生かす新しい農業の経営と技術、つまり、自分の田畑や身体に合わせた農業を創り出そうという取り組みが防除の変革の動きを支えている。それが地域にもたらす意味について考えてみたい。

◆農作業を楽しくする地域資源活用の
“手づくり防除資材”

 ほんの数年前までは、予防剤と治療剤、特効的な効きめを持つ切り札剤の三種類の農薬を、病害虫の抵抗性がつかないように、リサージェンスを起こさせないようにローテーションで使う、というのが防除指導の基本形であった。ところが現在進み始めた防除の基本形は、昆虫はもちろん、微生物や植物、雑草までも含めた耕地空間全体の防除力を高めようという方向だ。生物バランスを整え、豊かにする。それらの力を借りて、防除もするし、土つくりもして病害虫の発生を抑えようというものである。そこでは、経費の安い自給資材が重要な役割を果たすのも大きな特徴である。例を見よう。
 米ヌカは農家が地域で自給でき、どこにでもある資材である。この米ヌカは土着菌を繁殖させる力が非常に強い。この性質を利用して防除に生かす工夫がここ数年盛んである。
 福島県の薄上秀男さんは六月号で「菌体防除」のすすめを書いている。米ヌカを野菜の上から散布すると、葉面で乳酸菌などの土着の微生物が繁殖してpHを変化させ、病害を防除できるというものだ。
 また、今年は各地で米ヌカ施用による田んぼの除草が試され、地域にあった方法が模索されている。岡山農試でも確認されているように、イネの活着後に田の表面に手散布または流し込み施用された米ヌカは、表面の微生物を大いに動かし、その結果、雑草は生えることができなくなるというものである。この仕組みについては農業技術大系「作物編」の中で岡山農試の河原祐志氏も触れている。もちろん米ヌカは除草だけに働くのではない。『おいしいお米の栽培指針』の著者である中国農試の堀野俊郎氏は、七月号で「米ヌカ100kg稲作」を提案、「元肥に米ヌカ100kgをやったイネは、出穂期にpHが急激に下がり、完熟期には茎葉が澄んだオレンジ色になって熟れる。」つまり水田土壌が酸性になってMg/K(カリに対するマグネシウムの量)が高まり、うまい米が獲れるというわけである。自給的な資材は防除にも効くが土つくりにも働くという総合力を持っている。
 今月号の268ページで、熊本県のミカンをつくる中本弘昭さんは、自分でつくる魚腸木酢のすばらしい効果を述べておられる。何より変わったのが味だが、また、安い経費で自作したこの木酢液をたっぷりかけることで、中本さんの園は防除が大きく減ってしまった。肥料代も減り、樹についていたコケもなくなり、しかも、今年の生理落果が激しい中で着花が多いくらいである。新鮮な魚のアラ5kgを15kgの木酢に漬けておくだけの魚腸木酢のすばらしい効果だ。
 防除そのものでは、土着天敵を生かした防除が注目である。ここでは畑のまわりに天敵の住居になる野草帯なり作物をつくるなど周囲の耕地環境が大きな役割を果たす。キャベツの難害虫コナガを抑えるコモリグモなどにはクローバが住居になるというし、転作ナスのミナミキイロアザミウマを食べるヒメハナカメムシには、畦のクローバとともに、周囲の減農薬イナ作田が天敵の住居として欠かせない(6月号)。サツマイモの根茎を食い荒らすコガネムシには緑肥作物でもあるクロタラリアで周囲を囲い、それにウィンズパック(フェロモン剤)を組み合わせるなどの多様な方法が編み出されている。
 雑草は一般には防除対象だ。しかし、愛知県の水口文夫さんは、雑草を緑肥として利用してしまおうと発想の大転換をした。そして除草剤ではなく尿素をふったのである。種子を買う必要もない、播く必要もない雑草を緑肥にしたのである。それによって作物がすみやすい、排水のよい団粒構造をつくらせているのである。堆肥施用区とソルゴーすき込み区と雑草(メヒシバ)すき込み区でカリフラワーの生育を比べたら、メヒシバ区が一番生育がよかったという(7月号)。
 土壌消毒もすでに一般化したサンヒュームやDD等によるガス消毒にかわって、センチュウ対抗緑肥や太陽熱消毒など土つくりを兼ねた方法を選択する農家が増えてきた。
 こうして、天敵、雑草、土壌微生物など生きとし生けるものすべての相互作用の中でバランスが保たれ、特定の病害虫だけが多発する状態を抑える空間ができあがる。防除を変えることは土つくりを変えることである。土着菌によるボカシ肥で除草剤なしのイネつくりをしている福島県の藤田忠内さんは「農業に肥料づくりというこんな楽しい仕事があったのか」と驚いている。
 こうした防除の変革は、農作業の苦労を減らすだけにはとどまらない。

◆防除を変えれば朝市・産直が栄える

 産直・朝市・直売所は、売らんかな主義の品揃えのところや農家らしい出品物が少ないところは次第に初期の輝きを失い退潮していく。お客さんは村の暮らしから生み出されるもののおいしさ、安心、季節感、文化の総体を求めてやってくる。産直では食べものはそれ自身がメッセージであり、情報であり、文化なのである。たとえば高齢者が選択する品目には、自分の健康のためにもなり食べてもらえる人に喜ばれるものが多い。儲けが先にあるのではなく、食べたいもの食べさせたいものが先にあり、儲けは後からついてくる性格のものである。
 産直は農家と消費者とが「働きかけ働きかけられる」相互交流の関係にあることが流通上の特徴である。直売所を始めた農家は、野菜などをできるだけ年中切らさずに出荷できるように心がける。田畑をつくりまわし、山の幸、川の幸、野の幸なども添えて、昔からの食べものと新しい食べ物・品種などを組み合わせて届けたいと思う。そして「おいしい」「日持ちがよくて傷まない」「料理のレパートリーが増えた」などの消費者の声に励まされて、さらにつくり方・食べ方に工夫を凝らすようになる。
 「土着菌は竹林や雑木林にモミガラをこぼしておき、一年ほどしてから増殖したものを採取するなど試みています。果菜類では収穫を長続きさせるよう、うねの中に稲ワラと土着菌でつくったボカシを交互に入れ、天恵緑汁とミネラル液をたっぷりかけ、乾燥しないように二雨くらい打たせてからマルチをします。この方法で今年のナスやピーマンは、ものすごくスタミナがあり、収穫期間が例年の倍続いています」(長崎県・木場義博さん)
 「我が家には、畑がないので2haの水田の3分の2でアイガモ水稲同時作をして、残り3分の1を畑にしています。3年間野菜をつくったら、田に戻す田畑輪換方式です。今まで水田であったところを畑にすると、ナメクジなどの害や、水田雑草と畑雑草は種類が違うので雑草も少なくなります。連作障害もありません。いくら無農薬でつくっても、味がよくなければ、魅力は半減します。味は、天候やつくり方のほかに品種に左右されます。一般市場向けの品種は「見かけ」「そろい」「日持ち」「大きさ」「色」「甘さ」を優先させます。しかし、私は、近くの熱心な種物屋さんに相談して、味のよい、つくりやすい品種を教えていただいています。土壌消毒も行なわず接ぎ木もしない私の栽培法では耐病性が高いことが不可欠だからです。たとえばトマトでも、雨が降っても裂果しない、青枯れもしにくい品種を導入しています」(福岡県・古野隆雄さん)
 消費者とのただならぬ関係が農家の土や生物自然とのつきあい方を変える、逆に農家の自然とのつきあい方が消費者とのつきあいを変え深めるのである。防除の変革は村を千客万来の農村空間に変えていく。

◆防除を変えれば、農業と子ども・学校が
結びつく、子どもが元気になる

 今までの防除の作業体系は年寄りと女性、そして子どもなど身体的弱者を排除する方向に働いていた。とても危険で防除の場にいてもらっては困るのである。それどころか自分自身、防除した畑にはしばらく行きたくないという農家の声を頻繁に耳にするようになった。よく、最近の子どもは農業のお手伝いはしないし、親は親で手伝わせるということをしないという非難じみたことが言われる。しかし、今の農業は子どもを手伝わせないようなシステムになってしまった。子どもの出番のない農業である。
 茨城県の平沢静夫さんは、地元の川根小学校に“ゲストティーチャー”として招かれた。いわゆる「社会人先生」である。そこでの授業内容は「低農薬」「天然肥料」「古代米」などで、自分の経験に『現代農業』の記事に出ていることを加味して行なわれたという。今、文部省が推進している社会人先生にもっともふさわしいのは農家ではないだろうか。7月に創刊される季刊誌『食農教育』(800円、農文協刊)で文部省の富岡生涯学習局長は次のように述べている。
 「食と農は具体物を通して大変豊かな教育活動を、あらゆる教科に展開できる題材です。モデル校ばかりでなく、全国津々浦々で授業の時間に田んぼに行く。地域の農家の方に米づくりの基本について話してもらう。そこから日本の農業、環境、健康、さらには道徳や文化の教育につなげることができます。ですから食や農を単なる農業の勉強ととらえるから狭くなるのであって、広い学習活動の糸口としてとらえる。新しい指導要領で導入される『総合的な学習』の時間だけではなく、理科、社会、国語、算数、保健その他あらゆる教科教育や道徳教育、特別活動の題材として生かすことができると思います。『創意工夫のある学校づくり』ということがよくいわれますが、端的に学校の特色がでるテーマが食と農だと思うのです」
 農家が自分と地域の未来を創るために取り組んでいる防除を変える活動は、地域を理解し、自然の成り立ちを学び、消費者と農家の交流を学ぶなどの教育素材に満ちていて、そのままが教育の内容になる時代である。
 神奈川県でミニトマトをつくる石井政幸さんは、マルハナバチを生かしながら防除ができないものか思案していたとき、メーカーから天敵農薬の試験のさそいの話がきた。農薬の防除では難しいオンシツコナジラミとハモグリバエの天敵の試用であった。市内のスーパーと契約栽培している政幸さんにとって、味が濃く食べごたえのあって、安心も伝えられるトマトつくりは必要だ。受精して種をしっかりもったトマトのためには交配の役割をしてくれるマルハナバチが必要だし、ハチにいつでも飛んでいてもらうためには、防除は天敵資材でやりたい。
 天敵に働いてもらう農業をしていると「いつどこでどんなふうに」虫が出るのか、じつにいろんなことが見えてくる。暖房機のそばや風通しの悪いハウスの四隅の樹によく出るとか、温度によって飛ぶ高さが違うとか、害虫の出かたや習性を見て防除の対策を立てるように変わった。しかも不思議なことに、ミニトマトは忙しいという常識をひっくり返すようなゆとりをうむ農業に変わってきたという。
 市内の今宿小学校に通う息子の政輝君は、お父さんに言わせると「うちの政輝は農業なんてなんにも手伝わないよ。野球に行っているか、テレビゲームばっかりだ」ということなのだが、子どもの観察眼にはビックリしたり、感激したりである。政輝君が3年生のときの夏休みの自由研究で「ミニトマトにつくわるい虫」を作成した。お父さんもお母さんも、政輝君が描きあげた精巧な虫の絵を見て「こんな格好してるのか」と感激した。トマトのプロとはいいながら、害虫をここまでじっくりと見たことなどなかったからである。4年生ではマルハナバチをテーマに取り上げ、担任の先生からは「ハチがトマトを育てるのに役立っているのをはじめてしりました。石井君の家ではハチは大事なはたらき手ですね。よく調べられました」との評価をいただいた。
 こんな経過もあって、石井さんの地域の小学校ではここ数年、三年生の社会科「農家を訪ねよう」の授業で、きまって石井さんの家を訪ねるようになった。石井さんは、防除に天敵を使うやり方に今、意を強くしている。「親のほうにも新たな発見がある」からでもあるが「地域の子どもたちや学校の先生が農業について理解してくれること」を期待するからでもある。
 今までは、暦どおりの防除であったり、見つけるとすぐにあらゆる農薬をかけていた。「あれなら効く」「こいつはどうだ」とばかりに、強い薬、新しい薬をバンバンかけてきた。しかし、おいしいトマトを安心して食べてもらうために、これまでだったらまく薬をまかないで、我慢して様子を見てみた。作物を見、虫の発生を見、天敵に働いてもらいと、ハウスの生きものと対話交流しながらの農業は、知らぬ間に子どもたちや学校にとっての学習園になっていたのである。
 各地で進む防除の変革は、全国で社会人先生と自然農業学習園を創り出しているのである。

◆防除を変えていのちを養う文化・物産を生み出している農家の事例を地域の共有情報に

 以上のように防除の変革は農業生産の基幹的担い手にとって避けて通ることのできない重要な課題というばかりではない。人間が自然とともに生きる空間形成、暮らしの環境づくりにとって決定的な意味を持っている。農村空間を、そこに住む老若男女すべての人々が関われる生活の場にしていくことにこそ意味がある。防除変革の担い手は高齢者や女性だからである。経済効率から切り捨てられてきたり、価値がないものとされてきたものが、今は逆に大きな意味を持つ時代になった。根本的な発想転換が必要な時代になったのである。
 「組合員がつくったものだったら、どんなものでも、どんな少ないものでも、農協が責任を持って販売します。物置の片隅で芽を出している馬鈴薯、ネギ坊主が満開になったネギ畑……市場に出すには中途半端だし、自家用には多すぎる……私たちのまわりを見渡すと、せっかく生産しながら無駄になっている生産物がたくさんあります。“小さなものでもみんなまとめて大きくしたら”というのが一括販売の発想です」
 という触れ込みでスタートした横浜南農協の活動、「一括販売」が地域農業の起死回生策と言えるまでに成長してきている(増刊『現代農業』5月号)。開始した平成4年は20名だった参加者が、平成九年度は450名と22倍になった。販売高では200万円足らずから五億円にと250倍に成長した。
 この大きな成長の背景にあるものは、それまでの常識では嘆きの対象になっていた小規模農業、高齢者農業、女性農業を、嘆きの対象としてではなく、その本来の元気と実力を備えた人々として位置づけて役割を発揮してもらっていることである。専業=優等生、第二種兼業=劣等生というような従来の考え方を捨て、劣等生ばかりが増えてという嘆きを捨て、「年齢や性別にこだわらず、今いる担い手は、すべて担い手である」と現状を見つめ直したことが巨大な成長につながったのである。
 21世紀への唯一の展望を切り拓くものとして、どの団体でも情報化が急がれているが、そこで基軸にすえられなければならないのは、小規模農業、高齢者農業、そして女性農業を励ます情報である。また農業高校、養護学校、小中学校での地域学習に役立つ食と農の情報である。高齢者・女性が防除変革に取り組む実践情報が地域と教育を結びつけ、地域を活性化させる。
(農文協論説委員会)
 『現代農業』で防除の変革につながる先進的な経験の発掘に努めているのはもちろんだが、この夏には農業総覧『病害虫防除・資材編』が装いを一新する。これまでの10巻の編成に1巻『土着天敵・天敵資材』の巻がつけ加わる。現段階でわかっている、さまざまな作物の害虫に対する天敵を紹介するとともに、その天敵に影響しない農薬の一覧を天敵ごとに紹介する。また、その天敵を自分のところで増殖していざというときに使えるようにすることも目的として「飼育・増殖法」についても情報を結集する。これらはすでに刊行されている『CD-ROM病害虫の診断と防除』にもバージョンアップ時に収録される。


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