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農文協トップ主張 2003年6月号

「改正農薬取締法」施行のなかで迎えた
だれでもできる減農薬の時代

目次
◆法案の議論のなかで得た二つの成果
◆「おいしさ」こそ、消費者も喜ぶ「安全の証明」
◆「酢」で病気が減る、作物がおいしくなる
◆酢で作物のダイエット
◆野菜類共通の農薬を上手に使いこなす
◆減農薬にむけた小力的な「環境づくり」

法案の議論のなかで得た二つの成果

 今年3月、改正農薬取締法がスタートした。昨年の「無登録農薬」の摘発に端を発し、アレヨアレヨという間に、農薬の使用法までを罰則対象にする法律がつくられた。そのため、いろんな不安や疑問も生まれたのだが、ふり返ってみると二つの大きな成果があった。

 一つは農薬の登録拡大が農家・生産者主導で進んだことである。この間、農家・生産者側は、登録が少ない、あるいはないマイナー作物や、ハウスのウドンコ病に効果的な硫黄燻蒸などについて登録拡大を求め、本誌でもその必要性を主張してきた。その結果、マイナー作物のグループ分けによって一定の適用拡大が実現し、「野菜類」共通や「花卉類」共通に使える農薬も増えた。それでも困る場合は、県の責任で使える農薬を確保する経過(特例)措置も設けられた。農家の実情や要望を背景に行政が動いたわけだが、これまでメーカー主導で、メーカーの経営的な都合に左右されながら進められてきた農薬登録が、農家・生産者主導で行なわれたのである。まだ不足している作物もあるが、この間の成果を生かして、農家の力で農薬を整備していきたい。

 こうして「使える農薬」が増えたからといって農薬使用量が増えるわけではない。使いたい農薬を吟味しながら的確な使い方を検討していく、このことは減農薬の大きな力になるはずだ。

 もう一つは「特定農薬」をめぐる動きである。特定農薬は、「その原材料に照らし農作物等、人畜及び水産動植物に害を及ぼすおそれがないことが明らかなものとして農林水産大臣及び環境大臣が指定する農薬」だが、農水省が募集した『「特定農薬」に関連する農林業資材の情報』に対し、募集期間が短期間だったにもかかわらず2900件ほどの情報が寄せられた。木酢など、今、利用している防除資材が「特定農薬」からはずれ、「無登録農薬」にされてはかなわないという不安があったからだが、その一方では「農家が自ら積み重ねてきた工夫をなぜ『許可』してもらわなければならないのか」という農家の強い反発が生まれた。そんな現場の声におされ、農水省は、木酢やその他の自然農薬について、防除を目的とした場合も含め、「農家(使用者)の自己責任において、使用することができる」という見解を打ち出した。「自己責任」おおいにけっこう。「効果が不明」などの理由で「特定農薬」に入らなかったため、行政やJAの一部で木酢利用を控える動きもあるが、農家はより効果的で安全な利用法の工夫を重ねながら、農業の基本資材として木酢利用を前進させている。

 改正農薬取締法を契機に、まだ不満があるにせよ「使える農薬」が増え、一方で木酢などの自然素材を生かした防除資材の広がりと実績が浮き彫りになった。加えて、防虫ネットなどの物理的防除手段や天敵利用など、重要なことはわかっていても、「農薬ですむから」とこれまでなかなか進まなかった耕種的な防除手段への着目が急速に進んでいる。

 減農薬の条件は大きく開けた。特定の農家によるこだわりの「減農薬・無農薬」ではなく、地域のだれもが行なう減農薬の時代に入ったのである。

「おいしさ」こそ、消費者も喜ぶ「安全の証明」

 農家が減農薬を求めるのは、まず、自分の健康のためである。「食の安全性」というけれど、農薬の健康への悪影響を一番受けるのは農家であり、農家に比べれば、消費者への農薬による健康被害は無視できるほどに小さい。そのうえ、高齢化が進み、農産物価格が低迷するなかで、農薬散布の手間と経費を減らすことが切実な課題になっている。農薬散布の記帳も大事ではあろうが、細かな農薬使用のチェックより、農薬の総量を大幅に減らせる地域の減農薬技術を確立していくことが何より求められているのだ。

 農家が健康に元気で農業を続けるための減農薬であり、ここには減農薬を付加価値にして高く売ろうという発想はない。そして「ふつうの消費者」も、出回っている農産物は農薬で「汚染」されていてだから減農薬・無農薬を求めている、ということでもないようだ。

 佐賀県果樹試験場の田代暢哉氏が、おもしろい調査をしている。研究室で苦労して栽培した減農薬・有機栽培の温州ミカンを大手スーパーの店頭で過去2カ年にわたって販売した。価格を他の商材の1〜3割高に設定、外観もそこそこきれいで、飛ぶように売れることを期待していたのだが、そうはいかなかった。「使っている農薬は化学合成農薬ではない」とか、「化学肥料は使わずに…」と詳しく説明したにもかかわらず、である。消費者はそんなことにはあまり興味がないようで、「農薬の多少なんて気にしませんよ」という声が圧倒的に多く聞かれた、という。「結局、スーパーに来る消費者は『おいしくて安い』ものを一番好むように思われる」と、田代氏は述べている(本号206ページ)。

 輸入農産物への不安はあっても、地元産、国産への安心感は揺らいでいない。厚生労働省による年間10万件以上の農薬残留検査の結果も、農薬が「食の安全性」を脅かしているという実態はないとしている。一方、各地の直売所でも、「農薬を何回かけたか」といったお客とのやりとりはほとんどないようだ。直売所では新鮮さ、おしいさ、価格の手軽さがうけ、「顔の見える関係」から生まれる安心感が支配的で、「安全の証明」の必要性はないようなのである。

 農薬云々より大事なのは、「おいしさ」のようだ。そして、おいしさは、健康な生育から生まれる。石灰や苦土などのミネラルが不足し、チッソばかりが優先して吸収され、作物体内の硝酸がだぶついた作物は病害虫にかかりやすいうえに、おいしくない。硝酸が多い野菜はガンの引き金になるという話もあり、「おいしさ」のほうが、説得力があって消費者も喜ぶ「安全の証明」になるだろう。

「酢」で病気が減る、作物がおいしくなる

 作物が健康に育ち、おいしいものができれば、農家はうれしい。農薬も減り助かる。作物が病弱に育ち、農薬でなんとか病気を防いでいる状態では、「食の安全性」以前に、農家が苦労するし、楽しくない。

 楽しい減農薬はまず、病害虫がでにくい作物の体質づくりから始まる。これには、施肥や土つくりも関係するが、防除の基本資材としてますます注目されているのが木酢、モミ酢(モミガラ燻炭の酢)、米酢、柿酢などの「酢」である。「酢防除」に取り組んでいる農家は、病虫害が減るだけでなく、作物がおいしくなると口を揃えていう。農薬とちがって、酢は「おいしさ」までつくりだす。

 長野県松本市周辺のリンゴ農家グループでは、防除の時、農薬を規定量の3分の2以下の濃度にしてモミ酢を混ぜる。こうして農薬の量を減らしているのだが、モミ酢の効果は減農薬だけではない。顕著なのは味の変化だ。モミ酢を散布するようになってから、リンゴが美味しくなったと感じている人が多い。グループの一人、伊藤今朝吉さん(74歳)は、6〜7年前からモミ酢を使うようになって、リンゴを宅配便で送るお客さんがいっそう増えた。モミ酢でダニも減ったが、リンゴの甘みが増したというのが伊藤さんの実感。糖度も上がるし、霜対策にもなる、という(76ページ)。

 なぜ、そんな効果があるのだろう。武田健氏((株)AML農業経営研究所)は「(木酢や食酢に多く含まれている)酢酸は、それ自体がタンパク源であり、アミノ酸の原材料である。また、酢酸はチッソ(硝酸)をアミノ酸に変える還元酵素をすでに持っているため、アミノ酸に変化しやすい。アミノ酸への変化が進んだ結果、タンパク質が合成され、葉肉が厚くなることによって、間接的に病気への抵抗力が高まる」という。小祝政明氏((株)ジャパンバイオファーム)も同様に「酢は、炭素、酸素、水素で作られているので、光合成産物(炭水化物)と同じものといえます。『タンパク質はチッソと酢で作られている』といっても過言ではないのです」と述べている。

 一方、福島県の薄上秀男氏は酢の「血液サラサラ効果」に注目する。「石灰などの養分は、体内で他の養分と結びついて不溶性になりやすい。ところが、有機酸(酢)が十分にあれば、石灰などの養分が有機酸によってキレート(カニばさみ状態)化されるので、必要なところへ安定的に移動できるようになる。細胞膜を構成している成分である石灰や、リン酸との関係が深い苦土などが移動吸収されるから、耐病性が高まるわけである」。酢は作物体内のミネラルの流れをよくするというのである(82ページ)。

酢で作物のダイエット

 酢は、体内の硝酸を同化しミネラルの流れをよくする。酢は農薬とはちがう働きがあり、それだけに使い方にも工夫がある。

 「殺菌というより、樹のダイエット」というのは、神奈川県三浦市の芹沢貞夫さん(61歳)である。「樹が太りすぎてるということはチッソ、人間でいう脂肪が多すぎるということ。そこに酢をかけるとチッソが燃焼され、樹がしまってスリムになる。硬くなる。それで病気にかかりにくくなるんじゃないの」

 そんな芹沢さんの酢(玄米酢)の生かし方は、“樹がデキすぎたら酢単体でダイエット、樹が疲れたら酢+尿素で元気付け”である。こうして作物がどんな状態になっても、酢をうまく使えば株の状態を立て直すことができる。

 農薬散布の間に酢をはさむこともある。

 「今の新しい農薬はカミソリのようなもので、切れ味はいいけど、すぐ切れなくなる。耐性菌がついちゃうんですよ」という芹沢さん、そこで、農薬をかける間に酢を単体ではさむ。こうして、よく効く農薬を長持ちさせるのである(60ページ)。

 10数年前から柿酢をつくり、健康飲料として飲んだり、料理酢として使ってきた愛知県新城市の河部義通さん(72歳)は、材料のカキは自分のところでいくらでも用意できるので、7〜8年前からは薄めて果樹園に散布している。モモの場合、県の防除暦の防除回数は一四回だが、河部さんは発芽前の石灰硫黄合剤も含めて8回。そのうち3回は柿酢を150倍に薄めて混用散布する。すると、モモはふつう10月中旬に入ると落葉を始めて11月には樹が裸になってしまうが、11月上旬まで葉が青々と繁り、下旬まで残っていたのでびっくりした。葉が遅くまで残って光合成を行なっているので、そのぶん翌年の貯蔵養分も多く蓄積され、生育もよくなる(66ページ)。

 酢を防除体系に組み込んだり、農薬と混ぜることで農薬はかなり減らせる。さらに、酢の酸にはいろんなものを溶かし込む力があり、身近な資源を生かした手づくり資材ができるのも酢の大きな魅力だ。酢そのものの殺菌力は弱いがニンニクやトウガラシを漬け込めば殺菌殺虫力がパワーアップする。カキガラを溶かしてカルシウム補給に使っている人もたくさんいる。

野菜類共通の農薬を上手に使いこなす

 酢と農薬の組み合わせ、そんな減農薬のしくみのなかで、充分に使いこなしたい農薬がある。今回の登録拡大のなかで「野菜類」共通に使えるようになった農薬だ。

 野菜類(山菜も含む)全体に使える農薬として、種子消毒用の薬剤とともに、銅水和剤(コサイドボルドー、ドイツボルドーなど)、水和硫黄剤(イオウフロアブル)、炭酸水素ナトリウム(ハーモメイト)、炭酸水素ナトリウム・銅水和剤(ジーファイン)など、有機JAS(有機農産物の日本農林規格)で使用可能な農薬が登録された。これらは残留の心配もなく、収穫前日まで使える。銅水和剤では使用回数制限もない。

 この銅水和剤について、「銅は古くから使われてきた防除薬剤でもあり、食品中への残留が問題となったこともない」と草刈眞一氏は述べている。草刈氏が所属する大阪の試験場は、「農林技術センター」から「食とみどりの総合技術センター」へと名称を変え、有機農業の推進に力を入れているのだが、有機農業にとっても銅水和剤は貴重な農薬なのである。

 銅を過剰に摂取すると毒性はあるが、銅は生物にとっては必要な元素でもあり、硫酸銅は、食品添加物としても認可されている。銅水和剤は、糸状菌、細菌とも同時に殺菌効果が期待でき、複数の病害を一薬剤で防除できるうえに、耐性菌が出現する心配がないことも利点だ。一方、「ジーファイン」は、炭酸水素ナトリウムを添加して無機銅剤の10分の1の銅濃度で安定した防除効果を実現した農薬である(222ページ)。

 マイナー作物や、飛散が気になる多品目の野菜つくりでは、これらの農薬を上手に使いこなすことも大きなポイントになりそうである。

 これらは予防薬であり、最近の新剤のようなシャープな効き目はない。そこで酢防除で病気にかかりにくい体質をつくり、これらの農薬で予防につとめ、そのうえで、気象変動など病虫害が多発しそうな時に値段も高いがよく効く農薬を使う。安上がりで、農家が安全で安心できる減農薬体系を確立していくことがいよいよ重要になっている。

減農薬にむけた小力的な「環境づくり」

 酢防除は、作物の体質を整える方法である。この間、本誌で追究している「苦土を生かした施肥改善」も、苦土によってリン酸や石灰などの肥効を高め、硝酸の体内でのダブつきを起こさない健康体質づくりの方法である。こうした「健康体質づくり」に、病虫害がでにくい「環境づくり」が加われば減農薬はさらにやりやすくなる。条件や作物によっては、無農薬栽培も可能だ。先の田代暢哉氏は、カンキツについて、マシン油や水和硫黄剤、ボルドーなど有機農業で認められた農薬に、反射シート、防風ネット、さらに枯れ枝除去などの耕種的防除を組み合わせれば、有機農業の防除体系を組むことはむずかしいことではないと提案している(206ページ)。

 今月号でも「環境づくり」の工夫をたくさん紹介した。米ヌカ防除、ムギ、ソルゴー、ヨモギなど土着天敵を増やすバンカープランツの利用、広がりをみせる防虫ネットなど、武器は豊富だ。

 施設では、湿度調節で病気が大幅に減らせることもわかってきた。湿度と光合成や病気との関係に注目している武田健氏は、葉カビ・ベト・灰色カビ・菌核病・褐斑病などは「高湿度病害」であり、ウドンコ病は「低湿度病害」だと述べている(118ページ)。武田氏の指導を受けてハウスキュウリをつくる熊本県大矢野町の鶴元正徳さんは、(1)湿度100%という過湿状態を続けない、(2)50%以下にしない、という管理を行ない、病気を大幅に減らした。換気方法や細霧の葉水などで調節するが、それとともに湿度調節で大きな働きをしているのが土であり堆肥である。堆肥投入による土の保水性・通気性の改善が湿度の変動をやわらげ、また、良質の堆肥をマルチすれば、土の表層で微生物が繁殖し、微生物が水分を利用するので土のハウス内が過湿になるのを防げる。

 米ヌカを通路にまく米ヌカ防除も、米ヌカを生かした 小力的な「土ごと発酵」方式による土つくりも、表層で微生物がよく繁殖するので湿度調節の面でも防除効果がありそうだ。

 いろんなことがつながってきた。酢防除―苦土を生かした硝酸を高めない施肥―土ごと発酵による土つくり、土着天敵の活用。これらはいずれも 小力的で女性や高齢者にむくやり方である。これに農薬や各種の防除手段を組み合わせていく。

 楽しく防除できて、おいしい作物をつくる。農家が安全で安心だから、消費者が安心する。「農薬を使っていませんか」と消費者にきかれたら、「うちではこんなふうに楽しく防除してますよ」と新しい防除の取り組みを知らせたい。

(農文協論説委員会)

(注1)農文協「ルーラル電子図書館」に「防除情報コーナー」がオープン。登録農薬情報から、診断、防除法、環境づくりまで、減農薬を支援する「防除の総合情報センタ」ーが5月、オープンします。詳しくは184ページをごらんください。

(注2)「現代農業 読者のつどい」に参加しませんか。酢防除から施肥改善による高品質・減農薬の方法まで、読者による学習・交流会です。武田健氏や小祝政明氏も講師で参加。詳しくはこちらをごらんください。

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