主張
ルーラルネットへ ルーラル電子図書館 食と農 学習の広場 田舎の本屋さん
農文協トップ主張 2000年11月号

ダイズは地域づくりの起爆剤

――ダイズでつくる農・商・工のネットワーク

目次
◆「健康」と「安全性」で強まる国産・地場産志向
◆地場産ダイズの手づくり豆腐は、なぜおいしいか
◆味噌がもつ、食の教育力
◆味噌は、地域の食文化と地域農業を守る
◆ダイズ加工で「米ヌカ農法」がパワーアップ
◆ダイズは農・商・工のネットワークづくりの起爆剤
◆十月に開かれる「国際大豆加工利用会議」の大きな意義

 コメは豊作の見通し、ダイズも「本作」1年目に入ってさらに作付が増え、収量も好調を伝えられる。20世紀の最後の年に、コメは豊作となり、自給率わずか3.5%のダイズの作付面積が増加に向かったことを率直に喜びたい。

 輸入圧力が強まり、豊作を率直に喜べない状況が確かにある。といって、「輸入制限」を求めても、現実的には無理である。どうするか。

 豊作を機に地域での加工を推進することである。これによって、日常の生産・生活文化を創造していく。ダイズに焦点をあてて、この点を考えてみたい。

 ダイズには、都市民を巻き込んで生産・生活文化を創造する大きなパワーが秘められている。このダイズのパワーを生かすか殺すかで、21世紀の農業・農村は大きく変わってくる。

「健康」と「安全性」で強まる国産・地場産志向

 まず、ダイズの食べものとしてのパワーに注目してみる。

 ダイズは、良質なタンパク質や脂質を含み、さらに、(悪玉)コレステロールを低下させて循環系疾患を予防する成分や、体内で生ずる活性酸素(ガンの引き金になる)を消去したり骨粗しょう症を防止する成分が含まれており、「生活習慣病」を防ぎ、高齢化社会を健康に生きるための代表的な健康食品としての評価が定着している。これに発酵が加わると、さらに新たな価値が生まれる。たとえば、納豆にはビタミンKが他の発酵食品の数百倍も含まれていて、これが骨の形成に重要な働きをしているという最新の研究が話題を呼んでいる。また納豆菌がつくる「ナットウキナーゼ」には、血栓を溶解する作用があり、血栓症の予防に役立つという。こうした機能性が注目され、納豆の消費量は年々増加し、ここ3年間連続して2桁の伸びを示している。納豆をあまり食べなかった関西地方でも消費が拡大している(注1)

 そして「健康」への期待は「安全性」への関心を強める。ダイズが日常的な健康食品であればこそ、「遺伝子組み換え」問題に象徴されるように、消費者の「安全性」へのこだわりの度合いが大きくなる。その結果、消費者は国産・地場産志向に向かうことになる。

 この志向はますます強まるし、強めなければならないが、「有機ダイズ」や遺伝子組み換えではないことを強調したダイズの輸入によって、その志向がゆがむおそれもある。

 そこで、ダイズのもうひう一つのパワーに注目したい。国産・地場産の加工品は、「おいしさ」で「差別化」しやすいことだ。その象徴として、豆腐をみてみよう。

地場産ダイズの手づくり豆腐は、なぜおいしいか

 豆腐の1世帯当たり年間購入量は80丁ぐらいで頭打ち状態だが、この一番の理由は、「昔のような手づくりのおいしい豆腐が少なくなったこと」にあると、山形市で豆腐店を経営する仁藤斉さんはいう。脂質には富んでいても、ほんものの豆腐が求める糖分やタンパク質が、国産ものより劣るアメリカ産ダイズを用い、化学的な凝固剤を使う量産豆腐が、豆腐離れをおこしているというのだ。糖分やタンパク質が劣るアメリカ産で豆腐をつくると歩留りが悪く、昔ながらのにがりを使っていては、割にあわない。そこで、化学的な凝固剤を使い、本来なら固まらない部分まで固めて豆腐にする(注2)

 そんな水っぽい「スーパー豆腐」が、日本の豆腐の大半を占めている。だから、地場産ダイズを使った手づくり豆腐は、必ずファンをつくる。以下は、そんな一例である。

 宮城県角田市の商工会のメンバーは、今年の3月から、農業と商工業の地域連携による「手作り豆腐セット」の販売を始めた。地元の減農薬ダイズ600g(豆腐4丁分)に豆腐をつくる木箱、こし布、敷布、天然にがりにレシピを組み合わせた2500円のセットは、5カ月で2500セットを販売。ダイズ(1袋300g、250円)の追加注文も1000件以上あるという。贈答用にまとめて注文する人もいる。学校から豆腐づくりの実演の依頼も舞い込んできた。予想以上の反響だ。

 「手作りがこんなにおいしいなんて知らなかった」「国産だとこんなに風味がちがうのか」、そんな声が続々と届いている。商工会メンバーは試食の「うまさ」で取組みへの気持が盛り上がったが、市民も同じように「うまさ」を実感したのである(注3)

 この「うまさ」はなぜだろう。年輩者はよく「昔の豆腐はうまかった」という。この理由について、「それは、素人がつくったからなんです」と、先の仁藤さんは興味深い指摘をしている。

 「戦後の混乱期に戦地から引き揚げてきた人が、生活のために小規模の豆腐屋を始めるケースが多かったそうで、彼らは豆腐づくりの素人。しっかりと固まるようににがりと原料大豆をたくさん使ったので、それが結果として硬くておいしい豆腐を生み出していたのです」

 そのうえ、地場産なら、原料の新鮮さが加わる。国産ものでも問屋を通すと、秋に収穫されたものが検査や入札などを経て、やっと4月から5月中旬に流通するのが普通で、この間にタンパク質が酸化した傷んだダイズになってしまうことが多い。地場産で、かつ低温貯蔵すれば、それだけで豆腐は「差別化」できる。原料代を反映させて通常の2倍の値段をつけても十分売れる。

 しかも、豆腐づくりは生産設備にそれほどお金をかけなくてもよく、加工も比較的簡単である。地元の消費者だけでなく、地域の学校や病院など、「健康」と「安全性」と「おいしさ」で販路もつくりやすい。豆腐は、地場産ダイズと地元住民をつなぐ大きな力をもっている。

 自分たちでつくるだけでなく、地元の豆腐屋さんと提携する方法もある。

 10年前に5万軒あった町の豆腐屋さんは、今では1万5千軒に減った。角田市でも、かつては15軒あった豆腐屋さんが1軒になってしまったが、この豆腐屋さんも「手作り豆腐セット」の取組みに参加し、今後は地場産ダイズの豆腐を販売していく意向だ。74ページで紹介した三重県嬉野市の野瀬商店のように、低下する店の売上げを打開するために、地元の生産者と一緒になって地場産豆腐の製造・販売に取組む豆腐屋さんも各地ででてきた。豆腐屋さんとの連携で、地元産ダイズの販路を大きく拡大する可能性は十分にある。

味噌がもつ、食の教育力

 もっとも、「おいしさ」といっても、事情は複雑である。特に現代の都会での食生活は、単なる「おいしさ」ではなく、一方で味の不変を求め、一方で新しく珍しい味を求めている。「おいしいもの」とは何かが、はっきりしなくなってもいる。その一方で、味が一定で変わらないことを求める。しかし、味の不変に応えることは、農産物の本質からいって無理だし、「差別化」もそれだけでは、やがて魅力を失う。いまや、ただやみくもに、「消費者ニースに応える」のではなく、生産の側から「消費者教育」をしなければならない時代になった。ここでもダイズは大きなパワー発揮する。その象徴に、味噌がある。

 島根県の山村、弥栄村の(有)やさか共同農場は、転作ダイズを活用した味噌加工に取り組んでいる。「やさか味噌」の加工・販売が本格化したのは昭和54年からで、関西を中心に消費者への直売ルートを開発してきた。この味噌産直のパイプを太くするのに役立ってきたのが、消費者への手づくり味噌講習会である。毎年2月になると、地元ダイスに地元コシヒカリという「やさか味噌」の材料を持ち込んで講習会を開く。15年続けてきて、「自家製の味噌が一番おいしい。やさか味噌は2番目」という手づくり味噌のファンが増えてきた。そんなつきあいがもとになって消費者が消費者を広げ、いまでは年商1億2000万円になっている(注4)。味噌がつくるつながりは持続性が強い。

 以上は都会の消費者への働きかけであるが、「消費者教育」を考える時、まずは地元の中・小都市に目をむけたい。地方の食生活はまだ、大都会のような不思議さを持っていない。だから、地域の個性的な食べもののよさを伝えやすい。農家の、地域での加工によって、全国1率の、大企業による不変の味を排除する。地域ごとの可変の味、味の個性が、食べものを消費する人々の心の奥底を揺り動かす。味噌は、そんな農家の味、地域の味を伝える、代表的な食べものである。

味噌は、地域の食文化と地域農業を守る

 味噌の力を自分の経営と地域農業に生かそうという、加工業者もいる。以下は、大分みそ協業組合の吉田常茂工場長から伺った話である。

 業界では、味噌の消費は頭打ち状態で徐々に減っていくと悲観的な見通しがあるが、その中で残っていける味噌づくりとは何かと吉田さんが考えて得た結論が、九州の味、地域の味を大切にし、地元の原料でつくった味噌を地元の人に届けることだ。

 大分にはハダカムギを使った麦味噌の伝統がある。しかし、ハダカムギの作付けはすっかり減り、1992年の生産はわずか24トンにまでおちた。県内産のハダカムギで今の味噌生産を維持するには3000トンのムギが必要だ。そこで、吉田さんは県と一緒になって県の奨励品種「イチバンボシ」の作付けを増やすことに奮闘してきた。自身も1トン5万円の農業振興資金を出した。その結果、現在2000トンまでのめどがたったという。

 しかし、イチバンボシが最高のものではないという。吉田さんがめざすのは、ミシマハダカ、サヌキハダカなどの地元の伝統品種による味噌づくりと、その域内消費である。吉田さんは地域の伝統的な味噌の復活にむけ、女性グループによる味噌づくりの支援にも力を入れている。その地域で伝承されてきた味を復活し次代につなげていくなかで、地元の味噌屋も生きていけるという。

 味噌は「伝承される味覚」を担う重要な食品であり、そのベースがあって季節季節にとれる地域の素材が生かされる。地域の味噌、地域の味覚を守り引き継ぐことは、地域の素材を生かした食生活を守り、引き継ぐことであり、それが地域の農業と環境を守ることにもつながっていく。

ダイズ加工で「米ヌカ農法」がパワーアップ

 以上、食べものとしてのダイズのパワーをみてきたが、ダイズのパワーにもう一つ付け加えたいことがある。それは、ダイズが循環型農法のための価値ある肥料を提供してくれることだ。

 ダイズをつくればクズダイズがでる。豆腐をつくればオカラがでるし、豆を煮れば煮汁がでる。そして、これらはすべて、「米ヌカ農法」の大変強力な武器になるのである。コメの産直で米ヌカを利用しやくなったように、ダイズの作付けが増え、地域での加工が盛んになると、クズダイスや加工廃棄物が利用しやすくなる。これと米ヌカの発酵力を組み合わせれば、「有機農業」の条件が格段に大きくなる。

 タンパク質が豊富なクズダイズは、微生物に分解されて豊富なアミノ酸を供給し、作物の食味や糖度を高める効果は大変大きい。水田に米ヌカと一緒にやれば除草効果も肥料効果も高まる。生のクズダイズを元肥に150〜200キロ施し、ほとんど肥料代なしでイネをつくっている農家もいる。オカラもボカシ肥の格好の素材だ。腐りやすいオカラは、米ヌカを混ぜていったん発酵させておけば、長持ちする。ダイズの煮汁はタンパクなどが多く、米ヌカに煮汁を混ぜると使いやすく効果が高い米ヌカペレットができると、栃木県の稲葉光圀さん(民間稲作研究所)はいう。

 かつて水田には畦まめがつくられた。そして今、水田にダイズをつくり、加工することで、田んぼを豊かにすることができる。

ダイズは農・商・工のネットワークづくりの起爆剤

 田畑を豊かにし、消費者との結びつきを強める。そんなダイズが、商工業と結びつく時、そのパワーは一層大きくなる。ダイズは農と商工業の新しい結びつきの原動力になり、農・商・工のネットワークが、ダイズをパワーアップする。

 先の角田市では、「手作り豆腐セット」の木枠は市内の木工所が角田産の杉材でつくり、木綿は地元の呉服屋から仕入れ、こし布と敷布は地元の洋裁店がつくり、女性陣が試作を重ねてつくったレシピは地元の業者が印刷した。こうして農・商・工のネットワークが地域を活気づける。角田市では、この取組みを契機に「角田の良い地場産品を育てる会」が発足し、手作り豆腐セットだけでなく、町づくりのためのさまざまな事業を展開しようとしている。

 秋田県大潟村の芹田省1さんは、転作を利用した加工ネットワークづくりに取り組んでいる。芹田さんの水田は20ヘクタールだが、これだけ面積があっても経営の見通しが立たない。こうして加工を考えたわけだが、労力の面、設備投資の面、そして何より加工の技術を習得するためにさく時間がとれない。そこで思いついたのが、食品加工業者の力を借りることであった。

 現在、芹田さんの加工ネットワークには千葉県のもち、長野の醤油、青森の納豆、秋田のきな粉、長野の豆菓子加工と6つの業者が参加し、これに自家製粉する石臼小麦粉やおかあさんがつくる漬物、さらには農家の仲間から仕入れる梅干しやアイスクリームなども加わり、これらの製品はこれまで米の産直で結びついてきた消費者に届けられる。「農家と同じ志をもった食品加工の業者さんはたくさんおられるんだと思います」と芹田さんはいう(注5)

 伝統ある日常的な加工食品の素材であり、多数の中小企業や商店が関わるダイズは、農・商・工のネットワークづくり、循環型社会づくりの大きな起爆剤になりうる。

十月に開かれる「国際大豆加工利用会議」の大きな意義

 ダイズのパワーをどう生かすかが問われる「本作」1年目の今年10月、日本で「新しい大豆時代の夜明け」をキャッチフレーズとして「第三回 国際大豆加工利用会議」が開かれる。会議は4年ごとに開催され、第一回は中国、第二回はタイで行なわれた。

 この会議では研究者・技術者による8つの分科会とともに、会議の組織・運営委員会と農文協の共催で公開講座「アジアの奇蹟 大豆発酵食品」が開かれる。吉田集而氏(国立民族博物館)の「大豆食品の起源と伝播」に始まり、中国、タイ、インドネシア、インドの研究者が、それぞれの地域の伝統的発酵食品の歴史や利用されている微生物の多様性、食品としての価値や機能性について報告する。

 中国では戦国から秦・漢時代にかけてダイズが主食になっていたと史書に記録されている。日本の納豆の源流とされる豆(ドゥツー)や豆腐も古くからつくられた。アジアには、納豆、キネマ、テンペなど、ダイズとカビの出合いから生まれる多様な発酵食品がある。この公開講座は、アジアの各地の風土に根ざし、地域の微生物を巧みに利用してきた大豆発酵食品の歴史、共通性と異質性、そして現代的な価値を交流・議論する画期的な取組みだ。地域の課題を浮き彫りにする国際会議なのである。

 あわせて、農文協主催で「大豆加工で拓く21世紀型の産業おこし―農業の六次産業化が転作を定着させ、地域をつくる」というセミナーが開かれる。ここでは、手作りの豆腐を村内の消費者、学校・病院・直売所・スーパーに届け、また種子の無料配布でダイズの栽培を広げている、長野県「北御牧村味の研究会」(注6)の小林敬子さんが基調講演を行ない、先に紹介した、加工ネットワークづくりに取り組む秋田県大潟村の芹田さん、青ダイズを利用した3色豆腐などの新しい商品開発を進めている秋山美展氏(秋田県総合食品研究所)が、ダイス加工の地域での展開にむけてコメントを行なう。「国際戦略商品」としてではなく、地域の農業と食文化を豊かにするダイズの生かし方を深める全国交流会である(注7)

 ダイズのパワーを生かすか殺すかで、21世紀の農業・農村は大きく変わってくる。

(農文協論説委員会)

   引用・参考文献(いずれも農文協刊)
注1 「食品加工総覧」(5)「納豆」(渡辺杉夫)233ページ〜
注2 仁藤 斎「食品加工シリーズ(4) 豆腐」1600円
注3 本誌今月号 56ページ
注4 「食品加工総覧」(6)の味噌の事例で紹介(今年10月発行)
注5 農業技術大系・作物編(8)「水田の多面的利用」の事例編
注6 「食品加工総覧」(5)「豆腐」の事例で紹介(203ページ)
*(注7)国際大豆加工利用会議の公開講座、併催セミナーはだれでも参加できます。申込法は377ページをごらんください

(農文協論説委員会)


ページのトップへ


お問い合わせは まで
事務局:社団法人 農山漁村文化協会
〒107-8668 東京都港区赤坂7-6-1

2000 Rural Culture Association (c)
All Rights Reserved